上枝照光さん(76)と長男の正男さん(52)=いずれも香川県三木町=は、釣りが共通の趣味だ。土曜日だった4月13日も、瀬戸大橋を望む坂出市大屋冨町の海岸で、午後8時ごろから夜釣りを楽しんでいた。

 日付が変わるころ、潮の流れが速くなり、釣り糸が沖に流されるようになった。

 「そろそろ切り上げ時か」。正男さんがそう思ったとき、暗くなった海に白いものが浮かんでいるのが見えた。

 最初は何かわからなかったが、親子でライトで照らしていると、胴体のようなものがぴくっと動くのが見えた。

 「人が流されている」。正男さんはスマホで警察に電話をかけた。海に向かって大声で呼びかけたが、反応はなく、どんどん沖合に流されていった。

 「これ以上向こうに行ったら助けられない」

 正男さんは、海に突き出た堤の先まで走ると、上着と靴を脱ぎ、海水に足をつけた。

 「冷たっ」と一瞬躊躇(ちゅうちょ)したが、無我夢中で飛び込んだ。何度も来ている釣り場だったので水深や岩場の場所はある程度はわかっていた。

 ヘッドライトで海面を照らしながら、平泳ぎで近づいた。服をつかみ、後ろから抱きかかえた。「25メートルくらい泳いだ」

 その間、土地勘のある照光さんは、スマホで警察に状況を伝え続けた。岸にたどり着いた正男さんは、到着した警察官と一緒に引き上げて、初めて女性だと気づいた。

 後日、正男さんにお礼を伝えに訪れた女性の息子によると、女性は無事だったという。

 「2人の適切な判断と勇気ある行動が命を救った」。5月20日、坂出署の細川哲男署長が親子に感謝状を贈った。

 正男さんは「賞をもらえることはなかなかないので、うれしい」とはにかんだ。(木野村隆宏)

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