生物兵器製造に転用できる装置を無許可で輸出したとして起訴され、その後取り消された「大川原化工機」(横浜市)の社長らが国と東京都に損害賠償を求めた訴訟の控訴審第1回口頭弁論が5日、東京高裁で開かれる。同社側は新たに当時の捜査メモを入手したとして証拠提出し、「立件ありきで捜査を進めた警察が事件を捏造(ねつぞう)した」と主張している。
国と都は新たに提出されたメモについて「作成者や入手経路が不明で、記載内容の正確性は全く担保されていない」と反論。捜査の違法性を認めた一審判決には「重大な誤りがある」として敗訴部分の取り消しを求めている。
一連の捜査では、警視庁公安部が2020年3月、同社の噴霧乾燥装置が軍事転用可能な輸出規制対象品にもかかわらず、国の許可を得ず輸出したとして大川原正明社長(75)ら3人を外為法違反(無許可輸出)の疑いで逮捕した。
東京地検はいったん3人を起訴したものの、初公判直前の21年7月に「規制対象に当たるか疑義が生じた」として起訴を取り消した。大川原社長ら2人の勾留期間は約11カ月に及び、顧問だった相嶋静夫さんはがんの診断後もしばらく保釈が認められず起訴取り消し前に72歳で亡くなった。
同社側は同年9月、損害賠償を求めて国と都を提訴。23年12月の一審・東京地裁判決は、複数の同社従業員が輸出規制の要件の一つである殺菌性能について具体的な疑義を挟んでいたのに再実験を行わないまま逮捕・起訴に至っており、「必要な捜査をせず漫然と逮捕した」などとして国と都に計1億6千万円の賠償を命じた。
同社側は捜査機関が立件ありきで意図的に事実関係をねじ曲げたなどとも主張したが、この点は認定しなかった。同社側と国・都側の双方が控訴した。
控訴審で同社側は警視庁公安部が作成した捜査メモの写しを新たに入手したとして証拠提出した。外為法を所管する経済産業省の担当者や担当検事とのやりとりを記録したものだとしている。
同社側は控訴理由書で、メモの内容から、経産省の担当者は「(輸出規制対象製品を定めた)省令の規定はあいまいで解釈もはっきり決めていない。違反者を罰してよいのかという不安もある」と発言するなど公安部の見解に否定的な意見を繰り返し述べていたと指摘した。
最終的に警視庁の見立てに沿う回答をしたのは「警視庁上層部が経産省上層部へ働きかけ、見解をねじ曲げさせた」ためと主張した。
担当検事も経産省の見解の変遷を把握し「不安になってきた。大丈夫か。私が知らないことがあるのであれば問題だ」などと発言していたにもかかわらず、追加捜査を行わず起訴したと強調。「合理的な判断過程に基づいたものとは言えない」と起訴の違法性を改めて訴えた。
一審判決が捜査の違法性を認めた点は評価しつつ、「公安部が意図的に事実をゆがめて立件に及んだ悪質性を認定しておらず違法性が著しく過小に評価されている」とした。
これに対して国・都側も控訴理由書などを提出し、証拠提出された捜査メモは作成者や入手経路が不明なことから「メモの存在自体からただちにメモにあるようなやりとりがあったとは認められない」と反論している。
一審判決についても聴取した同社従業員50人以上の意見の多くが捜査結果と辻つまが合うものだったことなどを考慮せず、逆算的に結論を導き出しているとして内容に誤りがあると主張した。
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