旧優生保護法(1948〜96年)下で不妊手術を強制されたのは憲法違反だとして、全国の障害者らが国に損害賠償を求めた5件の訴訟の上告審弁論が29日、最高裁大法廷(裁判長・戸倉三郎長官)で開かれた。原告側は「国が障害者を差別し、尊厳を否定してきたことが認められなければ被害は終わらない」「被害者みんなの人生を救う判決を書いてください」と訴えた。国側は請求棄却を求め、結審した。(太田理英子)

◆20年経過しているから損害賠償請求権がないと国は主張

 不法行為から20年が経過すると損害賠償請求権が消滅する「除斥期間」を適用するかが争点。各訴訟の高裁判決は判断が分かれている。最高裁は夏にも判決を言い渡し、統一判断を示す見通し。

 除斥期間 法律上の権利を使わないまま過ぎると、その権利が自動的に消滅する期間。証拠資料がなくなったり、関係者の記憶が薄れたりする前に法律関係を確定させるためとされる。民法が定める時効とは異なり、原則として中断や停止は認められない。不法行為による損害賠償請求権では20年で、過去の最高裁判例で確立した。被害者らが不法行為や損害を認識していなくても進行し、薬害や公害の訴訟などで争点となってきた。2020年施行の改正民法で、進行が止まることもある時効に統一されたが、改正前の行為や損害などには適用されない。

旧優生保護法訴訟上告審弁論の前に最高裁正門前で横断幕を掲げる原告、弁護団ら

 原告側は、旧法が助長した差別と偏見の中で声を上げることは困難で「時の経過のみを理由に責任を逃れることは許されない」と主張。除斥期間を適用することは「著しく正義・公平の理念に反する」とした。  国側は「国は原告が権利行使を不能または著しく困難にするよう積極的に関与しておらず、差別解消の取り組みをしていた」と強調。除斥期間を適用しない事情は認められないと反論した。  大法廷の審理対象は、聴覚障害や知的障害を理由に不妊手術を強制されたとして、60〜90代の男女12人が東京や大阪など5地裁に起こした訴訟。原告のうち2人は提訴後に死去した。  最高裁は多くの障害者の傍聴が見込まれるとして、手話通訳者を配置するなど特別な対応を取った。 

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