上告審弁論のため、最高裁に向かう原告と弁護団(29日、東京都千代田区)

旧優生保護法下で不妊手術を強制されたのは憲法違反だとして、被害者らが国に損害賠償を求めた5件の訴訟で、最高裁大法廷(裁判長・戸倉三郎長官)は29日、上告審弁論を開いた。国は手術から20年以上が経過し損害賠償請求権は消滅したと主張。被害者側は救済範囲の拡大を求めている。判決期日は追って指定される。

旧民法は不法行為に対する損害賠償請求権が消滅する「除斥期間」を20年と定めている。今回の訴訟は除斥期間を適用するかどうかが最大の争点で、最高裁大法廷が今夏にも示す統一判断が注目される。

強制不妊手術を巡る訴訟は2018年以降、被害者ら39人が全国12の地裁・地裁支部に起こした。最高裁で審理されるのは大阪、東京、札幌、神戸、仙台の5件の訴訟。弁論は29日午前と午後に分けて開かれ、各訴訟の原告や代理人弁護士が意見を述べる。

5訴訟の高裁判決はいずれも旧優生保護法に基づく手術を憲法違反と断じた一方、救済を巡る判断は割れている。

大阪や東京など4件は「除斥期間の適用を認めることは著しく正義・公平の理念に反する」として除斥期間を適用せず、国に賠償を命令。手術を受けた人への賠償額については救済法で支給される320万円を上回る金額を示し、最大で1650万円に達した。

23年6月の仙台高裁判決(仙台訴訟)のみ、除斥期間を適用して国の賠償責任を認めなかった。

過去に最高裁が除斥期間の適用を認めなかったケースは2例しかない。予防接種の後遺症を巡る1998年の判決は接種を原因とする心神喪失で自ら訴訟を起こせなかったなどと判断した。2009年には、殺人事件の発生から26年後に自首した加害者に対して被害者遺族が起こした訴訟で除斥期間を適用しなかった。

いずれの判決も「著しく正義、公正の理念に反する」ことを根拠とした。

除斥期間を適用しない場合には被害者の救済範囲が焦点となる。高裁段階で国の賠償責任を認めた4件の訴訟も考え方は割れている。

除斥期間が適用されない期間について、大阪高裁(大阪訴訟)は「訴訟を起こすための情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境が解消されてから6カ月」と示した。札幌高裁(札幌訴訟)は「提訴に必要な情報を得ることが困難な状況が解消されてから6カ月」とした。

一方、東京高裁(東京訴訟)は「被害者への謝罪や一時金支給を盛り込んだ救済法が施行された19年4月から5年間」、神戸訴訟の大阪高裁判決は「国が憲法違反と認めたとき、または違憲とする判決が最高裁で確定してから6カ月」と期限を明示した。

▼旧優生保護法 「不良な子孫の出生防止」をうたって1948年に制定された議員立法。知的障害や精神疾患、遺伝性疾患などを理由に、本人の同意を得ずに不妊手術を強制的に受けさせることを認めた。
国会の調査報告書では、母体保護法に改正され手術に関する規定が削除された96年までの間、同意のあった人も含めて約2万5千人が手術を受けた。このうち約1万6千人は同意がなかったという。
19年4月、被害者に一時金として一律320万円を支給する救済法が施行された。当初は請求期限を24年4月としたが、29年4月まで延長された。こども家庭庁によると、支給認定を受けた人は24年4月末時点で1102人にとどまる。

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