優生保護法(1948~96年、旧法)の下で不妊手術を強制されたのは憲法違反だとして、障害者らが国に損害賠償を求めた5件の訴訟の上告審弁論が29日午前、最高裁大法廷(裁判長=戸倉三郎長官)で始まった。弁論は当事者双方の意見を聴く手続きで、午前中に2件が、午後に3件が審理される。判決は今夏にも言い渡される。

 旧法は「不良な子孫の出生の防止」を目的に、障害や特定の疾患がある人に対し、強制的に不妊手術を行えると規定していた。96年に廃止され、2018年以降、全国12地裁・支部で同種訴訟が起こされた。

 旧法の違憲性とともに、賠償請求権が20年で消滅する「除斥期間」を、旧法に基づく手術に適用してよいのかが大きな争点になった。当初は旧法は違憲としつつ、除斥期間を適用して原告の請求を退ける判断が続いたが、22年に大阪、東京の両高裁が相次いで「適用は正義に反する」と判断。以降は除斥期間を適用しない判断が続き、これまでに高裁で6件、地裁で5件が国に賠償を命じた。

 大法廷は、札幌、仙台、東京、大阪の4高裁が先行して判決を出した5訴訟を審理する。いずれも旧法は違憲と判断したが、仙台高裁の訴訟のみが除斥期間により「請求権は消滅した」として原告敗訴とした。他4訴訟は除斥期間を適用せず、国に賠償を命じている。

 この日の弁論は、原告のほかに、障害がある当事者が多数傍聴を希望。大型モニターでの要約筆記の投影や手話通訳の配置などの措置がとられた。(遠藤隆史)

1948年 「不良な子孫の出生防止」などを目的にした優生保護法が議員立法で成立

1952年 遺伝性疾患などに限られていた強制不妊手術の対象が、精神疾患や知的障害に拡大

1955年 手術実施数が年1982件とピークに

1996年 優生保護法が母体保護法に改められ「不良な子孫の出生防止」に関わる条項は削除

2015年6月 約50年前に手術を受けたとして宮城県の女性が日本弁護士連合会に人権救済の申し立て

2018年1月 宮城県の別の女性が国に損害賠償を求め、仙台地裁に全国初の提訴。提訴は相次ぎ計12地裁・支部で裁判に

2019年4月 手術の被害者に一律320万円を渡す一時金支給法が成立

2019年5月 仙台地裁で全国初の判決。旧優生保護法は違憲と認める一方、除斥期間を理由に賠償請求は退ける。各地の地裁で同様の判断が続く

2022年2月 大阪高裁が、旧法は違憲とした上で除斥期間の適用を制限し国に賠償を命じる(①)。同種訴訟で初の原告勝訴

   3月 東京高裁も国に賠償を命じる判決(②)

2023年3月 札幌高裁と大阪高裁で国に賠償を命じる判決(③④)

   6月 仙台地裁で19年に判決があった訴訟の控訴審で、仙台高裁が再び国への賠償を認めない判決(⑤)

   11月 ①~⑤の訴訟の上告審で最高裁が審理を大法廷に回付

2024年3月 一時金支給法の請求期限を5年延長

2024年5月 最高裁大法廷で弁論

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