「先生の診察を受けたのは、最初のころと後は年に1回だけ。毎月1回、薬をもらいにだけ行っていました」 埼玉県内に住む70代の女性は20年ほど前から高血圧と脂質異常症の治療を続けている。以前に通っていた地元の診療所(20床未満の医療機関)で、診察は健康診断のときだけだった。
◆薬は電話で頼み薬局でもらうだけ
「薬は受付に事前に電話で頼んでおいて、後で院内薬局でもらいます。胃の調子が悪いときなど『診察をお願いします』と言うと、診てもらえました」 残っていた領収書を見せてもらうと、「再診料73点」(1点10円、730円)と「医学管理料235点」、院内処方の投薬の料金が記載されていた。女性が毎月1回通院していた診療所の領収書。診察を受けなくても毎回、医学管理料(235点)を取られていた(一部画像を加工)
「医学管理料というのは何か分からなかったけど、毎回取られていました。診療明細書は見ずに領収書の金額だけを見て、いつも同じだとは思っていました」◆地域のかかりつけ医が長期的体調管理するために
医学管理料の235点は「特定疾患療養管理料225点」と、院内処方の薬の文書説明にかかる「薬剤情報提供料10点」だ。 特定疾患療養管理料とは高血圧やぜんそくなどの病気を抱える患者に、「地域のかかりつけ医が計画的に服薬や運動、栄養など療養上の管理や指導を行ったとき」に算定(請求)できる。治療計画を立てて、指導内容をカルテに記載することが算定要件となる。 対象となるのは、他に糖尿病や狭心症、胃炎など国が定める約30の疾患。単に薬を処方するだけではなく、全身の状態を長期的に管理することが重要だ。 女性は当時60代で3割負担だったため、同管理料の窓口負担分として毎回680円を上乗せされた。1年に1回しか診察しない女性のケースで、同管理料の算定は適正なのか。厚生労働省の担当者が言う。 「医師法には、診察せずに治療や処方箋を交付してはならないという規定がある。患者を診ないで薬を処方しているのであれば報酬の算定以前の問題。全く診察していなければ医学管理もできず、報酬の算定は適当ではないと考えられる」◆「カルテ書かず指導もせず、管理料取る医者がたくさんいる」
東京都内のベテラン開業医は「厚生局の監査で、カルテに何も書かない事例が見つかっている。病名さえ付けば、指導もせずに管理料を取っている医者がたくさんいる」と証言する。 厚労省のデータベースによると、2022年5月1カ月間の高血圧、脂質異常症、糖尿病の三つの生活習慣病にかかる特定疾患療養管理料の算定回数は1264万回(約284億円)。全体の97.8%を占めた。点数は診療所が225点と最も高く、100床未満は147点、200床未満は87点。かかりつけ医を対象とすることから200床以上の病院は算定できない。 そのため同管理料は長い間、診療所・クリニックの「聖域」とされ、収入の柱となってきた。その聖域が6月から見直される。次回は私たち患者や医療現場に、どんな影響をもたらすのか考える。(杉谷剛が担当します)診療報酬 治療や検査、入院、薬の処方など医療機関や調剤薬局が患者にする医療行為の値段。5000種以上に細かく分かれ、2年ごとに国が定める。医科、歯科、調剤の3つに大別される。年末の予算編成時に薬価と合わせて改定率が決まり、翌年に厚生労働省が診療報酬点数(1点10円)を付け、6月から施行する。
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