旧優生保護法(1948〜96年)下で不妊手術を強制されたのは憲法違反だとして、全国の障害者らが国に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁は29日の審理で、手話通訳者の配置や、法廷での口頭でのやりとりを文字にしてモニターに映すなど、障害者に配慮した異例の態勢を整える。傍聴人向けには、訴訟の概要を説明した資料の点字版を初めて用意する。(太田理英子)

◆要約モニター設置、車いすスペース拡大

 原告は東京や仙台など5地裁に提訴した男女12人で、聴覚障害者や知的障害者らがいる。大法廷(裁判長・戸倉三郎長官)で原告、国双方の意見を聴く弁論があり、夏にも判決が言い渡される見通し。障害のある人が傍聴することも見込まれ、原告側弁護団などが最高裁に配慮を求めていた。

最高裁が初めて作った傍聴人向けの点字版資料

 法廷内では、原告席と傍聴席から見える位置の計3カ所に原告側が手配する手話通訳者を配置。口頭でのやりとりをその場で文字化する要約筆記者も認め、可搬式モニター2台にその文字を映す。大型モニター4台には、原告側、国側の双方の主張を記した資料を映す。車いす利用者の傍聴席は、通常2人分だが、傍聴席後方を10人ほど利用できるようにする。

◆下級審への波及「個別具体的に判断」

 傍聴人に配る裁判の概要や争点をまとめた資料は、平易な言葉にしてふりがなを付け、初めて点字版も作成。法廷の外では傍聴券交付時の案内などのため、裁判所としては全国で初めて手話通訳者を手配し、職員も筆談ボードなどを使って対応する。  最高裁は「原告側と協議を重ねた上で、積極的対応をすることにした」という。地裁、高裁での対応への波及については「(各裁判所が)事件内容や庁舎構造を踏まえ、個別具体的に判断すること」としている。

◆通訳に公費負担なし「非常に遺憾」

 最高裁の対応について、訴訟関係者らからは「前進だ」と声が上がる一方、傍聴人のための手話通訳者らを原告側が手配することになったことには、「障害者が障害のない人と同水準で司法参加できるようにすべきなのに、差別的だ」と厳しい批判が出ている。

「障害者の権利保障のため、手話通訳者は公費負担とすべきだ」と訴える優生連のメンバーら

 「初めてのことで試行錯誤しながらできるだけ配慮し、対応してくれた」と、原告側弁護団の関哉直人弁護士。ただ、法廷内の手話通訳者らの公費負担が認められず、「非常に遺憾。今後の裁判でも引き続き要請したい」と話す。

◆「情報保障」が遅れている日本

 今回、傍聴人のための手話通訳者や要約筆記者を手配したのは、一連の訴訟を支援してきた「優生保護法問題の全面解決をめざす全国連絡会」(優生連)。優生連によると、地裁や高裁での審理でも、原告や傍聴人向けの手話通訳者の配置は認められても、公費負担となった例はない。  優生連の藤井克徳共同代表は23日の記者会見で「障害者排除が原点にあった優生保護法問題を裁く司法府として、まともな対応なのか」と批判。障害者の司法へのアクセスが法的に保障されている米国などと異なり、日本では障害の有無に関係なく必要な情報にたどり着ける「情報保障」が遅れていると指摘。「人権のとりでとして、最高裁は障害者の司法参加においても歴史的判断を」と求めた。 

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