窒息や乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクがある子どものうつぶせ寝を防ぐため、睡眠中の見守りに人工知能(AI)の活用が始まった。保育士との二重のチェックで予期せぬ事故から幼い命を守る。業務の効率化で事務作業の負担が減り、子どもたちと向き合う時間を増やせる期待もある。(押川恵理子)

 AIカメラ 撮影された映像を人工知能(AI)で分析する機能を持つカメラ。人の顔や身体の動きなど、特定の画像やパターンを検出し、判別できる。海水浴場の混雑状況を評価してネットに公表したり、ニセ電話詐欺を防ぐためにATMの前で電話をかけようとすると警告音で職員に知らせたりするなど、活用が進んでいる。大量のデータを学習することで状況把握の精度が高まるとされる。

◆1台で同時に12人までの見守り

天井に設置され、園児を見守るAIカメラ=10日、東京都港区で(五十嵐文人撮影)

 東京都港区の「にじのそら保育園芝浦」で、0〜2歳の園児9人が横になって寝息を立てていた。天井から小型カメラが、様子を撮影している。  AIには、1億枚超の乳幼児の画像を学習させている。撮影した寝姿は、うつぶせ、横向き、あおむけなどと即時に解析。うつぶせ寝が50〜60秒続くと、アラームで保育士に知らせる。1台で同時に12人までの見守りが可能だという。

◆乳幼児の睡眠中の死亡事故はなくなっていない

死亡事故報告件数

 こども家庭庁によると、2015〜22年の8年間で乳幼児が保育施設で睡眠中に亡くなった事故は計41件で、水遊びや食事中などを含めた死亡事故全体(計65件)の6割を占める。昨年12月は世田谷区の認可外保育施設で、睡眠中の生後4カ月の男の子が亡くなった。  国などは保育施設に、医学的な理由で医師がうつぶせ寝を勧める場合以外は、あおむけ寝の徹底を求める。睡眠中は、保育士が乳幼児のそばで顔色などを観察し、記録をつけなければいけない。

タブレットにAIカメラからのデータがリアルタイムで送られてくる(一部画像処理)

 都は、睡眠中の子どもの姿勢や顔色、呼吸の有無などについて0歳児は5分おき、1〜2歳は10分おきの確認と記録を保育施設に推奨している。これまでは、保育士が手作業でタブレット端末に各項目を入力していたが、AIを使えば自動的に記録することもできる。  昼寝の時間、寝付けない子を抱っこしたり体をなでたりと保育士は忙しい。にじのそら保育園芝浦の保育士、石川瑞葵(みずき)さん(25)は「記録作業の負担が減った分、子どもたちの世話ができるようになった」と喜んでいた。

◆「職員とのダブルチェックで事故を防ぎたい」

天井に設置されたAIカメラ

 システムは、国立研究開発法人理化学研究所(理研)発のベンチャー「リケナリシス」が開発した。昨年8月、首都圏の各地で導入がスタート。カメラやタブレット端末、工事費を含めて初期費用は約50万円。月額利用料は園児12人まで1万円。国・自治体の補助金が使える。遠隔管理で、将来は全国への普及を図りたいという。大関敏之代表取締役(56)は「保育士が子どもたちにもっと寄り添える環境をつくりたい」と話していた。  一方で、AIに頼りっぱなしではいけないと指摘する声もある。大妻女子大の石井章仁准教授(保育学)は「AIはヒューマンエラーを防ぐことに役立つ。ただ、あくまで保育士を補助する道具であり、人間の代わりにはなりえない」。にじのそら保育園芝浦の岩田将悟園長(32)も「AIに任せきりでなく、職員とのダブルチェックで事故を防ぎたい」と話した。 

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