埼玉県久喜市で長く印刷業を営んできた社長が「第二の創業」に選んだのは、障害者福祉事業だった。既成概念にとらわれない経営を掲げ、拠点を増やしている。

 障害者のグループホームを運営するNPライフケア代表の中村有更(なりつぐ)さん(48)は、旧菖蒲町出身。実家は1975年創業の印刷業だ。

 家業を継いだが、紙の需要が減るなか、新たな経営の道を探ろうと、2018年に「中村コミュニケーションズ」と社名を変え、20年に子会社のNPライフケアを設立した。

 原点は子どもの頃の経験だった。小さい頃、自宅の周りには障害を抱えた人たちが多く暮らしていて、近所の人たちが手助けするのが日常だった。「障害者だからではなく、目の前で困っている人がいたら助ける、というのが私の行動基準」と話す。

 中学2年の国語の授業で「障害者について書きなさい」という課題が出た。大半の生徒が「いじめない」「優しくしたい」などと書くなか、中村さんは「この出題がかえって障害者を意識させることになる」と問題提起した。そうした思いが福祉事業への歩みを促した。

 障害者グループホームの運営を全国展開しているアニスピホールディングス(東京)とフランチャイズ契約し、20年12月に軽度障害者向けのグループホーム「プレミアムわおん久喜本町」の運営を始めた。

 運営の理念や各部屋の装備品などはオーナーの裁量に任せられている。中村さんは「自分の子供を住まわせたいと思うグループホーム」を掲げる。いまでは10棟71部屋にまで増えた。

 ホームの特徴は、殺処分される前の犬や猫を預かって保護し、障害者とともに過ごす時間を大切にしていること。犬や猫と一緒にいることで人が癒やされる「アニマルセラピー」の効果も期待している。

 中村さんは「福祉のプロではないからこそ、既成概念にとらわれないグループホームをつくっていきたい。障害者だから、という線引きをしない地域社会をつくりたい」と言う。

 特別支援学校の元職員で、いまは中村さんの福祉事業を支え、ともに働く門井真弓さん(43)は「(中村さんの)マメな性格も福祉事業にはピッタリだと思います」と太鼓判を押す。(佐藤太郎)

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