南海トラフ地震を起こす地下の震源域付近で、大量の水素ガスが生じていることが、北海道大、岡山大などの研究グループの研究で分かりました。同トラフ沿いに広く埋蔵されているメタンの原料になっている可能性があるといいます。  南海トラフの周辺の海底にはメタンが水分子と結びついて氷状になったメタンハイドレートが多く埋蔵されていることが分かっています。その量は静岡、愛知、三重沖だけで1兆1千億立方メートル(日本の天然ガスの年間消費量の約10倍)とも見積もられています。  また、南関東一帯の地下水の層には膨大な量のメタンが溶けており、天然ガスの生産が行われています。これらの多くがメタン生成菌によってつくられた「微生物メタン」と考えられますが、その材料が謎でした。  メタン生成菌がメタンをつくるには、二酸化炭素(CO2)と水素が必要です。CO2は海水や地下水などに多く含まれますが、水素がどこからくるのか分かりませんでした。グループでは、海底に積もった有機物(プランクトンや魚などの死骸)の分解に着目しました。  南海トラフでは、陸側の岩盤(ユーラシアプレート)の下に、海底の岩盤(フィリピン海プレート)が沈み込んでいます。このとき岩盤と一緒に海底の有機物も地下深くに沈み込み、地下の高温と高圧で分解されます。グループでは岩石試料をもとに、その過程を分析しました。  四国には、数千万年以上前に南海トラフと同じように海底の岩盤が沈み込む場所の地下にあった岩石が隆起して地上に現れている場所があります。その岩石の構造や内部に残されたわずかなガス成分などを分析し、過去にどれぐらいの高温にさらされて、どんなガスが出たかを調べました。  すると、220度以上になった場所では水素が発生しており、その深さは15~30キロで南海トラフ地震の震源域付近と分かりました。  水素ガスの分子は非常に小さいので、岩盤の中を通り抜けていく力が大きく、南海トラフの沈み込み帯付近に広く分散し、微生物のメタン生成の材料になっているのではないかとみます。グループの鈴木徳行・北海道大名誉教授は「有機物の分解のほかに、岩石と水の反応などでも水素ガスが生じていると考えられる。日本は地下の水素大国といえるのではないか」と話します。 (永井理)


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