能登半島地震の影響で、石川県奥能登地域の民家で4~5月に深紅の花を咲かせる「のとキリシマツツジ」の生育が心配されている。住民の避難が長期化し、世話をする人がいなくなっているためだ。専門家は「1年ほどなら枯れることはないが、数年単位で世話ができないと影響が出る」と懸念する。(長屋文太)

2023年春、仲泉哲郎さん宅で満開を迎えたときののとキリシマツツジ=いずれも石川県輪島市里町で(仲泉さん提供)

◆民家の庭など無料公開する「オープンガーデン」

 キリシマツツジは江戸時代に全国に広まった園芸種。奥能登地域には樹齢100年以上の古木が500本以上残り、能登独自の3品種を含む計10品種がある。古木の多さや品種の豊富さは全国屈指で、奥能登の春の風物詩となっている。昨年はのとキリシマツツジを育てている民家など62カ所で、花の見ごろに合わせて庭を無料開放する「オープンガーデン」を実施した。  保全活動に取り組む団体「のとキリシマツツジ連絡協議会」(石川県能登町)の今正広(いままさひろ)事務局長(73)によると、育てるには日当たりや湿度に応じた適切な水やり、防虫と駆除、雪の重みで折れないように枝を支柱に縄でしばる「雪囲い」などが必要。協議会によると、昨年のオープンガーデン実施場所のうち少なくとも13軒で、住民が金沢市などの遠方に避難し、世話が難しくなっている。

◆人の手が欠かせない園芸種「今はそれどころじゃない」

地震で石垣が崩れた仲泉さん宅の庭

 地震で孤立した後、住民が集団避難した同県輪島市南志見(なじみ)地区の仲泉哲郎さん(67)は、金沢市の避難先から週1度、家の片付けやキリシマツツジの手入れに通う。「家はとても住める状態じゃない」と話す。今事務局長は「このままだと、のとキリシマが減ってしまうかもしれないが、今はそれどころじゃない人が多い」と複雑な心境を明かす。  今年のオープンガーデン開催のめどは立っていない。仲泉さんは「家にブルーシートがかかった状態では、見に来てもらうのは難しいだろう」と話す。  新潟県立植物園の元園長の倉重祐二さんは「冬から春のキリシマツツジは休眠中。特段の手入れは必要ない」とし、今年は例年通り花が咲くと予想する。一方で「問題はこれから。園芸種なので人の手が欠かせない」と指摘する。多くが個人宅に植えられており「人手や費用の問題について所有者の意向を聞き、必要な対応を検討する必要がある」と指摘している。

キリシマツツジ 鹿児島県の霧島山が原産とされるツツジ。江戸時代に園芸用として日本中で流行した。理由は不明だが、能登地方の多くの民家で大切に守り育てられ、日本屈指のキリシマツツジの集積地になった。能登独自の3品種を含む計10品種が「のとキリシマツツジ」と呼ばれている。



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