海洋などに流れ込んで蓄積するプラスチックによる汚染を防ぐため、国連で条約づくりの政府間交渉が行われている。プラスチックの生産量は世界的に増加し年間4億トン以上。2060年には3倍に増えるとの予測もある。環境や生物多様性、人の健康を守れるのか、地球規模での取り組みは待ったなしの状況だ。(編集委員・鈴木久美子)

◆地球温暖化に並ぶ深刻さ

 法的拘束力のある条約締結に向け、協議を始めることが決まったのは、22年3月の国連環境総会。193カ国が合意した。地球温暖化防止や生物多様性の確保と並んで世界的な対策が必要と判断されたのは、それだけプラスチック汚染が深刻で、全体で手を打たなければさらに悪化するからだ。  国連環境計画(UNEP)が昨年5月に出した報告書「Turning off the Tap(蛇口を閉める)」によると、プラスチックの需要は1950年代から急増し、近年は年間生産量4億3000万トンのうち3分の2以上が使い捨て製品だった。ごみの量も年々増え、2020年に使い捨てプラスチックのうち約1億700万トンは管理が不十分で環境中に流出していた。

◆有害物質を吸着して健康被害

 直径5ミリ未満の微小なマイクロプラスチックは、海洋中の生き物が誤って食べて体内に取り込むほか、最近の調査では人の母乳や血液からも見つかった。マイクロプラスチックは有害な化学物質を吸着しやすい。製造工程や廃棄物処分場の労働者、近隣住民の健康への影響など汚染による社会的、環境的コストは年間3000億~6000億ドルに上るとされている。  経済協力開発機構(OECD)の22年の報告では、19年の推定でプラスチックごみ3億5300万トンのうち5500万トンはリサイクル用に回収されたが、2200万トンは残留物となり、さらに処分が必要となった。リサイクルされたのは9%にとどまった。  北欧の政府間組織「北欧閣僚会議」の報告では、適切に管理されないプラスチックごみは今のままでは40年に19年比で86%増加するが、製造から販売・消費、廃棄物管理までプラスチックのライフサイクル全体で対策をとれば19年比で90%減らせるとしている。  UNEPは「使い捨て経済から、循環型社会へ」の転換が必要と報告書で指摘する。

◆製造過程の規制が鍵だけど 割れる各国

 条約制定に向けた政府間交渉委員会は一昨年11月に始まり、今年末までに計5回開いて条文を策定し、25年に採択する予定だ。第1回会合には日本政府代表団を含め約150カ国の国連加盟国や非政府組織(NGO)などから約2300人が参加。これまでに3回の会合を終えたが、各国の考えが対立し、意見の集約は難航している。  各国で意見が分かれているのは、主に1次プラスチックポリマー(石油からつくるプラスチックの原料)の生産や、製造に使われる添加剤などの化学物質を規制するかどうかだ。途上国を支援する新たな基金をつくるかどうかも懸案となっている。  会合に参加している環境NGOグリーンピース・ジャパンの小池宏隆さん(30)によると、関心の高い欧州連合(EU)や大量のプラスチック廃棄物が持ち込まれているアフリカ、温暖化の影響を受ける島しょ国、南米などは全体的に厳しい対策を求め、生産規制にも積極的だ。会合では世界的な削減目標を設定し、各国に削減義務を割り当てる強い提案も出ているという。

◆「日本は消極的」

 一方、産油国は生産規制に反対し、米国は世界共通の規制に反対の立場。日本も、各国の事情に応じてリサイクルなど他の対策が効果を生じない場合に検討すべきだとの考えだ。「日本は一部の途上国よりも消極的です」と小池さんは批判する。  ペットボトルから自動車用部品まで用途が幅広いプラスチックは原料や構造もさまざまで、環境や健康への影響などはほんの一部しか解明されていない。未知の被害を防ぐためにも実効性のある対策が強く求められる。4月下旬には第4回会合が開かれる。  「根本的な課題解決は、急拡大するプラスチックの製造をどう規制するか。そこに対応できるかどうかが条約に期待されている。『廃棄物管理条約』に終わってしまっては失敗です」と小池さんは指摘する。 

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