能登の海岸線に自生する松を描いた作品を前に思いを語る西のぼるさん=石川県白山市で
◆「死に組み敷かれたままではいけない」
珠洲市は震災で100人以上が命を落とした。石川県白山市在住の西さんは難を逃れたが、3人の親族が津波にのまれたり、倒壊した建物の下敷きになったりして犠牲に。悲報に触れた西さんは、しばらくストレスで絵が描けなくなったという。しかし「『死』に組み敷かれたままではいけない」と前を向いたとき、被災者の置かれた境遇に心が痛み、「苦しみに寄り添いたい」と思い立った。 西さんは子どものころ、竹細工師の祖父と父が立て続けに死去。夜、海鳴りが地面を伝うように枕元に聞こえると、「命が取られる」とおびえ母にしがみついたという。明るい色調でも陰りがある作品の背景には、「珠洲で育った体験がある」と自覚している。苦境にある古里への思いは強く、「今回のチャリティーを通じて犠牲者や今も苦しむ避難者らの境遇に思いをはせ、自らの生きる意味をも振り返ってもらえれば」と願いを込める。 作品は能登の松林の風景を3点一組にしたアクリル画7セットと、過去に「三国志」に寄せた版画、東京新聞と同じ中日新聞社が発行する北陸中日新聞に連載したエッセーの挿絵など計13点。東京の販売代理店を通じて35万~80万円で販売し、収益を珠洲市と輪島市に寄付する。詳細は特設サイトで。 ◇ ◇◆北方謙三さん「能登の松林に、悩みや苦しみを重ねたのでは」
西のぼるさんの作品の魅力を語る北方謙三さん=東京都港区で
西のぼるさんとは35年来のつきあいだ。きっかけは南北朝時代の懐良(かねよし)親王を主人公に小説を書いた時。西さんが描いた、かがり火だけの暗闇の中を舟のへさきに立ち、なぎなたを持つ親王の覇気にただならぬものを感じた。それからは、半分以上の仕事で西さんに挿絵を頼んできた。 原稿を渡すと、表現を極限まで突き詰めた挿絵で張り合ってくる。激しかったり、深かったり、切なかったり。ちくしょう次こそはと私も熱が入り、想像力がぶつかり合う。西さんは友人というより、同じ表現者として得難いライバルだ。 能登の松林の絵はすごい。国宝の松林図屛風(びょうぶ)を描いた長谷川等伯の影響は受けただろうが、まねはしていない。西さんは、必要以上に思い悩み、苦しみながら表現してきた。松林にそんな自身を重ねているのではないか。見る側としても、自分のさまざまな思いを託すことのできる絵だ。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。