フィリピン先住民が暮らすルソン島の山岳地帯の寒村ブスカランに世界中から観光客が押し寄せている。自称107歳で「世界最高齢の入れ墨師」とされる女性ワンオド・オッガイさんに“伝説”のタトゥーを入れてもらうためだ。部族間の戦闘が禁じられた後、戦士に施されていたタトゥーが消えゆくのを防いだとして英雄視され、村人総出でビジネスが過熱している。(共同通信=佐々木健)
「ワンオドの村へようこそ」との標識に従い、車で山を登っていくと谷の対岸に村が見えてきた。「ガイド」待合所で停車。指示通り、村人を千ペソ(約2700円)で雇った。村は車道が通じておらず、村人の先導で約20分かけて渓谷を下り、登り返した。
ワンオドさんの自宅前には観光客が列をなしていた。高齢のため、以前のように複雑な文様は彫れない。観光客は300ペソを払って肌に三つの点を入れてもらい、100ペソを追加して一緒に記念撮影を楽しむ。
入れ墨は先住民の男性が戦士として認められるための儀礼だった。木のとげを使い木炭の墨を入れる技法は昔と同じだ。
施術を受けた米国人マシュー・スグさん(31)は「米国で雑誌VOGUEの表紙を彼女の写真が飾り、先住民最後の入れ墨師だというので来たくなった。彼女のエネルギーはすごい」と興奮していた。
村人は民泊で潤い、家の天井や柱には観光客が残した署名がびっしり。あちこちで住宅の新・改築が進む。土産物屋にはワンオドさんの肖像のTシャツが並んでいた。
ツアーガイドのレム・リーさん(42)は「村は貧しかったが、観光客が来て変わった。私は2015年から村に通い始め、毎週末、12人乗りの車でマニラから客を連れてくる。もちろんビジネスは好調だ」と話した。
ワンオドさんが公認する弟子は2人。一番弟子のグレイス・パリカスさん(27)は、タトゥーを教えてもらったのは9歳の時だと振り返った。ワンオドさんは村で唯一の入れ墨師になっていた。
先住民伝統のタトゥーの評判が広がり、人口約800人の村に「週末には約千人の観光客が訪れるようになった。おかげで村人全員がタトゥーに関わっている」と語った。「村の入れ墨師は100人以上になった。彼らは独学で学んでいる」
マルコス大統領は2月14日、軍ヘリコプターを派遣してマラカニアン宮殿にワンオドさんを招き、伝統保護に貢献した「国宝」として表彰した。
アーティストとして名声を確立したワンオドさんにインタビューを申し込んだが、近親者から5千ペソを求められ断念した。
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