ベルリンの壁は、第2次世界大戦後の東西両陣営の対立を背景に、旧西ベルリンの周囲およそ160キロに渡って築かれました。
旧東ドイツで民主化を求める市民の動きが高まったことを受けて1989年11月9日、当時の指導部が出国の自由を発表したのをきっかけに壁は東西の市民によって壊されました。
当時、東側陣営の民主化運動に先べんをつけ、壁の崩壊の原動力ともなったと評価されるのがポーランドの自主管理労組「連帯」で、その活動をいまに伝える地元の博物館の館長で政治学者のベイゼル・ケルスキ氏が8日、NHKのインタビューに応じました。
ケルスキ氏は、壁が崩壊した歴史的な意義をあらためて強調した上で自国第一主義を掲げ、多様性などを否定する極右政党がヨーロッパで台頭している現状を取り上げ「残念ながらいま私たちはまったく別の世界に生きている」と懸念を示しました。
また、トランプ氏が大統領選挙で勝利したアメリカについて「人権の尊重や国際的な連帯も重要な問題ではなくなる」と述べた上で、ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領については「NATOの結束が安定しているかを見極めようとするだろう」としてアメリカが世界を不安定化させるおそれがあると危機感を募らせました。
そして、ケルスキ氏は「私たちはいっそう無秩序な状況の中にいる。自由や民主主義に基づく秩序を構築したい側と、世界を勢力圏に分けることに関心を持つ大国との分裂が生じている。私たちは、なぜ人権や平和を重んじるのかを再び説いていかなければならない」と述べ、ベルリンの壁の崩壊が広めた民主主義や自由な価値観を守り続ける重要性を強調しました。
壁があった場所には5000枚の記念のポスター
壁の崩壊から35年となったベルリンでは、当時壁があった場所やいまも壁が残る場所に市民などが描いた5000枚の記念のポスターが展示されています。
「戦争より平和を」とか「ウクライナはヨーロッパの民主主義を守っている」など自由や民主主義の大切さやウクライナ支援を訴えるメッセージがみられ、訪れた人は、ポスターに見入っていました。
かつての西ベルリンに住んでいる65歳の女性は「あのときは大勢の人が現場に集まり壁の崩壊を祝った。西ベルリンから東ベルリンを往復したこともあった。何か新しいことが始まるという希望を抱いた」と話していました。
また、壁によってベルリンに住む親族が東西に分断されていた55歳の女性は「祖母や親族と会えるようになり、すばらしい出来事だった」とふり返った一方、「民主主義は力強さを増すと思ったのにどんどん間違った方向に進んでいて、考えさせられる」と話しアメリカやドイツなど各国で政治的な分断が深まり、ウクライナなどで戦闘が続いていることに懸念を示していました。
25歳の女性が作成したポスターには気球の絵とともに「自由が危機に陥っている」とかかれています。
壁が崩壊する前に当時の東ドイツから自由を求めて手作りの気球で西側に逃れたという人の実話をもとにしたもので、当時の人が追い求めた自由な価値観がいまは危機に直面していると訴えたということです。
女性は「ドイツだけでなくほかの国々でも極右政党が台頭している。私たちはいま起きていることに注意を払わなければいけない」と話していました。
また、記念行事を主催するベルリン市などは、旧東ドイツの民主化運動に大きな影響を与えた、隣国ポーランドの自主管理労組「連帯」の功績を伝えるパネル展や、当時のメンバーを招いた講演会を開き、抑圧されながらも自由を求めた体験談に、参加した人たちが耳を傾けていました。
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