目次
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金融市場の動向は
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日銀の金融政策への影響は
金融市場の動向は
トランプ前大統領は法人税率の引き下げや所得税の最高税率の引き下げといった減税策について期限を撤廃して恒久的な制度とするほか、日本を含む外国から輸入される製品に原則10%から20%の関税をかける方針です。
市場関係者の間では「トランプ前大統領が新たな大統領に就任した場合、減税による景気の押し上げや関税の上乗せによって輸入品の価格が上がることで物価が再び上昇する可能性がある」という指摘が多くなっていました。
アメリカでは記録的な物価上昇が落ち着きFRB=連邦準備制度理事会も4年半ぶりに利下げに踏み切りましたが、金融市場では「新大統領の経済政策で物価が再び上昇したり高止まりしたりした場合、FRBは今後利下げを進めにくくなり、外国為替市場では金利の高いドルが買われて円安ドル高が進むのではないか」という見方が出ています。
円安が進むと日本にとっては輸出企業の業績を上向かせる一方、原材料の輸入価格が上昇し物価が一段と押し上げられることが予想されます。
一方、トランプ氏が保護主義的な動きを強めてアメリカからの輸出に有利なドル安を志向した場合は外国為替市場で円高方向に動きやすくなるという見方もあり、金融市場はトランプ氏の今後の発言や政策の実現可能性などに神経をとがらせる展開になりそうです。
日銀の金融政策への影響は
日銀は今後、経済・物価の情勢を見ながら利上げを検討する姿勢ですが、トランプ氏の政策によってアメリカの景気が予想以上に過熱し、円安ドル高が急速に進む状況となった場合、国内の物価上昇リスクに対応するため早期の利上げの判断を迫られる可能性もあります。
日銀の植田総裁は先週の金融政策決定会合のあとの会見で「新しい大統領が打ち出してくる政策次第では、新たなリスクが出てくるということは申し上げるまでもない。そこは、また新たなリスクとして点検していきたい」と述べています。
「USスチール」買収の行方
これまでトランプ氏は、日本製鉄によるアメリカの大手鉄鋼メーカー「USスチール」の買収計画を認めない姿勢を示してきました。
この計画に対しては、鉄鋼業界の労働組合、USW=全米鉄鋼労働組合が一貫して反対しています。
選挙戦の激戦州となっていたペンシルベニア州にはUSスチールの本社やUSWの本部があり、労働者層の支持を獲得したいトランプ氏はことし1月、「即座に阻止する」と述べて大統領に再び就任した場合には買収を認めない考えを示していました。
一方、日本製鉄が買収計画の実現に向けて、審査を進めるアメリカ政府の委員会に計画を再申請したことを受けて、委員会の判断は先延ばしになっていて、トランプ氏が新たな大統領に就任する見通しとなる中、委員会の判断の行方が注目されます。
電気自動車の優遇政策どうなる
トランプ氏の勝利は、バイデン政権のもとで進められてきたEV=電気自動車の優遇政策にも影響を及ぼす可能性があり、日本の自動車業界も注目しています。
トランプ氏はEV=電気自動車を優遇するバイデン政権の政策に批判的な発言を繰り返していて、今後、EV推進の政策が継続されるかは不透明です。
一方で、トランプ氏は電気自動車メーカー、テスラのCEOを務める実業家のイーロン・マスク氏との距離を縮めていて、ことし9月には選挙で勝利した場合、政府の委員会のトップにマスク氏を起用することを明らかにしました。
マスク氏もトランプ氏への支持を表明していて2人の関係性がEV政策にどう影響するかも注目されます。
また、バイデン政権では、EVの優遇政策を受ける条件として、北米地域で電池の部材の製造や組み立てなどを行うよう自動車メーカーに求めていたことから日本メーカーの間でも現地でEVへの大規模投資の動きが加速してきました。
それだけにトランプ氏のもとでEVの優遇策がどうなるかを注視しています。
また、トランプ氏は生産拠点の国内回帰を重視し、外国から輸入した製品に一律に関税をかける方針を示しています。
特に自動車については、ことし7月の演説の際に中国メーカーがメキシコに自動車工場を建設していると指摘した上で、生産拠点をアメリカ国内に移さなければ、100%から200%の関税を課して、アメリカでは販売できないようにすると発言したこともあります。
メキシコには、アメリカへのアクセスのよさや生産コストの低さといったメリットから日本の自動車メーカーが数多く進出していて、アメリカへの輸出拠点にしています。
仮にこうした政策が実現すれば、日本メーカーも戦略の見直しを余儀なくされるだけに神経をとがらせています。
貿易政策 関税上乗せ
日本の政府と経済界が注目しているのがトランプ氏の貿易政策です。
トランプ氏は大統領を務めていた当時、日本は牛肉や豚肉といった農産品の関税の引き下げなど大幅な市場開放を求められ、日米で新たな貿易協定を締結した経緯があります。
今回の選挙戦で、トランプ氏は、生産拠点の国内回帰を重視し、日本を含む外国から輸入される製品に原則10%から20%の関税をかける方針を示してきました。
特に自動車については、ことし9月に行った演説でメキシコで生産しアメリカに輸入されるすべての自動車に対して「100%の関税を課す」と述べていて、こうした政策が実現した場合、メキシコに生産拠点を設けている日本の自動車メーカーにも影響が出る可能性があります。
エネルギー・環境政策は
エネルギー・環境政策もアメリカで生産や販売を行う日本企業が多いだけに、その方向性が注目されます。
トランプ氏はエネルギー価格を引き下げるため石油や天然ガスなどの化石燃料の増産を支援し、海外への輸出も増やす考えを示しています。
トランプ氏は「1年以内、遅くとも1年半以内に、エネルギー価格や電力価格を少なくとも半分にするという野心的な目標に取り組む」と表明しています。
また、バイデン政権下でアメリカが復帰した「パリ協定」について、大統領に返り咲けば再び離脱する方針を明確にしています。
日本の実質GDPへの影響を試算
民間のシンクタンク「大和総研」はトランプ氏が主張する政策が経済に与える影響について、ことし5月の時点で試算し、公表しています。
それによりますと、アメリカが中国からの輸入品に60%、日本を含むそれ以外の外国からの製品に10%の関税をかけ、すべての移民の流入を停止した場合、原材料を輸入に頼る産業で生産が落ち込み、労働力人口も減少することなどから、アメリカの実質GDPは、3.4%押し下げられると試算しています。
また、日本の実質GDPも、日本からアメリカへの輸出が減少することなどから、0.48%押し下げられると見込んでいます。
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