【ワシントン=赤木俊介】米カリフォルニア大学バークレー校はハリケーンなど米本土に上陸した熱帯低気圧1個あたり、7170人〜1万1430人の関連死につながっているとの推計を明らかにした。9月下旬に米南部に上陸した大型ハリケーン「へリーン」によって少なくとも160人以上の死者が出ている。間接的な被害が拡大する恐れがある。
研究は2日、英研究科学誌ネイチャーに掲載された。1930〜2015年までに発生し米本土に上陸した501個の熱帯低気圧と、同期間の州別死者数、死因の月次統計などを分析した。研究チームは熱帯低気圧による関連死を「災害が発生しなかった場合と比べ、早期に死亡したケース」と定義した。
熱帯低気圧の被害を受けた地域の死亡率を発生以前と比較した。季節要因など災害以外で死亡率の変化につながる要因を取り除き、平均気温や風速、被災回数など、熱帯低気圧の被害と関連しうる要素と死亡率の関係を示す計算モデルを作り、死亡数を推計した。
研究チームの推計では、関連死は災害発生から15年間続くという。原因として、失業や退職金の切り崩しによる長期的な経済損失、地域社会や交友関係、環境の変化による健康状態の悪化、災害による地方政府の予算配分の変化などを挙げた。黒人や幼児などは特に災害関連死のリスクが高いという。
気候変動による熱帯低気圧の勢力拡大や、熱帯低気圧の上陸が集中する米南部の人口増も死者数増加の一因という。
米政府の集計では熱帯低気圧による平均死者数はおよそ24人とされている。政府の集計は直接的な被害数に絞っているのに対し、今回の推計値は様々な要因が関連する州全体の死亡率をもとに推計しており、差が開いたとみられる。
米海洋大気局(NOAA)は北大西洋および北太平洋中部・東部で発生した熱帯低気圧の最大風速が時速74マイル(およそ時速119キロメートル)に到達した場合、ハリケーンと認定する。年平均で2個程度のハリケーンが米本土に上陸する。
この推計に基づけば、1930年〜2015年の期間の熱帯低気圧による災害関連死は計360万人以上となる。同期間の米交通事故による死亡者数(約200万人)と米戦死者数(約130万人)を上回る。
マヨルカス国土安全保障長官は1日、へリーンによる被害の復興は「非常にコストが高くなり、数年間かかる」と述べた。米国土安全保障省傘下で災害発生時の司令塔となる連邦緊急事態管理局(FEMA)は8月、予算不足のため緊急事態への対応に集中し、長期的な復興支援を一時的に停止すると発表している。
災害対応を巡ってトランプ前大統領がバイデン政権を批判するなど、ハリケーンの政治問題化も進む。
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