石破茂首相は安全保障政策を強みと自負する。日本は「独立した主権国家」だと繰り返し、「対等な日米関係」を築くべきだと訴える。手法として挙げる日米安保条約と地位協定の改定は、日米関係を変える危うさを伴う。首相として実現を目指すならば重い政治テーマを背負うこととなる。
石破政権は自民党と内閣の主要ポストに、外交・安保政策に詳しい議員をつけた。政調会長の小野寺五典氏、外相の岩屋毅氏、防衛相の中谷元氏はいずれも、首相と同じ「国防族」議員だ。
東アジアの厳しい外交・安保課題に向き合う姿勢が見える一方、首相がこれまで主張してきた政策は歴代政権とは方向性が合致しない。
まず対等な日米関係の実現に欠かせないと指摘するのが日米安保条約の改定だ。5条で米国に対日防衛義務、6条で日本に米軍への基地提供の義務を課す。
首相はかねて「世界で唯一の非対称双務条約」だと表現し、日本側も米国を守る義務を負うべきではないかと提起する。
日米関係は安倍政権で2015年に成立した安保関連法や、岸田政権で22年末にまとめた安保関連3文書に基づき、強固になってきている。
日本の防衛力を高めるだけでなく、米軍の艦船や航空機の防護を自衛隊が担い、日米の部隊間の指揮統制の連携向上も進めている。
日米安保条約の片務性については米国内でも議論があった。トランプ前大統領がこの問題を指摘して、日本が防衛力の強化に動いた背景もある。
防衛省幹部は「日米の対等性は東アジアでは相当高まった。いまの路線を大きく変えるほうがリスクになる」と話す。
安保条約に基づく日米地位協定に関しても、首相は長年疑問を呈してきた。協定は日本で活動する米軍に法的な特権を認め、日本側は在日米軍基地の管理権も持たない。
首相の主張の原点が防衛庁長官だった04年に起きた沖縄国際大学での米軍ヘリ墜落事故だ。米軍は事故後およそ1週間、機体周辺を封鎖して日本の警察は捜査に関与できなかった。地位協定に基づき、機体の残骸も米軍が持ち帰った。
相次ぐ在日米軍の事故・事件を受けて協定の改定を求める声が根強いのは事実だ。韓国やドイツでは地位協定を見直し、駐留米軍の権利などに関する規定を更新している。日本で改定作業に乗り出すには米国側の理解を得る作業が必要となる。
民主党政権下での米軍普天間基地の移転を巡る混乱で、日米の信頼関係が悪化した。12年に自民党が政権復帰してからは関係立て直しを優先してきた。
首相は北大西洋条約機構(NATO)のような集団防衛の仕組みを取り入れ、「アジア版NATO」をつくる構想も提唱する。日米や韓国、オーストラリア、東南アジアなどで集団防衛の仕組みを構築する内容だ。
台湾有事や朝鮮半島有事になれば自衛隊を戦地に投入することもあり得る。国の存立に関わる際に認定する集団的自衛権の行使要件も変える必要がある。
国内外で懐疑的な見方が広がる。集団防衛の仕組みが中国敵視と見られれば、逆に危機を高めてしまう可能性がある。
首相は早期の日米首脳会談や日中首脳会談に意欲を示す。ラオスで東南アジア諸国連合(ASEAN)の首脳会議に10〜11日に出席し、首脳外交デビューすると見られている。
各国が新政権の外交・安保政策の出方をうかがっている。説明の仕方を誤れば外交問題に発展する恐れもある。
政権幹部は「首相の主張は必要なことだが、議論をまず整理しないといけない。憲法にもかかわりかねない話だ。時間の期限は設定せず、道筋をどう示すか考えていく」と話す。
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