逮捕されたドゥーロフ氏(写真は2016年)=ロイター

【ウィーン=田中孝幸】約10億人の利用者を擁する通信アプリ「テレグラム」の創業者で最高経営責任者(CEO)のパベル・ドゥーロフ氏(39)が24日、フランス警察に逮捕された。複数の仏メディアが報じた。テレグラムを利用した犯罪を放置した疑いがもたれている。

優れた暗号技術で秘匿性の高いテレグラムには、資金洗浄やポルノなど犯罪の温床になっているとの批判もあった。今回の逮捕でSNS(交流サイト)や通信アプリなどプラットフォーマーの社会的責任を巡る論議が過熱しそうだ。

ドゥーロフ氏はプラットフォームのあり方として「自由で中立であるべきだ」と主張してきた。SNS側の判断で不適切な投稿を削除したり、注意書きを付け加えたりする「コンテンツモデレーション」に否定的な立場でも知られた。

ネット犯罪を放置したとの理由でプラットフォーマーの創業者を逮捕するのは異例だ。表現の自由という観点からネットのコンテンツ規制強化に反対する米起業家のイーロン・マスク氏は24日のX(旧ツイッター)への投稿で幾度もドゥーロフ氏の逮捕を批判した。

今回の事件で焦点になったモデレーションのあり方や政府の介入の是非を巡っては、世界的な議論になっている。

米国では2021年1月の連邦議会議事堂の襲撃事件後、フェイスブックなどがトランプ前大統領のアカウントを停止した。これへの反発で一部の共和党寄りの州がモデレーションを規制する州法を可決。米連邦最高裁は7月、規制の是非が争われた訴訟で、政府による介入に慎重姿勢を示したうえで、審理を下級審に差し戻していた。

今後の事件の推移によっては、モデレーションを巡る米大統領選での論戦にも影響が出る可能性がある。大統領選でトランプ氏の支持に回ったロバート・ケネディ・ジュニア氏はドゥーロフ氏の逮捕を受けてXに「言論の自由を守る必要性はかつてないほど差し迫ったものになっている」と投稿した。

モデレーションに否定的なテレグラムは22年に始まったロシアのウクライナ侵略において、双方の情報戦の主要なツールとされてきた。偽情報の規制などに向けて運用指針が変更されれば、両国の情報空間での戦いに影響が出ると予想される。

米外交政策研究所のロシア安保専門家であるロブ・リー氏は24日のXへの投稿で「テレグラムのポリシーが大幅に変更されると、この戦争に関する情報領域に大きな影響を与える可能性がある」と指摘した。

ロシア軍の将官や兵員に広く利用されていただけに、今回の逮捕には政治的な背景もあるとの見方も出ている。ロシアメディアによると、ロシア下院のダワンコフ副議長は「逮捕は政治的動機によるものであり、利用者の個人情報にアクセスするための手段である可能性がある」と非難。ラブロフ外相に釈放努力を求める書簡を送った。

ロシアでは欧米を非難するプロパガンダに利用しようとする動きもみられる。ロイター通信によると、ロシア下院のブティナ議員は今回の逮捕は「欧州で言論の自由が死んだことを意味する」と語った。

ドゥーロフ氏はパリ近郊のルブルジェ空港にプライベートジェットで到着後、滑走路で拘束された。仏司法当局は犯罪予防に向けた措置を怠ったことによる詐欺などの共謀の容疑で、かねて同氏を指名手配していたという。

拘束の恐れから欧州への訪問を避けてきたドゥーロフ氏が、今回あえてパリに向かった理由はわかっていない。24日にパリで夕食の予定が入っていたとの報道もある。

ロシア生まれの同氏は13年にテレグラムを設立。ロシアやウクライナなど旧ソ連諸国で多数のユーザーを獲得し、テレグラムを世界の主要SNSの一つに育て上げた。

自らが売却したSNSのフコンタクテを巡るロシア当局の協力要請を拒否し、14年に同国を離れた経緯もある。17年にはテレグラムを中東のドバイに移転。フランスやアラブ首長国連邦(UAE)などの国籍も持つとされる。

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