6月下旬、チグリス川に隣接した魚市場で、コイの開きを炭火で焼く名物料理マスグーフの香りが漂ってきた。戦乱からの復興を感じさせる。

 6年半前、ここを包んでいたのは、胃を持ち上げられるような、脳の奥を突き刺すような死臭だった。イラク北部モスルの旧市街にあるミダン地区。過激派組織「イスラム国」(IS)の戦闘員らが最後まで立てこもったこの場所には、解放から半年を経ても至る所に遺体が放置されていた。

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 2014年6月に「建国」を宣言したISは3年にわたってモスルを支配した。あれから10年。テロリストの「国家」は、この地区で17年に終わりを迎えたが、支配地域の住民を恐怖に陥れた過激な思想は消えたのだろうか。

 旧市街の中心にあるモスルの象徴「ヌーリ・モスク」も訪ねた。IS最高指導者バグダディ容疑者が10年前、このモスクの金曜礼拝で演説し、初めて世界に姿を現した。

 敷地に入ろうとすると、警察官に止められた。突然立ち入り禁止になったという。

 数日後、再建にあたるユネスコ(国連教育科学文化機関)は、ISの支配時代にモスクの壁に埋め込まれた爆弾5発が見つかったと発表した。

 「ISは生きている」。そんな声を聞いた気がした。(モスル=其山史晃)

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イラク北部モスル旧市街のミダン地区にある魚市場では、少年が慣れた手つきで魚をさばいていた=2024年6月27日、其山史晃撮影
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過激派組織「イスラム国」(IS)とイラク軍などの戦闘が最後まで続いたモスル旧市街のミダン地区=2018年1月16日、杉本康弘撮影
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再建が進むヌーリ・モスク。撮影の2日後、国連教育科学文化機関(ユネスコ)は、壁の内部からIS支配時代に仕掛けられたとみられる爆弾が見つかったと発表した=2024年6月27日、イラク北部モスル、其山史晃撮影

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