NATOによりますと、「ハイブリッド攻撃」は破壊工作、暴力行為、不自然な移民や難民の増加、サイバー攻撃など、軍事力ではない手段で相手国に混乱などを引き起こそうとするもので、これまでもロシアによる「ハイブリッド攻撃」を警戒してきました。
3年前には、ロシアの同盟国ベラルーシのポーランド国境付近に突如、大勢の中東やアフリカの移民らが集まり、ポーランド側へ越境しようとして混乱に陥り「移民の武器化」とも伝えられました。
ヨーロッパ諸国では、この数か月、商業施設や公共施設などで不審な火災が相次いでいて、各国はロシアがウクライナを支援する国々に対し新たに「ハイブリッド攻撃」をしかけているとして警戒を強めています。
ことし、5月上旬には、バルト三国のリトアニアの首都ビリニュスのショッピングセンターで火事が起きました。
その直後には、ポーランドの首都ワルシャワで1400以上の店が入る大規模なショッピングセンターが全焼しました。
けが人はいませんでした。
ポーランドのトゥスク首相は、ロシアからの指示を受けて放火など破壊工作を行おうとしていたとして、ポーランドやベラルーシ、それにウクライナ国籍の9人を拘束していると明らかにしたうえで、ショッピングセンターの火災について「ロシアの情報機関が関与している可能性が高い」としています。
また、拘束した人物はリトアニアでの火事にも関与した可能性があるとの見方も示しています。
こうした状況について、アメリカのブリンケン国務長官は5月末、NATOの外相会合に合わせて開いた記者会見で「ロシアはNATOの最前線の国に対してハイブリッド攻撃を激化させている」と述べ、ロシア側が東ヨーロッパなどで「ハイブリッド攻撃」を行っているという見方を示していました。
チェコのバス放火事件 フィアラ首相“ロシアが計画”の見方
ヨーロッパで相次ぐ不審な火事について、ロシア側が南米など第三国の出身者に報酬を支払い、犯罪を起こさせて社会の混乱を生じさせる「ハイブリッド攻撃」の新たな手段だとする見方も出てきています。
ウクライナへの砲弾確保の取り組みを主導するなど、ウクライナ支援に積極的な東ヨーロッパのチェコでは、先月、首都プラハの路線バスの車庫で何者かがバスに火をつけようとする事件が起きました。
地元の警察は南米出身の男を拘束し、テロの罪で起訴されました。
地元メディアは、コロンビア国籍の26歳の男だとして、数台のバスにガソリンをかけ火をつけようとしましたがうまくいかずに逃走し、その後、拘束されたと伝えています。
チェコのフィアラ首相は、事件はロシアによって計画された可能性があるとして、チェコに対する「ハイブリッド攻撃」の一環だという見方を示しています。
地元の警察の広報担当者は、NHKの取材に対し、男のスマートフォンを調べた結果、SNSのテレグラムを通じ、指示を受けていたことがわかったと明らかにしました。
また警察は、男はテロ組織や犯罪集団とのつながりはなく「主な動機は報酬だ」として、報酬目当ての犯行だったと説明しました。
地元メディアは、犯人が3000ドル、日本円で47万円余りを受け取っていたと伝えています。
チェコ公安情報局「ロシアのつながり示す明らかな証拠ある」
チェコのプラハで起きた事件について、捜査を進める情報機関、公安情報局のトップ、コウデルカ長官がNHKのインタビューに応じ「犯人とロシアのつながりを示す非常に明らかな証拠があり、ロシアの情報機関が今回の攻撃の背後にいる重大な疑いを持っている。ロシアはウクライナへの支援に積極的な国を狙っている」と述べ、ウクライナへの支援国を狙ったロシアによる攻撃だとする見方を示しました。
そして「ロシアのハイブリッド攻撃のねらいは、西側の社会を分裂させ、国家や国家機関、さらにはNATOやEUに対する国民の信頼を失墜させ、ウクライナ支援を弱体化させることだ」と指摘しました。
また事件が先月行われたヨーロッパ議会選挙の直前だったことに着目していると明らかにしたうえで「プラハで大きな火事が起き、公共の路線バスが燃え、けが人も出たとしたら、誰かが『見ろ。ウクライナを支援するからこんなことが起きるのだ』と主張したかもしれない。今回は完全な失敗だったが、成功していたら何が起きていたかわからない」と述べ、ウクライナ支援に積極的なチェコ政府の信頼の失墜や、支援への反対意見を勢いづかせることをねらっていた可能性があるとの見方を示しました。
また、犯人は複数の人がSNSで日常的にやりとりをするグループの中から選ばれ、多くの人物を介してロシアの情報機関から指示を受け、本人にはロシアから指示を受けた認識はないと説明します。
そして、こうした手法は、イスラム過激派組織IS=イスラミックステートなどが、テロを起こす個人や少人数のグループをインターネット上で勧誘し「ローン・ウルフ」一匹おおかみとしてヨーロッパなどに送り込んだ手法に似ているとして、ロシアの新たな「ハイブリッド攻撃」の手段との認識を示しました。
コウデルカ長官は「攻撃を行う人物を事前に特定することが困難で、くいとめることは極めて難しい。ロシアはプロを送り込んでいないのは確かだが、人々の恐怖心をあおることなどをねらうハイブリッド攻撃では、プロでなくても十分役割を果たせるだろう」として、欧米にとっての脅威になるとの認識を示します。
チェコの情報機関は、ヨーロッパのほかの国の情報機関とも情報を共有するなど協力を強化しているということでロシアの新たな「ハイブリッド攻撃」の可能性に各国で警戒が高まっているとみられます。
チェコ プラハの市民「何が起きてもおかしくない」
今回チェコで起きた事件がロシアによる「ハイブリッド攻撃」だという見方が示されていることについて首都プラハの市民に話を聞くと「驚いた」とか「怖い」といった声が多く聞かれました。
このうち70代の男性は「(ロシアの仕業だとしたら)素人の犯行で驚いている。もっと次元の違う被害の大きな事件が起きることを懸念している」と話していました。
また別の男性は「ロシアの仕業に違いない。彼らは、私たちの国で問題を起こそうとしている。怖くはないが何が起きてもおかしくないと思っている。ロシアとの関係が元に戻るまでは今後も事件は起きると思う」と話していました。
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