――中国国家外貨管理局の発表によると、2023年の外資企業の直接投資の増減額は前年比で8割減った。中国離れが叫ばれる中、足元の投資環境をどう見ているのか。
「23年の外資企業による中国への直接投資は前年比で8割減になったが、ややミスリードだと感じている。日本を含む外資企業は30年近く中国でビジネスを展開しており、内部留保を使い中国で再投資をしている。中国外からの新規投資の減少がクローズアップされているのはやや違和感がある」
「私自身、23年4月に中国日本商会の会長となり、発信力を高めるためにアンケートを実施することにした。昨年11〜12月に実施した第2回のアンケートでは、回答の5割弱が中国投資について『投資しない』『投資額を減らす』とした一方で『前年と同額』『投資額を増やす』『投資額を大幅に増やす』が5割強あって驚いた。仮に同じアンケートを中国の民間企業に実施したら、もう少し違う結果になっていただろう。中国企業の投資減少は顕著だ」
米中対立、法律以上の萎縮は必要なし
――中国での経済活動を進めていく上で、米中対立の悪化も足かせとなっている。
「米中対立は非常に大きな問題だ。ただ中国の対米貿易額は3年連続で増えており、22年には過去最高を更新した。実際の経済活動がリンクしていない点にも注意を払うべきだ」
「米企業の団体である中国米国商会と話していると、米国も必死に中国市場に攻め入って業績を拡大しようとしている。法律が定める以上に萎縮する必要はないと考えている」
「もちろん(半導体など最先端技術の)輸出規制などについては、日中政府間で前向きに議論が進み、迅速に解決することを望んでいる。中国日本商会の意見として日中政府には伝えている」
――パナソニックホールディングスでは米中対立による輸出規制の影響はあるのか。
「電池の材料である黒鉛が輸出管理に該当するが、現時点では事業に影響はない。法律に従って対応していくほかない」
改正反スパイ法はネガティブ要因
――中国では21年までにインターネット安全法やデータ安全法、個人情報保護法の「データ3法」、そして23年7月に改正反スパイ法が施行され、日本企業の中国での事業活動に対する不安が広がっている。
「データ3法と改正反スパイ法に関しては、中国日本商会として繰り返し善処を要望している。中国商務省が開催した説明会で得た情報は会員企業に提供している」
「日本でも大きく新聞などで報道されており、企業活動に影響がないと言えば嘘になる。実際、会員企業からは駐在員を選ぶ際、非常にネガティブな要因となっており、家族や配偶者が反対することが日常茶飯事だと聞いている」
「データ3法へは対応に追加費用が必要になるが、めどが立ちつつある。ただ反スパイ法は落ち着きどころが見えていない。正しく法律を理解して対応する必要があるだろう」
――中国経済も力強さを欠いている。足元の景況感をどう見ているのか。
「日本企業が感じる中国の景況感の悪さの要素は4つある。まずは国内における設備投資の弱さだ。私自身、中国で多くの企業家に会うが、将来に対して力強く語る人がこの5年間で減ったと感じざるを得ない」
「2つ目は輸出の不振だ。(米国など)輸出が難しい国もあるが、中国企業がしたたかに国外へ生産地を移している点も影響している。3つ目は消費が軟調なこと。そして最後は住宅販売の不振だ。(不動産業界は)関連事業を含めるとGDPの約3割を占めるとされており影響は大きい」
――様々なチャイナリスクが叫ばれる中、日本企業は中国市場をどう位置づけるべきか。
「日本企業が1978年の改革開放後、中国に進出した際の目的は中国市場で物を売る『チャイナ・フォー・チャイナ』がメインだった。パナソニックも87年にブラウン管の工場を建設した」
「その後、中国の国力増強やサプライチェーン(供給網)の構築もあり、世界の工場として『チャイナ・フォー・グローバル』のビジネスに発展した。ただこれだけ人件費が高騰し、中国でのニーズがダイナミックに変化する中、日本企業はもう一度『チャイナ・フォー・チャイナ』の時代に戻っていると感じている」
「実際、パナソニックではできる限り多くの意思決定のメカニズムを中国で完結させる仕組みに変えた。中国は非常に競争が激しく多くの変化がある市場だ。ライバルの一社に中国企業がいる場合、バリューチェーンと意思決定の権限を中国に持ってこなければ勝つのは難しいだろう」
(日経BP上海支局長 佐伯真也)
[日経ビジネス電子版 2024年4月12日の記事を再構成]
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