北朝鮮を公式訪問したロシアのプーチン大統領は、19日、キム・ジョンウン総書記と首脳会談を行い、その後、両首脳は包括的戦略パートナーシップ条約に署名しました。

プーチン大統領は、共同記者発表で、条約には第三国からの攻撃があった場合、相互に支援を行うことが盛り込まれていると明らかにしました。

そのうえで「アメリカなどNATOは高精度の長距離兵器やF16戦闘機などロシア領を攻撃するための兵器を供与するとし、すでにそれは起きている。北朝鮮との軍事技術協力の発展は排除しない」と述べました。

ロシアとしては、ウクライナへの軍事侵攻が長期化する中、条約によって、砲弾やミサイルなどの供与が指摘される北朝鮮との軍事協力を正当化し拡大させたい思惑とみられます。

これに対し、キム総書記は「両国は、同盟関係という新たな高いレベルに達した」と述べ、軍事協力も含めた関係強化を強調しました。

北朝鮮としては、後ろ盾であるロシアの役割拡大を誇示し、安全保障協力を進める日米韓3か国をけん制したいねらいがあるとみられます。

一方、アメリカ国務省の報道担当者は19日、両首脳が新たな条約に署名したことなどについて、NHKの取材に対し、「両国の協力関係が深まることは朝鮮半島の平和と安定の維持やウクライナ支援に関心を持つすべての人々にとって大いに懸念すべきことだ」と述べました。

ロシアと北朝鮮は軍事的な協力関係を一段と高めた形で、日本を含む各国で安全保障上の懸念がさらに強まるものとみられます。

米国務省「大いに懸念すべきことだ」

ロシアのプーチン大統領と北朝鮮のキム・ジョンウン総書記が首脳会談を行い、新たな条約に署名し軍事面などでの関係強化を確認したことについて、アメリカ国務省の報道担当者は19日、NHKの取材に対し「ロシアと北朝鮮の協力関係が深まることは、朝鮮半島の平和と安定の維持やウクライナ支援に関心を持つすべての人々にとって大いに懸念すべきことだ」と述べました。

アメリカは、北朝鮮がロシアに大量の弾薬を送り、ロシアによるウクライナ侵攻の継続を支援しているとして懸念を強めるとともに、ロシアが北朝鮮に対し、軍事面で何らかの見返りを与え、地域を不安定化させるのではないかとして強く警戒しています。

日本政府 米韓などと情報共有し対応

会談について林官房長官は「ロシアと北朝鮮の間の軍事的な 協力の強化などを含め、わが国を取り巻く地域の安全保障環境は、いっそう厳しさを増しており、動向を注視している」と述べました。

ロシアによるウクライナ侵攻以降、両国は急速に軍事協力を推し進め、北朝鮮がロシアに砲弾やミサイルを供与する見返りとして北朝鮮の軍事偵察衛星の打ち上げにロシアの技術が使われているという指摘が出ていて、日本政府は、今回の会談で両国の軍事協力が進展することに警戒を強めています。

政府は、会談の内容を詳しく分析するとともに、アメリカや韓国などと、両国の軍事的な動向について情報を共有するなど緊密に連携し、対応していくことにしています。

専門家「北朝鮮『同盟』強調は日米韓への対抗軸」

北朝鮮のキム・ジョンウン総書記とロシアのプーチン大統領が包括的戦略パートナーシップ条約に署名したことについて、北朝鮮情勢に詳しい南山大学の平岩俊司教授は「キム総書記は記者会見で盛んに『同盟』を強調していた。北朝鮮は中国と同盟関係にあり、ロシアとの『同盟』も強調することで、日米韓3か国に対抗する軸ができるという思いなのだろう」と北朝鮮の立場を分析しました。

一方で「プーチン大統領は『同盟』という言葉を使わずにより包括的な関係強化を強調していた。ロシアの北朝鮮に対する軍事支援のあり方は、いまの欧米がウクライナに対して行っている武器供与などをイメージしているんだろうと思う」と指摘しました。

また、条約が日本に及ぼす影響について平岩教授は「ロシアと北朝鮮の協力関係がグレードアップしたことは、日本の安全保障上の脅威に直結する問題と考えるべきだ。北朝鮮に対するロシアの軍事協力が本格的に進むのであれば、北朝鮮の『国防5か年計画』の多くの部分が達成されてしまう。日本は米韓両国との協力関係を強化して抑止力を高めるとともに、中国への働きかけが必要になってくる」という見方を示しました。

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