小型機「737MAX」を製造する米西部ワシントン州のボーイング工場=AP

【ワシントン=花房良祐】航空機大手の米ボーイングは11日、5月の納入機数が前年同月と比べ5割減の24機になったと明らかにした。事故を起こした「737MAX」などの品質問題で生産は低調なままだ。社債格付けが「投資不適格」に格下げになる可能性があり、借り換えが難しくなるなど資金繰り悪化の懸念が浮上している。

737MAXはボーイングの主力機で5月の納入は19機にとどまった。全体の納入機数24機は前月の4月からは横ばいだったが、4月は新型コロナウイルス禍で低迷していた2022年2月以来の低水準だった。低調な納入が続いている。

737MAXは24年1月、飛行中に胴体に穴が開く事故が発生した。非常口を覆うパネルの留め具がなかったことが原因だった。製造工程で留め具の挿入を忘れたためで、米連邦航空局(FAA)がずさんな製造品質の改善を求めている。FAAは有効な対策が実施されるまで増産は認めない方針で、これが生産のボトルネックだ。

生産増を阻むのは当局だけではない。製造現場で人手不足が深刻になっていることも背景だ。新型コロナ禍で多くの熟練工が会社を去り、復職しなかったためだ。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると西部ワシントン州のボーイング工場では23年に月平均800人もの作業員を新規雇用した。多くの労働者は飛行機の製造経験がない若者で、複雑な工程を習得する研修・教育の実施に四苦八苦している。24年1月の事故直後には、新人が生産ラインで働くのを1カ月以上にわたって止めたという。

生産・納入の停滞とそれに伴う収益悪化懸念で指摘されているのが格下げのリスクだ。

格付け大手ムーディーズは4月、「商用機部門の逆風は26年まで続く」と指摘し、ボーイングの格付けを「Baa3」に引き下げた。格付けの見通しを「ネガティブ」としており、今後、さらに引き下げる可能性がある。

いまの格付けは投資適格だが、これ以上引き下げられると「ジャンク債」となり新たな社債発行が難しくなる。社債償還の返済期限が迫ると資金繰りに影響しかねず、ボーイングも「投資適格を維持することは優先課題だ」(ブライアン・ウェスト最高財務責任者=CFO)とリスクを意識している。同社の負債は約580億ドルにのぼる。

ボーイングは5月下旬、24年のフリーキャッシュフロー(FCF、純現金収支)が赤字に転落するとの見通しを明らかにした。手元資金(現金同等物と短期債保有額の合計)は3月末、約75億ドルと3カ月前に比べて5割減った。

同社は金融機関の融資枠が100億ドルあると強調し懸念の払拭に努めているが、急速に財務が悪化するリスクを拭えてはいない。早期の生産回復が待ったなしの状況が続いている。

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