香港の終審法院(最高裁)で非常任裁判官を務め、今月辞任した英国籍のジョナサン・サンプション氏が、「香港の法の支配は重大な危機にある」とする文章を英フィナンシャル・タイムズ(FT)に寄稿した。離任したばかりの裁判官が香港の司法の独立に疑問を示すのは異例で、香港政府は猛反発している。

 10日に公開された寄稿では、立法会(議会)で過半数を確保して政府の予算案を否決しようとしていたことが国家政権転覆の罪にあたるとして、5月30日に民主派の元議員ら14人が香港国家安全維持法違反罪で有罪判決を受けたことについて、「立法会は、政府にとって好ましくない目的のために憲法上の権利を行使ができないということになる」と指摘。判決を「法的に言い訳が立たないもの」と批判した。

 また、香港の司法界が「中国がつくりだしたありえない政治環境」の中にあるとの見解も示した。裁判官が保釈や無罪の決定を出せば中国政府系のメディアなどによって「怒りの大合唱」が怒るとして、「現地の裁判官がこのような政治的潮流に逆らうのは並々ならぬ勇気が必要だ」と指摘。その結果、「多くの裁判官は自由の擁護者としての役割を見失っている」と訴えた。

 これに対し香港政府は11日未明に声明を発表し、「香港の裁判所はいかなる圧力も受けていない」と反論。サンプション氏の寄稿を「でたらめで根拠がない」と批判した。

 英国式の法体系をとる香港では、同じ法体系を採用する外国の裁判官が審理に参加することを認めており、法の支配の象徴となっていた。終審法院の14人の非常任裁判官のうち10人が外国籍だったが、サンプション氏とローレンス・コリンズ氏の英国籍の2人が今月辞任。コリンズ氏もFTに対し「香港の政治情勢」を辞任の理由にあげていた。カナダ籍の1人も7月末までの任期で退任するとしている。(香港=高田正幸)

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