米国では飲料水のPFAS汚染に懸念が高まっている=ロイター

米環境保護局(EPA)はこのほど、体への有害性が指摘される有機フッ素化合物「PFAS(ピーファス)」について、特に悪影響が大きいとされる2種類を「有害化学物質」に指定した。汚染浄化と費用の負担を責任者に命じることができるようになる。米法律事務所ピルズベリー・ウィンスロップ・ショー・ピットマンのパートナー、レザ・ザルガミー氏に、企業への影響などを聞いた。

――今回、一部のPFASが有害化学物質に指定されたことで、何が変わりますか。

「PFASのうち、有害化学物質に指定された『PFOA』と『PFOS』の2種類は、『スーパーファンド法(CERCLA)』と呼ばれる環境規制の対象となる。社会的影響が極めて深刻な化学物質の汚染に適用される規制で、除去の責任者を明確にすることで、処理の迅速化を目指すものだ。除去費用の負担を公的資金から責任者に移す狙いもある」

PFAS規制動向に詳しい米ピルズベリーのレザ・ザルガミー氏

――どのような関係者が汚染に責任を負いますか。

「EPAは公共水道や農家などを汚染責任の対象外とした。規制で最も重要なターゲットとなるのは米スリーエム(3M)など、これまでも汚染問題で訴えの対象となってきたPFAS製造大手だろう」

「日系企業でも、旭化成(の北米子会社)やダイキン工業など、米国でPFAS製品の製造に関わりがある企業には、関連地域で汚染が見つかった場合に除去責任を問われる可能性が高い。既に処理済みとしてきた地域もCERCLAによる再調査の対象となり、再び処理負担が生じる可能性もある」

「PFAS製造業以外にも、幅広い関係者が除去責任を問われる可能性がある。CERCLAは、汚染が見つかった土地や建物の現在の所有者だけでなく、過去の所有者や運営者、化学物質を輸送した業者、処分を手配した事業者も連帯責任の対象と定めている。汚染を意図したか、汚染について認識があったかは、責任の有無と無関係だ」

「日本企業が米国事業のため取得した土地や建物でPFAS汚染が見つかった場合、除去責任が生じる可能性がある。CERCLAは汚染の除去について複数の責任者の連帯責任を認めている。一次的に浄化費用を負担した責任者が分担を求め、他の潜在的な責任者を訴えるケースも想定される。責任分担を争う訴訟のコストが膨らむ可能性もある」

――日本企業はどのような対応を取る必要がありますか。

「PFASの除去は難しく、他の汚染物質の例に比べ除去費用は高額だ。米国での事業買収や不動産投資、拠点の賃貸契約などは、周辺地域も含め、過去に遡ったPFAS汚染のリスク調査を怠らないことが重要だ。特に地下水や飲料水の汚染に関連する案件は処理責任を問われる可能性が高い」

「廃棄物の処理についても、処理地の汚染に責任が生じないよう、注意が必要になる」

――PFAS汚染は米国でもかなり広範囲で確認されています。今回の規制の実効性をどう見ますか。

「PFAS2種へのCERCLA適用の発効は、発表から60日後と定められている。ただ、大統領選挙を年内に控え、浄化責任の特定がどの程度、実行に移されるかは現時点で不透明な部分もある。PFAS規制の強化はインフラ整備など産業振興策の冷や水となる可能性もあり、政治的なかじ取りのバランスは難しい」

「PFAS規制を強化する方向性は、トランプ前政権、バイデン政権とも一致する。ただ、トランプ前政権はEPAの予算を大幅に削減し、多くの規制が実効性を失った。大統領選の行方によっては、今回の規制についても実行の度合いに疑問符がつく可能性がある」

(聞き手はニューヨーク=西邨紘子)

▼有機フッ素化合物「PFAS」 4700種を超える有機フッ素化合物の総称。数千年にわたり分解されないため「永遠の化学物質」とも呼ばれる。
水や油をはじき、熱に強いなどの便利な性質から、消防署で使う消火剤や、フライパンの焦げ付き防止加工まで、幅広い産業品や日用品に使われてきた。
PFASのうち「PFOS」と「PFOA」は毒性が高いとされている。自然界に流出すると、土壌に染み込むなどして広範囲に環境を汚染する。
米国ではEPAが4月、「PFOS」と「PFOA」の基準値を1リットル当たり4ナノ(ナノは10億分の1)グラムと定めた。目標値はゼロにした。両物質の合算で同50ナノグラムとする日本の暫定基準を大幅に下回る。
日本では、環境省が国内の河川や地下水への含有量を調べた結果、2022年度は東京、大阪、沖縄など16都府県の111地点で国の暫定目標値を超えていた。

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