アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)が31日、シンガポールで始まった。基調講演にはフィリピンのマルコス大統領が登壇する。南シナ海で中国が覇権主義的な動きを強めるなか、フィリピンは緊迫した米中の駆け引きの舞台になっており、その言動が注目される。「法の支配」の重要性や安全保障面での結束を訴えるとみられる。

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 フィリピンは米国の同盟国だ。マルコス氏は4月に初の日米比首脳会談に参加。会談後の会見で「南シナ海の航行の自由は世界中の多くの国々が望んでいる。法や規則の秩序を損なう行動に対し、国際社会が協力して働きかけ続けることが重要だ」と述べ、南シナ海でフィリピン船への妨害行為を繰り返す中国に、連携して対抗する姿勢を示していた。

 バイデン米大統領はこの会談で、「フィリピンの航空機、船舶、軍隊が攻撃されれば、相互防衛条約が発動する」と発言。中国との偶発的な衝突が起きる危険性も出てきている。

 かつてフィリピンに常駐していた米軍は、反米機運の高まりを背景に1992年までに撤退。その後、中国はスプラトリー(南沙)諸島のミスチーフ礁に建造物を建てて占拠し、岩礁の埋め立てを本格化させていった。

 危機感を強める米軍は近年、米比の防衛協力強化協定(EDCA)などに基づき、フィリピンへの足場づくりを再び進めている。特に同国北部への関与が顕著で、南シナ海問題に加えて、台湾問題を見据えた動きとも指摘される。

 台湾に近い北部地域に米軍の一時駐留拠点を昨年に増やしたほか、今年の米比定例軍事演習「バリカタン」では、北部地域を実弾射撃訓練の拠点の一つに置いた。

 米軍の中距離ミサイル発射装置の配備にも視線が集まる。米軍は4月、演習名目でフィリピン北部にこの装置を展開。米ロ間の中距離核戦力(INF)全廃条約の失効後初めてで、中国は反発をあらわにしている。

 中国国防省によると、31日に開かれた米中国防相会談で、董軍国防相が「地域の安全にとって実質的な脅威となる」と牽制した。

 米比両軍は、演習後にミサイル装置が他の場所に移されたか、国内にとどまっているかを明らかにしておらず、新たな緊張の種となりつつある。(シンガポール=大部俊哉)

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