ロシア中央銀行は5月の金融報告で、ウクライナ侵略に対する制裁の強化が貿易に影響することへの懸念を表明した。ロシアが輸出先をアジアなどに切り替え経済成長を維持しようとする中、米国などは対ロ制裁の強化に踏み切り戦費を支えるロシア経済に打撃を与えようとしている。
ロシア中銀が24日に発表した金融安定性に関する報告書では「非友好国がロシアのエネルギー輸出などを制限しようとしている」と指摘した。非友好国は侵略を巡って対立する米国など西側諸国を指す。
非友好国が2023年秋以降に科した制裁がロシア企業だけでなく、友好国の企業も対象としているとも批判した。結果として「輸出入の減少や国境を越えた決済などがより複雑になる可能性がある」との懸念を示した。
中銀が指摘する制裁内容はロシアの主要輸出品である原油への制裁や、金融制裁の強化を指しているとみられる。
主要7カ国(G7)は22年12月にロシア産原油の価格上限規制を導入した。だがロシア側は「影の船団」による輸出を継続し、アジア方面への輸出を増やして制裁に対抗する動きを強めた。米国は制裁の実効性を高めようとしており、23年10月には上限価格を上回るロシア産原油を輸送したとしてトルコやアラブ首長国連邦(UAE)の船舶に初の制裁を科した。ロイター通信によると、制裁を受けた企業は米国で所有する資産や権益へのアクセスができなくなった。
米国はウクライナ侵略を続けるロシアへの金融制裁を一段と強めている。23年12月にはロシアの物資調達などに関わった第三国の銀行についても経済制裁の対象に加えることを決めた。防衛関連など制裁対象に関する取引があれば罰する方針を示している。
一定の効果は上がりつつあり、中国の銀行では制裁を懸念しロシアからの決済が難しくなっているもようだ。ロシア紙コメルサントはロシア国内の電子部品メーカーの支払いが3月末以降に中国の銀行で処理されていないとの連絡を中国の取引先から受けていると報じた。電子部品の支払いが滞っているという。
ロシア紙イズベスチヤも中国の大手銀行に対してロシアからの人民元建てでの決済ができない事例が起きていると伝えた。3月末以降にこうした事例が増えているという。長期化すればロシアの輸入が滞り、経済に打撃となる。中国の銀行が米国による二次的政策の対象になることを恐れ、取引に慎重になっているとみられる。
ロシアの歳入の3割超を占める石油・ガス収入は足元では増加基調が続く。ロシア財務省によると、24年1〜4月の石油・ガス収入が前年同月比82%増だった。欧米が対ロ制裁を続ける状況下で、ロシアは割安な同国産原油の輸出先を中国などアジアにシフトしている。
ロシアの24年の国家予算では、侵略の長期化で国防費が前年比6割増の10兆ルーブル(約17兆円)超に膨らむ見通し。歳入の柱であるロシアの石油輸出に対する制裁の実効性を高めることが、ウクライナを支援する欧米諸国の一層の課題となっている。
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