9年間の事実上の軍政後も、タイ国軍は政治関与を続ける(2014年5月22日、テレビ演説で全権掌握を表明するプラユット陸軍司令官㊥ら)=ロイター

タイで2014年に起きた軍事クーデターから10年がたつ。追い落とされたタクシン元首相派のタイ貢献党が、昨年の総選挙を経て政権に復帰し、民政への流れは一歩進んだ。ただ現在のセター政権は親軍政党との連立だ。国軍の政治介入は依然として続き、民主化はまだ道半ばといえる。

14年5月22日の政変は、タクシン派と反対派の政治対立が先鋭化し、事態打開に向けた総選挙も無効となるなど、袋小路の政情下で起きた。全権を掌握した当時のプラユット陸軍司令官は、混乱を収めて早期に権力を国民に返すと約束し、自ら暫定首相に就任した。

ところが8年ぶりに実施した19年の総選挙は、親軍政党に有利な規定が決め手となり、プラユット氏が首相を続投した。事実上の軍事政権は結局9年間に及んだ。

23年5月の総選挙では長引く軍の政治介入に有権者がノーを突きつけ、親軍政党は惨敗した。ただし若い有権者の圧倒的な支持で第1党に躍進した新興の前進党は、軍有利の規定下で政権を担えず、第2党だったタイ貢献党が親軍政党と組んで政権の座に就いた。

汚職罪を逃れて国外逃亡中だったタクシン氏は昨年、15年ぶりに帰国し、恩赦で自由の身となった。長年敵対してきたタクシン派と国軍の和解で政情は安定した。

それでも火種はくすぶる。前進党は昨年の総選挙で掲げた不敬罪改正の公約が、国軍の影響下にある憲法裁判所から違憲と判断された。今後は解党を命じられる可能性がある。最も民意に支持される同党が解散させられれば、混乱が再燃する恐れは拭えない。

近年は経済の低迷も目立つ。旧軍政下で対内直接投資が停滞したところに、産業高度化の遅れや人件費の上昇が重なった。国際競争力が陰り、成長率で東南アジア周辺国に後れをとる状況が続く。

約6千社が集積する日本企業をはじめ、外資は軍の政治介入をリスク要因とみる。民主化の定着なしに経済再生はあり得ないことを軍や政府は肝に銘じるべきだ。

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