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    食料インフレ 「第1波」と「第2波」

  • ガーナのカカオ豆 生産量は目標の半分か

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食料インフレ 「第1波」と「第2波」

さまざまな食料の価格が上昇する「食料インフレ」。

その第1波とも呼べる価格高騰は、ロシアによるウクライナ侵攻後の2022年に起こりました。

両国はともに農業大国。2021年、ロシアは小麦の輸出量が世界第1位、ウクライナはトウモロコシの輸出量が世界第3位でした。

小麦もトウモロコシも、もともとは天候要因などで価格は上昇傾向でしたが、軍事侵攻で供給が滞ることへの懸念から価格上昇が加速しました。

小麦はシカゴ商品取引所で指標となる小麦の先物価格が、2022年3月上旬にはおよそ14年ぶりに最高値を更新しました。

トウモロコシも2022年4月下旬には指標となる先物価格が一時、およそ9年8か月ぶりの水準まで上昇しました。

その後、食料価格は世界的に落ち着く傾向となっていましたが、最近いくつかの食品の価格が上昇し、「食料インフレの第2波」ともいえる状況になりつつあります。

値上がりしているのはチョコレートの原料であるカカオ豆やコーヒー豆、オリーブオイルなどです。

カカオ豆は生産地である西アフリカの不作のため、ロンドン市場の先物価格が4月19日に1トンあたり1万2000ドルを超えて、過去最高値を更新しました。

その後、足元の先物価格は下がっていますが、それでも去年の同じ時期の2.7倍です。

また、インスタントコーヒー向けに使われる、ロンドン市場のロブスタ種のコーヒー豆の先物価格は、主な生産地のベトナムが不作に見舞われたことから、4月25日、一時1トンあたり4338ドルとこちらも過去最高値となりました。

さらにIMF=国際通貨基金によりますと、指標となるイギリスでのオリーブオイルの価格は生産地スペインの不作などからことし1月、1トン=1万281ドルとなり、1990年以降、初めて1万ドルを超え、過去最高となっています。

ガーナのカカオ豆 生産量は目標の半分か

西アフリカのガーナでは天候不順などによって、今シーズンの生産量が目標の半分程度の42万トン余りまで落ち込むと見込まれています。

首都アクラからおよそ150キロ北に位置するカカオ農場では、ことしは雨季でも雨の量が少なく、乾燥と暑さで多くのカカオの実が十分に育たず、黒ずんだ状態となっていました。

雨が少ないと害虫の被害も多くなり、売り物にならなくなるということです。

現地ではこのところの天候不順は、気候変動の影響だとの指摘も出ています。

この地域の農家の1人、フェリシア・アジクマさん(59)は、多い年には1トン近くのカカオ豆を出荷していましたが、今シーズンの収穫は半分以下と見込んでいます。

ガーナの政府機関は農家の収入を確保するためとして先月、農家からカカオ豆を買い取る価格を今シーズンは6割ほど引き上げることを決めましたが、農薬や肥料の価格も上昇する中でほとんど利益が出ない見通しです。

また、現地ではカカオ豆の栽培を諦め、金の採掘業者に土地を売る人も増えていて、アジクマさんの畑の隣もカカオの木が切り倒され、土が掘り返されていました。

アジクマさんは「カカオ栽培に生活のすべてを頼っているので、この先どうなるか心配です。これしか生きていくすべがないので、続けていくしか選択肢はありません」と話していました。

コーヒー豆の産地ベトナム 異常気象で収穫量が減少

コーヒー豆をめぐっては、インタントコーヒーなどの原料となるロブスタ種の産地ベトナムで干ばつが発生し、収穫量が大きく減少しています。

ベトナムで特に生産が盛んなのは中部高原ザライ省で、農家のドアン・バン・タンさんは農園で毎年10トンほどのロブスタ種を生産しています。

しかし、タンさんの農園では今、多くのコーヒーの木が枯れています。

海面水温が高くなるエルニーニョ現象による異常気象の影響とみられています。

高温に加え長引く干ばつで水が足りず木が枯れてしまうため、地域全体でコーヒーの供給量が減少しているといいます。

タンさんの農園では昨シーズンも不作で例年の半分ほどしか収穫できませんでしたが、今シーズンはさらに深刻で3割ほどの収穫量しか見込めないということです。

タンさんは「深刻な水不足に陥っています。今後数年間、今と同じような厳しい天候が続くのではないかと心配しています」と話していました。

日本の価格に影響が

日本でも歴史的な円安などによって、食品の値上げの動きが再び加速するという見方が出ています。

東京都内に4つの店舗があるチョコレート専門店は、原料となるカカオ豆をアフリカや南米などのおよそ20か国の農家から直接買い付け、製造から販売までを手がけています。

しかし、カカオ豆の主要な産地であるコートジボワールとガーナでは、干ばつや病害などで歴史的な不作となっているうえ、円安の影響も重なり、価格は高騰しています。

店によりますとカカオ豆の買い付けは春と秋の年に2度行っていますが、この春の買い付け価格は例年のおよそ2倍に膨らんでいるといいます。

農家からは想定を超える高い価格を提示されていることなどから交渉は難航していて、これまでのところ確保したい量の40%程度しか取り引きが成立していないということです。

店では、1軒の農家から仕入れる豆の量を増やして買い付け価格を抑えるなどの工夫をしていますが、今後は商品の値上げをせざるをえないとしています。

店では1000円から3000円ほどの板チョコやケーキ、クッキーなどが人気でしたが、値上げによって客が離れてしまわないか懸念しています。

このため店では、新商品の開発に取り組むなど、付加価値をつけた商品づくりを進めているということです。

チョコレート専門店「Minimal」の山下貴嗣代表は「カカオ豆の価格が上がっている中で円安が進行し、苦しい状況です。コートジボワールやガーナでの気候変動の影響は大きく、2年か3年はこの状況が続くのではないかという見方も出ている。この大きな波を工夫しながら乗り越えていきたい」と話しています。

コーヒーメーカーで値上げの動き

コーヒー豆の価格が上がっていることを受けて、日本国内のコーヒーメーカーでは値上げの動きが出ています。

「味の素AGF」は、先月から家庭向けのインスタントコーヒー25品目について納品の価格を引き上げました。

店頭での小売価格は20%から25%ほど上がっているとみられるということです。

「UCC上島珈琲」はことし7月から家庭用のレギュラーコーヒー、9月から900ミリリットルのペットボトルのコーヒーなどの出荷価格を引き上げるとしています。店頭での小売価格は20%から30%上がる見通しだということです。

また業務用のレギュラーコーヒーも順次、値上げするとしています。

アメリカ産牛肉 販売取りやめたスーパー

大阪・阿倍野区のスーパーでは、輸入牛肉は国産に比べて価格が安く、焼き肉用などの需要が高かったことなどから、店頭で販売する牛肉の15%程度を主にアメリカ産牛肉にしてきました。

しかし、アメリカで大規模な干ばつが発生し牧草の生育に影響が出たため、現地の農家では飼育数を減らす動きが広がり、牛肉の価格は大幅に上昇したということです。

スーパーによりますと、さらに円安の影響も重なり、肩ロース100グラムあたり250円前後の販売価格が300円以上になる見通しとなったため、先月からアメリカ産の販売を取りやめ、すべて国産にしました。

国産は100グラム350円余りで販売していて、アメリカ産と価格が大きく変わらないのであれば、国産を選ぶ客が増えるとみて決断したといいます。

スーパーを運営する会社「アオイサポート」の内田寿仁社長は、「アメリカ産の牛肉の価格的な魅力が薄れ、国産を好む客が多くなった。輸入牛肉の価格が下がればまた取り扱うことを検討したいが、しばらくは国産だけにしたいと思う」と話しています。

スーパーを訪れていた30代の女性は「以前は国産の価格が高かったので、カレーを作るときなどにはアメリカ産の牛肉を買っていました。牛肉だけでなくほかの外国産の食品も価格が上がり、手にとりづらくなってきました」と話しています。

日本国内の食品価格は

日本国内の食品価格の推移をみてみます。

消費者物価指数のうち、「生鮮食品を除いた食料」の前年同月と比較したことし3月の上昇率は4.6%と、7か月連続で鈍化しています。

去年5月から8月までの上昇率は9.2%で、1975年10月以来の高い水準でしたが、コスト上昇分を価格に転嫁する動きが一定程度進んだことなどで、値上げの勢いは緩やかになっています。

ただ、歴史的な円安による輸入物価の上昇もみられ、輸入コストの上昇などを背景に食品などを値上げする動きが、再び加速するという見方が出ています。

1世帯あたりの支出 4万円以上増加か

民間のシンクタンク「みずほリサーチ&テクノロジーズ」は、2人以上の世帯の外食を含む食品の支出は、今年度は昨年度と比べて平均で4万3115円増えると試算しています。

それによりますと、円安に伴う輸入物価の上昇などで、食品の価格はことし夏ごろから値上げの動きが再び加速する可能性が高いとしています。

食品の支出増加額を年収別に見ると
▽300万円未満の世帯は3万2968円
▽400万円から500万円では4万794円
▽700万円から800万円では4万6692円
となっています。

専門家「経済の回復 鈍くなる懸念」

「みずほリサーチ&テクノロジーズ」の酒井才介 主席エコノミストは食品の値上がりについて、「世界的に原材料価格が上がっているところに、円安が重なっていることが要因だ。日本は資源輸入国で輸入に依存しているので、輸入品の円建てで見た価格が上がりやすい」と指摘します。

そのうえで「おととしから去年にかけての上昇率と比べると、ことしは値上げの波の高さは低くなる。ただ、ことしの大きな違いは大幅な賃上げがあったという点。原油価格の高止まりや円安の進行、それに人件費や物流コストの上昇が重なることによって、値上げは想定以上に広がる可能性がある」としています。

また「消費者からみると、食料品を中心とした日用品の価格が上がり続けているというのが一般的な感覚で、消費者の体感物価は高まりやすく節約志向が強まるといえる。家計から見れば実質賃金はマイナスが続き、消費がしたくてもできない状況だ。個人消費が下押しされれば、経済全体としての回復ペースが鈍くなってしまうことが懸念される」としています。

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