みなさんは,好きなアニメ・漫画・ゲームのファンアートや二次創作をネットで漁るタイプのオタクだろうか。

 もしくは,クトゥルフ神話TRPGなどの探索者を深く愛し,彼らの日常やアフターストーリーまで設定,想像しているタイプのオタクだろうか。

 そして何より,一次,二次問わず,創作をしたことがあるだろうか。

 本を作って,即売会に参加したことがある人は?

 1つでも心当たりのある人は,この記事で紹介する同人シミュレーションゲーム「先生、新刊三冊くださいッ!」をぜひプレイしてほしい。


 本作は,自分の好きなキャラクター,推しカプの擬似的同人活動ができるだけでなく,数多くの“同人あるある”を楽しみつつ,その“同人あるある”に奔走される女性たちの関係性もドラマチックな作品だ。

※推しカプ:推しのカップリングのこと。男女,BL,GL問わず,恋愛関係にある(もしくはいずれその関係になる)2人を指す



いざ,自カプに命を吹き込む!


 「先生、新刊三冊くださいッ!」を始めるにあたり,まず最初にやらなければならないことがある。

 ゲーム内で推していくカップリングの設定だ。

 本作を遊ぶため,筆者はあらかじめ自カプを考えてきた。
※自カプ:自分で作った一次創作のカップリングや,自分とキャラクターのカップリング(夢小説など)を指すことが多い。今回は前者の意味

 それがこの2人だ。


ジャック
・娼館“白薔薇”で用心棒を務めている
・目立たない人物だが,仲間内からの評判は高い
・過去に起きた事故のせいで,五感全てに後遺症を抱えている
・いつか人を助けて死にたいと思っている




ネモ・ドートリッシュ
・ドートリッシュ公爵家当主
・“赤目”でありながら生きながらえている,歴史上唯一の生存例(赤目:先天性疾患。体内の魔力嚢が膨らみ続け死に至る不治の病)
・絶賛婚活中だが,とある理由で10人以上もの婚約者から婚約破棄され続けている
・血のつながらない義妹がおり,彼女のことを何にも代えがたい大切な存在だと思っている



 筆者は男女のカップリングが好きなため,この2人を“ジャクネモ”(カップリング名)として推していくことにした(本が1冊書けそうなくらいはガチガチに設定を考えてきた旨はここだけの話)。


 キャラクターの設定は,髪型や目などの顔パーツや服装など,細かく設定できる。ツノやエルフ耳,翼なども設定できるため,人外カップリングにも対応可能だ。

 画像の取り込みもできるため,イラストが描ける人はキャラクターをより理想の姿へ近づけられるだろう。

 いま自分が推しているアニメ・漫画・ゲームのキャラクターに似せて作ってもよし,筆者のように創作キャラクターを設定してもよしだ。

「どちらが先に死ぬか」とかいう設問,業が深すぎやしないか
地雷が多い人も安心安全の設計だ


同人活動でファンを増やして自カプを流行らせよう!


 本作でプレイヤーの分身となるのは,未来の神作家,伊香詩子。彼女はひょんなことからオタバレし,自分が楽しむためだけにしたためていた推しカプ小説をクラスメートの海月結良に見られてしまう。

おそらく「オタクだとバレていない」と思っているのは本人だけのパターン
詩子のファン第1号となる結良

 結良の勧めで,詩子は自分の書いた小説をWebサイトに投稿。同人作家としての道を歩み出した,というストーリーだ。

 プレイヤーが小説を書くためにやることはおもに2つ。

 1つは,外出先で執筆のためのアイデアを閃くこと。

外出先ではアイデアを閃いたり,アルベイトをしたり,各種ステータスアップができる
アイデアはハッシュタグでジャンルが分かるようになっている

 そしてもう1つは,閃いたアイデアをもとに執筆すること。

 アイデアによってはエンディング分岐があるものもあり,執筆中の選択で内容が変わっていく。

結末はプレイヤー次第

 ある程度,執筆したエピソードが溜まったら,同人誌を発行して即売会への参加も可能だ。即売会では自分のブースを好きに設定できる,というちょっとした楽しみもある。

条件を満たすと,同人誌を作れるようになる
即売会ではミニゲームが楽しめる
ブースの設営。かなり楽しい

 また,推しのグッズ収集も大事な活動の一環だ。グッズを自室に飾れば執筆力の向上につながる。そして何より,プレイヤーと詩子のモチベーションも上がる。痛バを作れるので,いろいろと試してみよう。
※痛バ:痛バッグの略。推しの缶バッジなど,たくさんのグッズでデコレーションしたカバンのこと


 グッズの収集に必要な資金は,アルバイトをしたり,ファンからの依頼をこなしたり,同人誌を頒布したりすることで手に入る。お財布と相談しながら,たくさんのグッズを集めていこう。


同人女たちの感情は繊細で傲慢で苛烈


 筆者は,真田つづる氏の漫画「私のジャンルに「神」がいます」が大好きなのだが,本作はそれに通ずる人間模様,もとい,同人女たちの感情が描かれていた。
※「私のジャンルに「神」がいます」:元は真田つづるさんのXで連載されていた「同人女の感情」というタイトルの作品。同人活動をする女性たちの日常が描かれている

 ひとえに“同人作家”と言っても,さまざまなタイプの人間がいる。

 例えば,同人活動はあくまでコミュニケーションのツールであり,好きなカップリングの話を作家同士でするのが楽しいというタイプ。

 例えば,自分が見たいものを書いているだけで,それに対する反応も交流もあまり興味がないタイプ。

 例えば,崇拝する同人作家に近づきたい一心で,自分も同人作家になったタイプ。

 「先生、新刊三冊くださいッ!」にも,詩子を始めとしたさまざまな同人作家が登場する。この人間模様がまた,見ていてクセになるのだ。


 詩子はどういうタイプかというと,筆がおそろしく速い雑食の量産型。

 短編やパロディが得意で,「読者に楽しんでほしい」という読者ファーストの考え方の持ち主だ。そのため,読者の反応をかなり気にしている様子がうかがえる。

 ちなみに,詩子の祖母も同人作家で,歴戦の猛者とのことだ。血は争えない,ということなのかもしれない。

それは確かに才能の塊かも

 対して,界隈に彗星の如く現れた神作家“シロクマのやま”は,カリスマそのもの。

 人とあまり交流しない点も,彼女の作品を読んだ読者が「ヤバイ」しか言えなくなる点も,界隈にいる神作家そのものだ。

シロクマのやまの小説を読み,衝撃を受ける詩子

 同じカップリングを推しながらも格が違う,とシロクマのやまを一方的に崇拝していた詩子だったが,この2人は偶然,というか運命的な出会いを果たす。

 フタを開けてみれば,シロクマのやまは詩子をキッカケに同人小説を書き始めたくらい,詩子を特別視していた。


 神だと思っていた作家がじつは身近な人間で,でも作品を読めば読むほどやっぱり神にしか思えなくて,という詩子のジェットコースターのような感情の動きは,同人作家なら共感できる部分だろう。

 最後に,このゲームをプレイしていて筆者がもっとも心を動かされたシーンを抜粋したい。

全面的に同意

 “おおむ食いオカメ”は,いわゆる読み専のオタクだ。読み専というのは文字通り,創作活動自体は行わず,同人作家たちが供給する小説や漫画を読んで感想を送るなどして界隈に関わっているファンのこと。

 読み専のオタクにとって,同人作家は奇跡を授けてくれる,まさに“神”のような存在だ。こちらからは祈ることしかできず,ただただ供給を待つしかない。

 おおむ食いオカメはSNSでかなりの数のフォロワーを持つ人気の読み専で,即売会やイベントの主宰も務め,積極的に前に出て界隈に関わっている。

 そんな,詩子を“神作家”と評するおおむ食いオカメから発せられたのが,この一言だ。


 たとえ神であろうと,その本質が人間であるならば,俗世に引きずり下ろしてでも“友達”になりたい。

 神に対してあまりに不敬で,傲慢で,けれど美しい願いだと思う。

 きっと神作家は,こういうタイプの“人間の友人”に救われるのだろう。


 「先生、新刊三冊くださいッ!」は現在,Steamストアページにて配信中だ。価格は1500円。まだ早期アクセス版のため,翻訳がされていない箇所があるなど未完成の部分はあるが,推しカプがいる人なら絶対に楽しめる作品なので,ぜひともプレイしてみてほしい。

自カプが街中の巨大広告に掲示されている感動を味わえる

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