メモリ用集積回路として広く使われている半導体ダイナミックメモリ(DRAM:Dynamic Random Access Memory)の基本構造を発明し,コンピュータテクノロジーの発展に大きく寄与したロバート・デナード(Robert H. Dennard)氏が,2024年4月23日に91歳で逝去していたことを,地元紙Iohudオンライン版(リンク。英語)などが報じている。

画像: Wikipedia(リンク)より

 1932年にテキサス州で生まれたデナード氏は,幼少の頃には電気も届いていない一部屋の小さな学校で教育を受け,音楽の才能により奨学金を得て南メソジスト大学に入学。そこで電気工学と出会い,カーネギー工科大学(現:カーネギーメロン大学)で博士号を取得し,1958年からIBMに入社して研究者の道を歩み続けた。
 その長きに渡るIBMでのキャリアと功績は,同社公式サイト(リンク。英語)で紹介されている。

 デナード氏がIBMに入社した当時,集積回路はテキサス・インスツルメンツのエンジニアによってデモンストレーションが行われた最先端テクノロジーの1つだった。
 産声を上げたばかりのコンピュータ産業と,その研究分野の主な焦点は,メモリやロジックをいかに進化させるかであり,デナード氏は金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET) の設計と応用を深く掘り下げるようになった。

画像: IBM公式サイト(リンク)より
 そして,既存の磁気コアメモリのサイズと電力要件に不満を抱いていたデナード氏と,マイクロエレクトロニクスの専門家チームは,1ビットの情報を保存するのに6つのMOSトランジスタだけを必要とする代替システムを1964年に開発した。

 しかし,その設計でさえ彼らはあまりにも複雑で遅すぎると感じて満足できなかった。デナード氏のひらめきによって6つのトランジスタではなく,1つのトランジスタに少しの情報を保存する方法の研究が始まり,1968年のDRAMの誕生へとつながっていった。
 このDRAMは,それから50年以上が経過した今もなお,PCやゲーム機,スマートフォンなどの電子機器にはなくてはならない物である。

 デナード氏はその後も,コンピュータや電子機器は,年々小型化,高速化,効率化の道をたどり続けるという理論を概説。この理論は後にIntelの創業者の1人となったゴードン・ムーア(Gordon Moore)氏による「ムーアの法則」を補完するものであり,「デナード・スケーリング」または「デナードの法則」として,ムーアの法則を長命化させる理論の1つになっている。

 電子工学分野におけるパイオニアの1人として,IEEEロバート・ノイス・メダルをはじめ数々の栄誉を手にしてきたデナード氏だが,若いころはスコティッシュダンスの舞踏家でもあり,晩年まで地元のコーラス団の団員やサポーターとして活動するなど音楽愛にあふれていたという。

 なお,追悼式はアメリカ大西洋時間6月7日にニューヨーク州ヨークタウンハイツのThomas J. Watson研究センターで執り行われる。遺族はデナード氏が所属したコーラス団の公式ページ(リンク)を通じて,献花の代わりに寄付金を募っている。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。