2024年5月23日に発売予定のNintendo Switch/PS5/PS4/PC(Steam)向けソフト『霧の戦場のヴェルディーナ: C.A.R.D.S. RPG(カーズアールピージー)』(以下、『霧の戦場のヴェルディーナ』)。本作はアクワイアが手掛ける完全新作で、シミュレーションRPGにローグライク要素とカードバトルが融合した新ジャンルのタイトルだ。

 ストーリーの舞台は“100年戦争”と呼ばれる争いがくり広げられる大陸・ミスタリア。プレイヤーはクラウゼヴィッツ傭兵団、団長ヴェル・ディーナと仲間たちを率いて、非人道的な方法で“キメラ”を作り出している敵国 ・ファフタニアの調査へ赴くこととなる。

 4月11日にNintendo Switchで体験版が配信されるということで、アクワイア代表取締役の遠藤琢磨氏と、『霧の戦場のヴェルディーナ』のプロデューサーの山田真充氏にインタビューを実施。開発秘話やゲームの見どころなどをうかがった。

※インタビューは2024年4月上旬に実施。

遠藤琢磨氏(えんどうたくま)

 アクワイア代表取締役。文中は遠藤。

山田真充氏(やまだまさみつ)

 『霧の戦場のヴェルディーナ』プロデューサー。文中は山田。

ユーザーの期待に応えるために短期間で体験版を3回配信

――『霧の戦場のヴェルディーナ』が5月23日に発売を迎えます。現在の率直な感想を教えてください。

遠藤15人程度のメンバーで約1年かけて開発を進めてきました。やっと商品化して皆さんの手に届けることができます。新規IPのタイトルなので発売するのが非常に楽しみでもあり、ちょっと不安でもあり……といった心境です。

山田じつは先週マスターアップしたところで、いまはホッとしているというのが率直な感想です。最後まで体験版のフィードバック対応に付き合ってくれた開発メンバーには感謝してもしきれません。

――直近まで体験版のフィードバック対応に追われていたのですね。

山田2023年11月に上海で行われた“WePlay Expo 2023”に出展した後、遠藤さんに体験版をやらせてほしいと直談判して配信が決まりました。そこから開発メンバーと話し合って、12月にSteamで1回目の体験版を公開し、フィードバックに対応しつつバージョンアップを行ってきました。気づいたら3回のアップデートをしていましたね。

遠藤好意的な意見もあったけど、最初の体験版を公開したときはきびしい意見が多かったよね?

山田そうでしたね。

遠藤いただいたユーザーの意見をフィードバックしてから新しい体験版を公開するようにしたので、評価は着実に上がっていきました。ただ、3回も体験版を配信するとはもともと考えていなくて(笑)。

 スクウェア・エニックスさんといっしょに手掛けた『オクトパストラベラー』では、体験版を出した後にユーザーの意見をもとにアップデートした新しい体験版を公開したことがありました。ですが、あのときは1年くらい期間を空けていたんです。今回のように2023年12月から2024年の4月までの短い期間、かつ土壇場でユーザーの意見を反映してアップデートを重ねたことはなかったので、Steamならではだなという気がしています。

――ユーザーからとくに多く寄せられた意見は?

山田デッキの持ち越し可能な枚数に対する意見が多かったです。当初はステージをクリアーしたときにカードを1枚だけ持ち越せるようにしていました。我々としては重要なカードを1枚選んで、少しずつデッキを強くしていく流れを想定していましたが、このままではデッキを構築する楽しさを感じにくいというご意見をいただき……。

 カードは全部持ち越したいという意見が圧倒的に多かったので、そこはユーザーの反響を素直に受け入れて、ほぼすべてのカードを持ち越せる仕様に変更しています。

遠藤デッキ構築が好きな熱心なファンからの熱い声が多かったです。

山田Discordでユーザーからの感想を募集したのですが、どれもすみずみまで目を通して、できるだけ対応するようにしました。

遠藤スケジュールがけっこうギリギリだったので、正直に言うとすべて対応するのはきつかったんです(笑)。でも意見を言ってくれるということは、改善してくれるだろうという期待の現れでもあります。ユーザーの意見は真摯に受け止めて、多くの方がある程度満足できる内容に開発できたなと手応えを感じています。

――デッキ構築に対する要望のほかに、印象に残っている意見はありますか?

山田カードのバランス調整に関する意見です。「このカードはあまり役に立っていない」、「このカードの効果を調整してほしい」といった声は数多く寄せられました。

 カードのバランスはユーザー間でも議論のネタになっていて、客観的な視点でユーザーの議論を観察して、調整したほうがいいなと思ったものに関しては、ユーザーの意見を反映するようにしています。

――ほかに体験版からアップデートした要素があれば教えてください。

山田アート面でいうと、シナリオパートの会話シーンがよりリッチになっています。以前はデフォルメされたキャラクターを表示していましたが、頭身を上げたイラストに差し替えました。これはユーザーの意見を反映したというのはもちろん、開発メンバーからも見た目を変えたいという声が多かったので。

遠藤会話シーンで表示されるイラストに関しては、以前から「何とかして」と伝えていたんですよ。

山田クオリティーを上げたいとは思っていたのですが、ほかの作業で立て込んでいたので、遠藤さんに指摘されるたびに「すみません」と謝りながら後回しにしていたんです。でも、このタイミングを逃したら調整できないというときに腹をくくりました。1月頭にアートチームを招集し、2週間で新しいイラストを描いてもらいました。

遠藤イラストを変えたのに気づいてくれたユーザーはいるの?

山田いましたよ。SNSやDiscordでチェックした限りでは、よくなったと好意的な意見が多かったです。

――無理したかいがあったのですね。先ほど上海で行われた“WePlay Expo 2023”に出展したというお話がありましたが、海外ユーザーの反響はどうでしたか?

遠藤“WePlay Expo 2023”では試遊台が埋まるほど列ができていたので、熱量が高いなと思いました。

山田海外では日本のアニメや声優さんが人気です。本作のストーリーは、Lynnさんや大塚剛央さん、種崎敦美さん(※)などの豪華声優陣によるフルボイスで展開されるので、シミュレーションRPGやデッキ構築ゲーム好きはもちろん、出演者から興味を持ってくれた方も多いなと感じました。

※種崎敦美さんの崎はたつさき。

――ストーリーにもかなり力が入っていると。

山田そうですね。シミュレーションRPGというジャンルを謳っている以上、ストーリーをおろそかにするわけにはいきません。

 最近のユーザーはおもしろいゲームやアニメを体験して目が肥えている方も多いですし、僕自身ゲームやアニメのファンとして、ストーリーは必ずいいものにしたいと考えて制作しました。

――海外のユーザーと日本のユーザーで反響に違いはありましたか?

山田違いはあまり感じていませんが、SNSなどをチェックしていると「5月は『霧の戦場のヴェルディーナ』で決まり」とつぶやいてくれている方もいて……。日本のユーザーの期待値も高いのかなと感じています。

遠藤Steamは海外のユーザーが多いので、正直、日本のユーザーの声はそこまで届いていないのが現状です。4月11日からNintendo Switchでも体験版が配信されますので、ぜひ遊んだ感想をいただきたいです!

――本作は小規模なプロジェクトだとうかがっています。大規模なプロジェクトと違って、どういった点が重要だと感じましたか?

遠藤開発に長く時間をかけられないぶん、ひとつひとつの判断にスピードを求められました。そこが大規模なプロジェクトとの大きな違いでしたし、重要なポイントだと思います。

 あと、本作はフルプライスではなくミドルプライスのタイトルなので、大作のような予算をかけることができません。限られた時間と予算の中で、的確な判断をくださないといけないのはたいへんでしたが、やりがいもありました。

遠藤氏と山田氏がデッキ構築ゲームにハマって本作が誕生

――本作の開発経緯を教えてください。シミュレーションRPGとデッキ構築の組み合わせはユニークですが、このアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか?

山田いちばんのきっかけは、僕と遠藤さんがデッキ構築ゲーム『Roguebook』にハマったからです。自分たちもデッキ構築ゲームを作りたいと考えるようになったのですが、すでにたくさんある。デッキ構築ゲームを通して、ユーザーに新しい体験を提供するにはどうしたらいいかを考える中で、別のジャンルとかけ合わせてみることにしました。

 いろいろな組み合わせを考える中で、シミュレーションRPGとデッキ構築なら数多くのデッキ構築ゲームに埋もれることなく、新しい体験を届けられるのではないかと思ったのが、開発をスタートした経緯になります。

遠藤ただ、開発を進める中でシミュレーションRPGの位置取りの戦略とデッキ構築のカードの戦略が組み合わさると、ライトユーザーには敷居が高いんじゃないかという懸念が生まれて……。逆に、コアユーザーにはどちらも体験できたほうがいいという意見もあって、バランスのいい落としどころを見つけるのがたいへんでした。仕様をひっくり返したこともあったよね?

山田ありましたね。

――どんなところをひっくり返したんですか?

遠藤最初はユニットの行動にコストがあって、動けるマスの数に制限があったんです。

山田いまよりも難しいうえにテンポが悪かったのでコストは廃止しました。

遠藤ほかにもルールを整理して、バトルが3ターンで終わるように調整しています。

――ボスとのバトルを5ターンに延ばした理由は?

山田ボスは通常の敵と比べてHPが多いので、3ターンだとHPを減らしきれませんし、ボスの猛攻がきつくてやられるかもしれないという緊迫感も味わえません。いろいろなターン数で検証してみたところ、5ターンがちょうどいいなと感じました。

――仕様をひっくり返したというお話も出ましたが、開発は難航しましたか?

山田難航は……しましたね。弊社の一部タイトルでは、開発中に何度か外部のクローズドのテストを行うのですが、その評価が非常によかったんです。遠藤さんや役員にプレゼンする際、好評だったことを伝えたところ、遠藤さんにダウンロード版だけではなくてパッケージ版も出したほうがいいと言われて。

遠藤だっていいゲームになりそうならパッケージで出したいじゃないですか(笑)。

――確かに(笑)。

山田それでパッケージ版も出すことになり、当初よりも予算を追加してボリュームを増やすことになりました。そこがいちばんの分岐点になったと思います。そこからどうやってボリュームを増やすのかを開発メンバーと検討しました。

 当初フルボイスの予定はなかったのですが、予算とボリュームが増えたので、急遽声優のキャスティングをしたり、「オープニングムービーも必要だよね」ってことでオープニングムービーを手掛けてくれる協力会社さんを探したりして……。これらを約1ヵ月半の期間でやり切りました。あまりに忙しくて当時の記憶がないのですが、結果的に見れば遠藤さんの決断は正しかったと思います。

遠藤ゲームのクオリティーが格段に上がったよね。

――先ほど開発の発端となったゲームとして『Roguebook』の名前が挙がりましたが、本作を開発するうえで参考にしたタイトルはありますか?

遠藤デッキ構築ゲームはローグライク要素とかけ合わせた『Slay the Spire 』。

山田シミュレーションRPGは『ファイアーエムブレム』シリーズです。このジャンルといえばこのタイトルだよねというのはひと通りちゃんと押さえつつ、名作を意識しながらファンの期待を裏切らないように開発しています。

――実際にプレイしてみたところ、地形効果や高さ、向きのシステムが実装されていなかったので、シミュレーションRPGの要素は遊びやすいように簡略化されていると感じました。これらのシステムは入れると複雑になるからあえて実装しなかったんですか?

山田シミュレーションRPGとデッキ構築ゲームのよさを両立させる絶妙なバランスを実現するために、シミュレーションRPGの地形効果や編成による特殊攻撃など、おなじみの要素の実装は見送っています。

 デッキ構築ゲームを名乗る以上、カードバトルで勝敗を決めたいユーザーが多いと思いますが、シミュレーションRPGの要素がバトルに及ぼす影響が大きくなってしまうと、デッキ構築ゲームとして成立しないのではないかと考えました。

遠藤本音を言えば、僕はシミュレーションRPGの要素をもっと入れたかったなぁ。続編を出すことができるなら地形効果とかほしいよね。

山田やはりバランス調整が難しいかなと。地形効果の影響が強いとカードバトルの意味がないですし、かといって地形効果の影響が弱いと今度は地形効果を利用する意味が薄れてしまうので……。

――「これは入れたかったな」と最後まで悩んだ要素はありますか?

山田う~ん、ないですね。僕としてはやりきったなと。

遠藤いやあ、まだできるよ(笑)。

山田もし続編を作る機会があれば、ユーザーの意見も確認しながらまた新しい体験を提供したいと思います。

――気が早いですが楽しみにしています! バトルシステムでは、ポイントを割り振って自由に獲得できる“指揮官スキル”も特徴的だと思います。こちらはどのような経緯で実装したのでしょう?

山田ローグライクの要素も取り入れている本作では、たとえバトルで負けてもつぎがんばれば勝てるかもしれないと、プレイヤーに希望を与えることが大切だと思っています。その要素のひとつを指揮官スキルが担っていて、スキルツリーのルートによって異なる成長を得られます。

 スキルは自由に振り直せるので、バトルで負けたときは違うスキルを獲得して、再度チャレンジするといいかもしれません。

――デッキ構築ゲームだと、カードのバランス調整も苦労されたかと思います。

山田はい。最終的なバランス調整はくり返しプレイして行っていますが、最初の設定段階のときは専用のプログラムを開発してシミュレーションを行いました。データ上でチェックしてバランス調整を行った後、実際にプレイする。さらに調整行うといった流れでバランスを判断しています。

遠藤最初にシミュレーションするのはプログラマーの山田さんならではのやりかただなと思いましたね。自分のスキルをうまく使って効率的に進めているなって。

山田ステージ全体の難易度曲線もきちんと可視化したほうがいいと考えて、最初にシミュレーターのツールを自作しました。まずはシミュレーション通りになっているかどうかをツール上でチェックした後、実際にデータを設定してプレイしましたね。プレイした後に問題があれば再調整するといった形で効率的にバランス調整を行っていました。

――山田さんが最初から効率化していなければ約1年で開発できなかったかもしれませんね。

遠藤シミュレーションRPGはバランスを取るのが難しいので、開発期間が延びたかもしれません。ただどんなに調整しても、僕たちが考えもしなかったものを発見するユーザーはいますからね(笑)。

山田体験版のときは、いわゆる“ずっと俺のターン”のようなデッキを構築している人がいて、こんな方法もあるんだとビックリしました(笑)。発売後にユーザーさんがどんなデッキを考えてくれるのか楽しみです。

体験版が気になった人は初回生産特典付きのパッケージ版をチェック!

――ズバリ本作ならではの見どころを教えてください。

山田見どころはたくさんあるのですが、あえて挙げるならカードイラストとストーリーです。カードイラストにはJRPGライクなイラストを採用していて、親しみやすい雰囲気に仕上がっています。いろいろなイラストを用意していますので、ぜひ見ていただきたいですね。

――ちなみにとくにお気に入りのカードイラストは?

山田僕が好きなのは“完全回避”です。

遠藤“逃げるが勝ち”が好きです。

――おふたりとも回避系のカードが好きなんですね。カードは何種類収録されているんですか?

山田全部で100種類以上になりました。

遠藤最初は50種類ぐらいと聞いていたのに、いつの間にか100種類を超えていて(笑)。

山田バランスを調整していくうちにどんどん増えていきました。

――遠藤さんが推したい本作の見どころは?

遠藤バトルの背景にも注目してほしいです。

山田フィールドとバトルの画面はユーザーがいちばん目にする機会が多いので、見飽きないようにこだわっています。動かすところはしっかり動かしていますし、見た目や色合いなどがかぶらないように注意しています。

――フィールドが“霧”に覆われていて、最初からマップ全体が見えないのも特徴的だと思います。このアイデアが生まれた経緯は?

山田遠藤さんがフィールドを探索している雰囲気を強めたいとのことだったので、僕のほうから「フィールドが霧で覆われていて、探索すると少しずつ霧が晴れてフィールドの全容が明らかになるようにしてはどうだろうか」とアイデアを出しました。

 ゲームタイトルにも入っている霧はゲームシステムの見どころにもなっています。霧が晴れないと敵の種類がわからないので、戦略を考えながらユニットを移動させる必要がありますし、フィールドには宝箱やカードの入手・破棄ができる施設もあります。フィールド探索中にどのタイミングで宝箱や施設に向かうのかも重要になってきますね。

遠藤シミュレーションRPGとカード構築ゲームをかけ合わせた新しいバトルシステムにも注目してほしいです。新たなジャンルを提案しているので、本作が多くのユーザーに受け入れられたら第一人者として続編やスピンオフ作品をたくさん作っていけるなと。ぜひ応援をお願いします!

――本作のほかに『Scars of Mars(スカーズ・オブ・マーズ)』などのタイトルも動いているかと思います。そちらの開発状況や発売日の展望などを教えてください。

遠藤『Scars of Mars(スカーズ・オブ・マーズ)』の開発状況としましては、すでに最終のデバッグを進めているところです。発売のタイミングは見計らっているところなのですが、おそらく夏ぐらいまでには発売できると考えています。

――こちらも要注目ですね! 最後にこの記事を読んでいる読者にメッセージをお願いします。

遠藤昨今はダウンロード版が主流ではありますが、『霧の戦場のヴェルディーナ』は初回生産特典つきのパッケージ版を用意しています。80ページのアートブックに加え、17曲の楽曲を収録したオリジナルサウンドトラックCDが付いていますので、体験版を遊んで気に入ってくれた方はぜひパッケージ版を手に入れていただきたいです。

山田先ほどもお話ししましたが、Nintendo Switchの体験版は4月11日から配信されます。Steamの体験版をまだプレイしていない方は、ぜひチェックしてください。

 そして、ゲーム本編のアートワークと楽曲はかなりこだわってクオリティーの高いものに仕上がっています。遠藤さんとかぶりますが、本作のアートやサウンドがいいなと思った方は、アートブックやオリジナルサウンドトラックCDを入手して堪能してください。

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