「ありがたき哉 日本語化」は,ここ最近で日本語対応となった海外作品を良い機会だからあらためて紹介しようという,フワッとしたコーナーです

 「夏は終わったが,ホラー気分がまだ抜けない。そんな私は,SFモチーフで宗教要素も感じられる,グロく,難しく,物語のエグいゲームを所望する」という人は,今回紹介する「STASIS: BONE TOTEM」を遊んでみるといいかもしれません。


 STASIS: BONE TOTEMは,海洋サルベージ業者(の夫妻+1体)が,遺棄されたと思しき洋上採掘リグや謎の海底施設などを探索するというSFホラーアドベンチャーです。あたりは血まみれ死体がゴロゴログロテスクな実験の痕跡もあるうえ,なんか不気味な偶像まであるやん……みたいな場所で,彼らは足止めをくいます。そこで彼らは,必死に脱出を試みつつ,海底に隠された秘密に近づいていくわけです。


 本作は2023年5月から順次,各プラットフォームに向けてリリースされ,PC版は2024年8月に日本語が正式にサポートされました。ありがたき哉。すべてを確認できていませんが,Steam版とEpic Gamesストア版の商品ページには日本語対応の表示がありますね(コンシューマ機版も存在しますが,商品ページに日本語対応の情報はありません)。そんな本作は本稿執筆時点で,Steamで1500近いレビューを集め,“非常に好評”(全てのレビュー)を獲得しています。




※ネタバレを避けるため,スクリーンショットは可能な限り序盤のものを使用しています。ゴア表現が強めな画像は控えていますが,その手の表現が苦手な人はご注意ください


海底に閉ざされたミステリーに2人と1体が迫る


 STASIS: BONE TOTEMは,Chris Bischoff氏Nic Bischoff氏の兄弟による開発スタジオ・THE BROTHERHOODが開発しました。世界設定を共有する「STASIS」とそのスピンオフ「CAYNE」に続く,STASISシリーズの最新作ですね。シリーズ作品ではありますが,“BONE TOTEM”はロケーションとキャラクターを新たにした作品なので,今作から遊んでも問題ないでしょう。


 なお本作の日本語は,onigirin氏によるファン翻訳が採用された形となっています。テキストが多いゲームですから,実にありがたいことです。

言語選択画面。ファン翻訳のものが判別できるようになっています

 本作では,海洋サルベージ業を営むマックチャーリーの夫妻が,遺棄されたと思しき洋上採掘リグを訪れるところから物語が展開します。彼らはお仕事にきたわけですが,どうもこの場所は様子がおかしい。調査を進めるうちに,そこは慌てて放棄された施設であることが判明し,従業員らしき人物の死体も多く発見します。しかも死体は切断されたり解剖されたりと,不審な点だらけでした。


 探索を進めていくなかで危険を察知した夫のマックは調査を打ち切るべきだと考え始めますが,妻のチャーリーは調査の続行を強く訴えます。夫妻は結局,亡くなった娘のスーパー・トイ(高性能ロボット)であるモーゼスを伴ってさらに探索を進め,深みにはまっていくことになるのです。なお以下では便宜上,マックとチャーリー,モーゼスを“3人”と表現します。

マック

チャーリー

モーゼス。キモコワカワイイ,声がシブい,ちょっとネガティブ思考

家族(?)の関係性も見どころ

 そんな本作のゲームシステムは,3Dグラフィックスを採用した,斜め見下ろし視点のポイント&クリック型のアドベンチャーゲームといったところでしょうか。プレイヤーの具体的な操作としては,キャラクターの移動,気になるポイントのクリック,同ポイントを拡大した画面での謎解き――の3つが主なところで,そこにちょっとしたアイテムやUIの操作などが加わる形となります。

ロケーションのバリエーションは豊富です。ただ(設定をいじっても)全体的に暗く,その点は正直言ってストレスフルでした

 なお“ポイント&クリック型”としていますが,プレイヤーが気になるポイントを探してクリックする形ではありません。キャラクターが移動する空間内,そして謎解き画面でインタラクトできる,というかすべき場所は,すべて強調表示が可能です。重要なポイントそのものを探したり,見逃したりすることは(おそらくほとんど)ない,ということですね。

このように,アクションを起こせる場所へ向けてマーカーを表示できます

謎解き画面も同様です。○(マル)で示された場所に対して,アクションを起こしたりアイテムを使ったりします

 そして謎解きに関しては,マックとチャーリー,モーゼスそれぞれを操作する点,それぞれが得意分野を持っている点,そしてアイテムを彼らで共有している点が,本作ならではの味付けと言えるでしょう。


3人は個別の“技”を持つ。アイテムは全員で常時(!)共有


 謎解きの多くは,アイテムを使用したりパズルを解いたりして,仕掛けを作動させるものとなっています。鋭い刃物を使って袋を裂く,どこかで見かけた数字をコンピュータに打ち込む,空(から)のバッテリーを充電する――みたいな感じでしょうか。
 ただ,上記のように単純なものばかりではないうえ,現場は異変のまっただ中にある場所です。いつでも都合良くアイテムが手に入るわけではありません。そこで,3人がキチンと力を発揮する必要が出てくるわけです。

ごく序盤を除いて,3人が一緒にいることのほうが少ないですね

 3人はそれぞれ得意分野があるというか,もっとゲーム的に言うとスキルを持っています。マックはアイテムの分解や破壊が可能で,チャーリーはその反対で複数のアイテムを組み合わせたり修理したりすることができます。そして高性能ロボットであるモーゼスは,PCやガジェットをハッキングする能力を持っています。

 たとえばマックの能力を使えば,鉄の棒を潰してヘラ状にするとか,壊れた機械を分解して,まだ使える部分とゴミに分けるといったことができます。そうして生まれたパーツも含め,チャーリーがいくつかのアイテムを組み合わせて,使えるアイテムを作り出してくれるという感じですね。

マックの場合,たとえば「先端に爆薬を仕掛けた銛」というアイテムを画面右下の特殊なスロットに入れて能力を発揮するボタンを押すことで

「着火装置のない爆薬」と「槍の穂先」に分解できます

同様にチャーリーは,たとえば「空のアセチレン切断トーチ」と「酸素アセチレンカートリッジ」を,画面右下の特殊なスロットを使って

「充填したアセチレン切断トーチ」へと組み立てられます

ちなみにモーゼスの能力は,コンピュータを前にしたときに自然に(?)発揮される感じです。「あ,ハッキングできた!」みたいな

 もう一つ重要なのが,3人がたとえ離れていたとしても,常に全員でアイテムを共有できる点でしょう。意味が分からないと思いますが,彼らは「QSD」(Quantum Storage Device)というハイテク装置によって,なんらかの共有倉庫にアクセスできるのです。ゲームのインタフェース上,常にアイテムは誰かのイベントリに入っているわけですが,アイテムを渡したり,誰かのインベントリから取ったりというのは,いつでも可能な作りとなっているんですね。

同じアイテムでも,誰の視点で見るかで認識が(当然)変わります。アイテムの使い方という点では,これが大きなヒントになることもあります

 この共有システムによって,マックとチャーリーの能力が活用しやすくなっています。壊す,分解する,組み合わせるが可能かどうかはアイテムによって決まっているので,プレイヤーがスキルの使い方を誤ることはありません。アイテムを手に入れたらまずは,壊したり分解したりできないか,ほかのアイテムと組み合わせられないかを試すのが,プレイヤーの定石的な動きになるんじゃないでしょうか。

謎解き,パズルはたっぷりありますよ!


海底に隠された謎を追い,家族の葛藤の行方を眺める


 謎解きはなかなかに歯ごたえがありますが,本作は,ゾッとするような海底で何が起こったのか,そもそもそこで何が行われていたのかにドキドキしながら迫ったり,3人の家族としての葛藤や問題が探索を進める中でどうなるのかを追ったりできる点が,最大の魅力だと思います。声優による演技は真に迫っていて,おぞましい現場の緊張感を終始感じられるのも見どころでしょう。

プリレンダリングのムービーも臨場感を高めてくれます。冗長なシーンを入れず,要所でのみ効果的に使用されている印象でした

 物語の世界に没入するという意味では,死体のそばに落ちているPDAの個人ログから,施設内で何がを起こったのかだけでなく,彼らがそこにいる複雑な事情や人間臭いやりとりを知ることができるのも,実に楽しい要素だと感じました。探索を進めるうちに,彼らが使っている謎の固有名詞にプレイヤーがだんだん習熟していく――というのも,まるで自分が冒険しているかのように感じれる点ですね。


 なお本作には,謎解きの答えが分かる丁寧なガイド(※)が用意されています。これは,謎解きをあきらめたような場合でも,物語そのものはじっくりと楽しんで作品世界に浸ってほしいという開発元のメッセージでしょう。実際に世界設定は実に魅力的があります。シリーズ作品や(あれば)続編も遊びたいと感じさせてくれるタイトルなので,興味が出た人はぜひ遊んでみてください。

※……以下外部リンクを用意しておきますと,公式サイトや「SUPPORTERS PACK」(DLC)にイラスト付きのガイドがあります。ただそれらは英語なので,Steamにある公式ウォークスルーを和訳して利用するのがおすすめです



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