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突然ですが，深夜のファミレスって独特な空間ですよね。終電はとっくに過ぎていて，新しいお客さんも来なくて。賑やかなランチやディナータイムが「表面」だとしたら，深夜のファミレスはうってかわって「裏面」のようにひっそりたたずんでいます。裏面といえばマリオ3でワープするとき，白いパネルの上でしゃがむと背景の後ろに行けるじゃないですか。あれ好きだったなぁ。
深夜のファミレスを想像すると，何を思い浮かべますか？ スマホでSNSを見ながらだらっとおしゃべりしたり，ウトウトと居眠りをしたり，隣のお客さんをこっそり観察したり，冷めたポテトをつついたり，ストローの袋で折り紙したり。それは何かを持て余しがちな人々が，ぷかぷかと浮かんで流れ着いた小さな島のような場所にも感じます。では，そんな深夜のファミレスが，本当に世界からバツンと切り離された孤島になったとしたら？ そんなゲームがこちら。月刊湿地帯のアドベンチャーゲーム「ファミレスを享受せよ」（PC / Nintendo Switch）です。
ファミレスを享受せよ
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試験勉強の息抜きに深夜のファミレスへ出かけた主人公は，初めて見つけた「ムーンパレス」というファミレスに入店します。注文したソフトクリームがいつまで経っても届かないことに違和感を覚え，店員を呼ぼうとすると，店内の様子がまるで変わっている。店員もいなければ出口もないことに気が付き店内を探索するうちに，飢えや老いや死が存在しない「永遠のファミレス」に閉じこめられたことを知る……という物語が描かれます。
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ファミレスで永久に雑談しよう
主人公は，自身と同じくムーンパレスに閉じこめられた人に話しかけることによって話題を入手し，そこから情報を得ていきます。この他愛もない雑談がとにかく心地良いのです。永遠ともいえる時をファミレスで過ごしている彼らの気だるい適当な会話からは，喜怒哀楽を越えた諦めのようなものを感じます。でも決して卑屈にはならず，他人であるという一線をきっちり引きながらも，同じ閉鎖空間を生きるものとして，ときにユーモラスだったり，さり気なく思いやりを見せたりして接してくれます。この距離感が絶妙なんですよね。ゲーム画面をあらためて見ると，テーブルの手前が広く空いていて，テーブル越しの物理的な距離でもそれが強調されているように感じます。
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ムーンパレスでほかのお客さんに話しかけまわった唯一の存在が主人公です。明るく活発……という印象ではありませんが，妙に行動力があり，挙句の果てに「話すことがない」と言って話しかけるなんてことも。一歩間違えれば「他人の心にズカズカ土足で入り込むお節介な人」になってしまいそうですが，その踏み込み加減が絶妙でとても魅力的なんですよね。よくよく考えてみると物語の主人公ってお節介すぎるよなぁ。それでいうと本作の主人公は，主人公っぽくない独特の距離感が心地良いです。
本作の会話の心地良さを説明するのって非常に難しいんですが，どうしても語りたいのは，会話が「アニメ声じゃない」「抑揚がない」ことですね。え？ このゲームにボイスは付いているのかって？ 付いてないですよ！ いやいやテキストを読んでいるだけでイメージできるんです！ 会話から醸し出される適当で気だるい雰囲気は，物語がシリアスな展開になっても変わらずで，この感傷に浸らせない，自己陶酔感がない感じがたまらないのです。こんなにも「もっと会話したい！ 彼らと共に過ごしたい！」と思うゲームは初めてかもしれません。
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こんなに月が綺麗な夜はファミレスに行こうかな
皆さんには夢の中でしか行けない場所ってありませんでしたか？ 私は小さいころにありました。現実のどの場所とも違う，夢の中にだけある場所。本作をプレイしてなんだか久しぶりにそういう体験ができたような気がしました。Switch版でプレイするとギャラリーモードが見れるのですが，想像以上に設定資料集として味わい深かったのでおススメです。
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■■結（女優・タレント）■■
女優・タレントとして活動中。国内映画祭にて主演女優賞を多数受賞。幼少期からのゲーム好きが高じ，数多くのゲーム番組でMCを務め，イトキチ（糸吉）の愛称で親しまれている。
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