 |
gamescom 2024の一般向けフロアには，日本の城郭を模した，真赤で真四角なクローズドブースがあり，その中には120人ほど着席できるシアターが用意されていた。一般参加者がここで何を見たのかは不明だが，メディアデイで筆者が参加したときは，本作のアートディレクターであるティエリ・ダンスロー（Thierry Dansereau）氏によって，「アサシン クリード シャドウズ」に加わる新しいビジュアル効果やグラフィックス技術の新世代テクノロジーについて紹介されたので，その内容をお伝えしよう。また，プレゼンテーション終了後，ダンスロー氏にメールで追加の質問をして，その返答も記載している。プレゼンテーションの内容とあわせて確認してほしい。
戦国時代の日本をゲーム化する
ダンスロー氏は，「アサシンクリード」シリーズのような大きなゲームは，複数のチームが絡む集団的な努力によって作り出されていると話す。
2018年の「アサシン クリード オデッセイ」以降は，開発の主導権を600人ものメンバーが在籍するUbisoft Quebecが握り，各スタジオのプログラマーやテクニカルアーティストらが技術開発に参加したという。シリーズでは初めて“新世代機オンリー” になるタイトルであり，最新型Anvil Engineでイメージのクオリティが上がったことを強調するビジュアルにこだわったと述べられた。
 |
そのイメージクオリティに関する3つの柱の1つが，ゲーム世界の環境や生態系，ランドマークを精巧に作り上げる「フォトリアリズム」で，スケール感をリアルに再現しつつも，Anvil Engineでは初めてとなるRTGI（Ray-Traced Global Illumination）をフィーチャー。これは，太陽や提灯などの光源と，その光から作り出される影だけでゲーム世界が描かれているということになる（ウソの光源はない）。
2つめの柱となるのは「リアライゼーション」で，プレイヤーに可能な限り没入してもらうため，細部のディテールにこだわっているとのこと。プレイヤーキャラクターが，より地に足の着いたリアルなものとなり，一新された風の表現やパーティクルシステム，さらに天候状況を強調することで，ゲーム世界の雰囲気が高められている。
3つめはAnvil Engine最新版の開発当初から念頭においていたという「ダイナミズム」だ。四季の移り変わりに合わせて葉が色付き，花を咲かせ，新緑から紅葉，葉が散って木は幹と枝だけになるというようなフォリッジ表現を実装している。Spray-Water Systemにより，枝に付着した雨粒が風向きに合わせて飛んでいったり，冬になったら池の水面が凍りついたりといった，時間の流れが表現されるようになった。
「私の個人的意見ではあるが，日本は世界中で最も美しい場所の1つ」とダンスロー氏は話していたが，こうした新しいテクノロジーの導入によって，同じランドマークや村に立ち寄ったとしても，季節の変化によって新しい姿を楽しめるというのは，多くのゲーマーにとって非常に興味深い要素だろう。
さらに細かく見ていくと，Anvil Engineによって「アサシンクリード」の世界は以下のように変わる。
 |
Dynamic Wind and Spray
物理効果を利用して，風の動きとその影響を受ける樹木や草の滑らかな動きを忠実にシミュレートする機能だ。樹木は，頂点シェーダー※を使ったアニメーションではなく，風の影響を受けてそよぐ。キャラクターの衣服もこの機能でシミュレートされているので，風の影響を受けた草木の動きと衣服の揺れはマッチし，それぞれが逆方向に揺れるなんていうことはない。※頂点シェーダー：3Dグラフィックスにおいて各頂点に対して処理を行うプログラム。頂点の座標変換，法線ベクトルの計算，テクスチャ座標の生成，頂点カラーの決定が含まれる
冬に強風が吹けば，地表の雪が舞い上がる。雨粒の角度と，一旦屋根に落ちてから軒に流れてくる水の流れの方向を別にするといった，細かい表現もできるようだ。
Dynamic Seasons & Weather States
前述したように，「アサシン クリード シャドウズ」で使用されるAnvil Engineの最新版は，四季の表現ができるようになった。これはゲームプレイにも大きく影響し，夏場であれば濁った池に身を潜めて隠れながら進めるし，冬になれば池は凍り付き，その上に雪も積もる。地面に積もった雪は歩く音を消してくれる効果があり，積もった雪に這いつくばって身を潜めることも可能だ。雨や霧なども敵の視界に影響を与える。 |
Prop＆Foliage Destruction
ゲーム世界の多くのオブジェクトはリアルに破壊される。例えば樹木は，武器タイプによって破壊のされかたが異なり，刀や槍の振りぬく方向にそって切り落とされるという。こういった表現は，戦闘時に視覚的なインパクトを与えるものとして期待できるだろう。ATMOS
ATMOSとは，天候制御の最新システムの名称だ。大気中の雲がダイナミックに表現され，雲が重なることで雨雲となり，雨を降らせる。「Microsoft Flight Simulator」のように湿度までを再現しているわけではないようだが，高所に行けば雨雲が発達している様子や，遠くで雨が降っているのが見えるという。雨が降り出す前に弥助で正面突破するか，雨を待って奈緒江で潜入するか，ゲームプレイの選択にも影響を与える。Dynamic Lighting
「アサシン クリード シャドウズ」では，拡張性があるグローバルイルミネーション（太陽やランプなどの光源だけが照明源となり，ウソの光源は存在しない）技術が採用されており，季節や時間，建物内外に関わらず同じ原理で世界を照らす。たいまつやロウソクの灯りは，周辺に反射する光をゆらゆらと微妙に揺らす。また，霧の発生具合によっては，木漏れ日の雰囲気も変わるという。Virtual Geometry
新たなAnvil Engine向けに，同社では初めての利用となる内製の仮想化ジオメトリシステムが開発され，「アサシン クリード シャドウズ」がその恩恵にあやかる最初のタイトルとなる。ダンスロー氏によると，広大なマップ領域を持つオープンワールドRPGで仮想化ジオメトリが利用されるのも初めてとのことだ。この新システムにより，3D映像を生成する方法が根本から見直された。その結果，画面に表示されるポリゴンの数が圧倒的に増加。ゲーム内の風景や建物，キャラクターなどがより精密に描写されるようになった。街の喧騒や自然の風景，歴史的建造物の細部にいたるまで，かつてないほどリアルに表現されているという。
これらのほかにも，表情アニメーションの仕組みなどについても大きく改良されていることが示唆されたが，今回のイベントでは詳しく紹介されなかった。いくつか気になった点があったため，ダンスロー氏に追加で質問をしている。こちらもあわせて確認してほしい。
 |
開発者インタビュー：四季はゲームプレイやNPCの行動にも影響あり
4Gamer：
日本人および海外のゲーマーコミュニティから，「アサシン クリード シャドウズ」の設定や美術スタイルについて多くの批判が寄せられています。
例えば，桜が咲く頃に農民が田植えをしていたり，すすきと鶴が同時に描かれていたりといった季節表現の矛盾や，神社に仏具があるといった細部の不自然さが指摘されています。これらの批判を受けて，再検討して変更した点はありますか。
ダンスロー氏：
コミュニティの高い期待を認識しており，すべての建設的な批判を真摯に受け止めています。公開したプロモーション映像は開発中の状態のものです。私達は発売に向けて，一貫性があって信頼できる，そして敬意を払った封建時代の日本の描写を作り上げるために懸命に取り組んでいます。
日本人と海外のコミュニティの両方が，このワールドを作り上げるためにチームが注いだ熱意と配慮を評価してくれることを願っています。
4Gamer：
季節の変化は素晴らしいと思います。本作のストーリーは1582年から1583年という短い期間で展開すると聞きましたが，各季節はゲーム中に一度か二度しか訪れないのでしょうか。
ダンスロー氏：
季節は進行に伴って自然に変化するので，プレイを通じて各季節を複数回経験する機会があるでしょう。特定の重要なイベントやミッションでは，物語やゲームプレイに合わせて季節が設定されます。
 |
4Gamer：
公開された映像を見ると，季節がゲームプレイに影響を与えるようです。例えば，凍った池が別のルートを提供するなど。嵐や霧で視界が悪くなったり，イーグルアイに影響したりしますか。
ダンスロー氏：
はい，季節や天候がゲームプレイに影響を与えることがあります。例えば，ご指摘の通り，嵐や霧は敵の視界を制限します。冬には屋根に氷柱が現れ，触れると落下して音を立てることもありますよ。
4Gamer：
季節はAIで制御したキャラクターの行動や服装にも影響しますか。
ダンスロー氏：
季節や天候の状態はAIの行動や外見に影響を与えます。例えば，冬にはNPCが寒さに震え，それが彼らの知覚レベルに影響します。冬や雨の時期には，蓑（みの）や笠を身につけるNPCもいます。
4Gamer：
非戦闘モードで弥助が通常の服装/鎧なしで歩き回るオプションはありますか。
ダンスロー氏：
はい，ゲームでは弥助が着用できる多くの種類の衣装が用意されており，鎧なしのものもあります。
4Gamer：
アサシン クリード シャドウズではミッションに入るたびにプレイアブルキャラクターを変更できるようですが，切り替えオプションを表示せずに1人のキャラクターだけでゲーム全体をプレイするオプションはありますか。
ダンスロー氏：
アサシン クリード シャドウズのコンテンツの大部分は，どちらのキャラクターでもプレイ可能で，プレイヤーの選択した主人公として封建時代の日本を自由に探索できます。
ただし，ゲーム全体を単一のキャラクターでプレイするオプションはありません。アサシン クリード シャドウズは奈緒江と弥助の絡み合ったストーリーを語るものであり，キャラクター固有のミッションや場面を通じて，それぞれの独自の視点を体験していただきたいと考えています。
「アサシン クリード シャドウズ」は，最新のAnvil Engineを駆使し，戦国時代の日本を舞台に描く意欲作だ。本作では，フォトリアリズム，リアライゼーション，ダイナミズムという3つの柱を軸に，かつてない没入感のあるゲーム体験を提供しようとしている。その圧倒的なビジュアルと斬新なゲームプレイ要素は，我々にどのような感動をもたらしてくれるのだろうか。
鄭重声明：本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。
