Snapdragon X Plus
 ドイツ時間2024年9月4日,Qualcommは,ドイツのベルリンで開催中の家電見本市「IFA 2024」に合わせて,ノートPC向けSoC(System-on-a-chip)「Snapdragon X Plus」シリーズの新製品として,10コア仕様の「X1P-66-100」と8コア仕様の「X1P-46-100」「X1P-42-100」の計3製品を発表した。既存製品よりも安価なノートPCへの採用を狙っており,搭載ノートPCは,AcerやASUSTeK Computer,Dell Technologiesなどから登場する予定だ。

 QualcommのノートPC向けSoCは,これまで12コア対応の「Snapdragon X Elite」と,10コア対応のSnapdragon X Plusというラインナップだった。これに8コア対応製品が加わったことで,12コア,10コア,8コアという構成となった。

Snapdragon X Plusの製品ラインナップ。表の下3モデルが今回追加となった製品だ

 ノートPC向けSnapdragonは,どの製品も統合するAI処理用ユニット(NPU:Neural network Processing Unit)の性能は,45 TOPSで差がない。Snapdragon X EliteやSnapdragon X Plusを搭載したノートPCは,すべてMicrosoftが提唱する薄型ノートPCのブランド「Copilot+ PC」の要件に準拠したものになる。
 主な違いは,CPUの最大動作クロックや統合型グラフィックス(以下,統合GPU)の演算性能にある。ただ,例によってQualcommは,統合GPUの詳細について明らかにしていないので,性能差がGPUコア数の違いによるものなのか,動作クロックの差なのかは不明だ。

Snapdragon Xシリーズの製品ロゴマーク。Eliteが金で,Plus(10コア)が銀だったが,Plus(8コア)は銀を黒抜きしたものが使われる

 Qualcommが公開したデータでは,Intelの「Core Ultra 7 155U」やAMDの「Ryzen 7 8840U」といった競合製品と比べると,電力当たりの性能は大きく上回るという。

Core Ultra 7 155Uの性能比較

Ryzen 7 8840Uの性能比較

 Qualcommは後日,8コアのSnapdragon X Plusを搭載したノートPCを使ったデモンストレーションを行っており,ベンチマークソフトを利用した性能検証も披露した。それによると,X1P-46-100を搭載したノートPCでは,「Geekbench 6」のCPUテストで,Single-Coreのスコアが「2773」,Multi-Coreのスコアが「11955」となった。また,「3DMark」のマルチプラットフォーム対応テスト「Wild Life Extreme」では「3920」という結果だった。

ベンチマークセッションに用意されたリファレンス機。X1P-46-100を搭載する

Geekbench 6のCPUテスト

Wild Life Extremeのスコア

 Qualcommによると,Snapdragon X EliteやSnapdragon X Plusを搭載した製品は,すでに22製品を超えており,競合するIntelやAMDに先んじてCopilot+ PCを市場に投入している。ただ,Microsoftの「Surface Pro(第11世代)」や「Surface Laptop(第7世代)」をはじめとして,現状のラインナップは,10万円台から20万円を大きく超えるような価格帯のものが多く,手に取りやすいとは言えない。
 今回発表した8コアのSnapdragon X Plusにより,Qualcommは,700ドル台の安価な製品を送り出したい考えだ。日本市場では,10万円台前半の製品を投入できるかどうかがポイントになるだろう。

ASUSTeK ComputerのSnapdragon X Plus搭載PC。Vivobook S 15は,下位モデルのSoCを採用しており,製品価格が注目される

Acerが発表したSnapdragon X Plusを搭載する「Swift Go 14 AI」

Lenovoが発表した「ThinkBook 16 Gen 7」

 CPUの性能については,Qualcomm,Intel,AMDそれぞれが自らの優位性をアピールしており,一概に「どれが優れているのか」という判断は難しい。それだけに価格面でのアピールは重要で,安価な製品が市場を牽引する要因になりうる。

 MicrosoftがCopilot+ PCという基準を作り出したことで,薄型ノートPCの分野は大きな変化にさらされている。Microsoftは,Surface ProやSurface Laptopといった自社製品にSnapdragon Xシリーズを採用して,Copilot+ PCを大々的に打ち出した。
 Microsoftの思惑は想像するしかないのだが,IntelやAMDのx86系CPUに強く支えられてきたWindowsのイメージを変えたいという意識が強くうかがえる。

 ただ,ARMアーキテクチャを採用したCPU向けOS「Windows RT」や,スマートフォン向けのSnapdragonで,Windowsを動作させる「Windows on Snapdragon」といった過去の取り組みで,商業的に成功したものはない。それだけに今回は,いつも以上に脱x86化に注力しているようだ。
 Copilot+ PCは,6月の発表以降,Snapdragon Xシリーズを搭載したPCのみという状況が続いていた。IFA 2024に合わせて,ようやくIntelの「Core Ultra Processors(Series 2)」や,AMDの「Ryzen AI 300」を搭載したノートPCの発売時期が発表となった。
 Intelによると,Core Ultra Processors(Series 2)を搭載したノートPCは,9月24日から順次販売を開始するとのことだが,PCメーカーによっては,Windows 11の時期大型アップデート「24H2」を待って発売するところもある。客観的に見れば,Qualcommは3カ月〜半年ほどのアドバンテージを得ているということになる。

 Microsoftによる贔屓とも言えるSnapdragon Xシリーズへの優遇だが,そのぐらいのアドバンテージがないと,ArmアーキテクチャベースのPCは,十分なポジションが確立できないということの裏返しなのだろう。IntelやAMDからすると面白くない状況だが,そうした反発を抑えておけるのが,3カ月〜半年という猶予期間なのかもしれない。
 Qualcommは,この猶予期間のうちに確固たるポジションを築く必要があり,そのためにも手に取りやすい価格の製品を増やすことでシェアを拡大させる必要があるわけだ。

Qualcommが,Snapdragonブランドでスポンサードするプロサッカーチームのマンチェスター・ユナイテッドのユニフォームにもCopilot+ PCのロゴを掲出する

 Copilot+ PCと薄型ノートPCを巡る状況が,ゲーマーに与える影響は少ないだろう。IntelがCore Ultra Processors(Series 2)の資料で示したように(関連記事),Snapdragon X Elite製品で動作しないゲームも多い。Snapdragon搭載PCの勢いがゲーマーにまで波及するかどうかは,QualcommとMicrosoftの取り組み次第と言えそうだ。

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