カプコンは2024年8月26日から9月6日にわたって,同社のゲーム開発エンジン「RE ENGINE」を用いた近畿大学との産学連携として,ゲーム開発の体験型実習を行っている。本稿では2024年8月29日にカプコン研究開発第2ビルで行われたグループ授業の模様と,本実習の責任者であるカプコンの伊集院 勝氏へのインタビューをお届けする。


 今回の試みは,カプコンがかねてから着手したかったという,産学連携によるゲーム業界の活性化を狙った取り組みだ。実習は8月26日にスタートし,近畿大学の学生たちは初日にRE ENGINEの使い方をエンジン内のチュートリアル機能で学習し,2日目にはRE ENGINEと「ロックマン」シリーズのキャラクターを使用してゲーム制作の流れを学んだ。

 本稿で取り上げるメディア向けの公開学習は実習の3日目にあたり,参加者は3人ずつのチームを組み,グループでのゲーム開発がスタートしたところだった。


 グループ実習では講師を担当するカプコンのスタッフから,共同開発を円滑に進めるために必要な知識や用語(アセットのバージョン管理,Perforce操作,コンフリクト)の説明が行なわれた。その後,面白いゲームを作るには確固たるコンセプトが必要なこと,制作するゲームのレギュレーションを決めること,そしてなにより作品を完成させるためにはスケジュール管理が重要,といった旨がスライドで紹介され,チームごとの個別作業に移っていった。

グループ制作ではメンバーの意思統一,それぞれの進捗確認が重要だという。RE ENGINEではそういった確認がPerforce操作で円滑に行えるそうだ

Perforce操作では,Updateでチームメンバーが手を加えたデータと同期が取れ,Reventで自分の手元で行った変更をサーバーに反映させたり,アップする前の検証や破棄を行ったりできる

コンフリクトとは複数人の変更が同時に被ること。問題がある場合は対処が必要になるため,問題を極力起こさないようにこまめな声かけが重要とのこと

カプコン側から近畿大学生に提示されたコンセプトの一例

今回グループで制作するゲームに課せられたレギュレーションの一例

短期間で完成を目指す実習のためか,スケジュール管理の重要性は再三説かれていた


伊集院 勝氏インタビュー


4Gamer:
 よろしくお願いします。カプコンと近畿大学でRE ENGINEを使った実習を行おう,と思った経緯を教えてください。

伊集院 勝氏。カプコン技術研究統括 基盤技術研究開発部 基盤開発支援室 所属
伊集院氏:
 もともと産学連携を推進していきたいという考えが弊社にはありまして,今回は近畿大学が夏季休暇に入るタイミングで,実習をやってみましょうという話になりました。近畿大学の情報学部の学部長が久夛良木さんという,ゲーム業界にすごく縁がある方だったこともあり,お声がけがあったんです。

※久夛良木 健氏。ソニーグループでPlayStationの誕生に深く関わっており,プレステの父と称される

4Gamer:
 久夛良木さんが学部長だと,確かにゲーム業界とものすごく距離が近いですね。

伊集院氏:
 ええ。我々もカプコンの開発環境を学生に知っていただく機会を設けたいと考えていたので,すごくいいタイミングでお話をいただけたなと。そういった経緯で今回の実習が決まりました。

4Gamer:
 期間中は学生のみなさんがカプコンに来て,今日のような実習を受けているのでしょうか。

伊集院氏:
 いえ,カプコンでの実習は今日だけですね。いつもは近畿大学でやっております。初日にRE ENGINEのチュートリアル,2日目にはRE ENGINEを使って「ロックマン」を作ってみるという授業を行いました。3日目の今日からは,3人で1つのチームを組んでもらって,共同制作で「ロックマン」のアセットを使った面白いゲームを作ってもらっています。

4Gamer:
 ゲームメディアの人間からすると,RE ENGINEといえば近年の「モンスターハンター」や「バイオハザード」シリーズといった,フォトリアルな表現が得意なゲームエンジンという印象が強いのですが,「ロックマン」のような2D,ドット絵のゲームでも問題なく活用できるんですね。

伊集院氏:
 はい。実はRE ENGINEって,弊社の幅広いタイトルに使われているんですよ。一部のモバイル系のゲームはUnityで作っているのですが,それ以外の最近のタイトルはほぼすべてRE ENGINEを使っています。

 「モンスターハンターワイルズ」だったり,「ドラゴンズドグマ2」といったタイトルはもちろん,「カプコンアーケードスタジアム」みたいな,過去のタイトルを復刻収録しているタイプのソフトもRE ENGINEで作っています。RE ENGINEはカプコンのゲームを作るための最適化されたエンジンですので,ゲームジャンルを問わず使えるものになっています。

4Gamer:
 初日でチュートリアルを終えたそうですが,ゲームエンジンって1日で使えるようになるものなんですね。

伊集院氏:
 そうですね。自社製エンジンといっても,既存のUnityだったりUnreal Engineと使用方法が大きく異なるかというとそうでもないんですよ。Unityを触ったことがある学生さんだったら,基本的には同じ感覚で使えると思います。今回学生さんと話して一番安心したのは,「市販のエンジンと変わらへん。全然使えるなぁ」といった反応でした。

 ゲーム業界への就職を考えてる学生さんにとって,自分が学んだ技術が通用するかどうかが大きなポイントだと考えていて,カプコンのように独自のゲームエンジンを使っていると不安要素になりますよね。そういった懸念を今回のような実習やオープンカンファレンスといった取り組みで払拭していきたいと思っています。

4Gamer:
 ゲームエンジンを触ったことのある人たちが入社してくる,今ならではの悩みといった感じですね。

伊集院氏:
 「カプコンってどういう環境でゲームを作ってるんだろう?」といった疑問に対して理解してもらう,解像度を上げる,というのが重要なテーマになっています。RE ENGINEやカプコンについて理解してもらったうえで,就職先の選択肢の1つとして捉えてほしいと考えています。

4Gamer:
 今回の体験型実習では,9月6日までにゲームを完成させるとのことですが,学生さんにとってはちょっとハードルが高いような気もします。

伊集院氏:
 夏季休暇中の短期集中講座という位置づけになっていますので(笑)。この2週間でチームを組んで,ゲームを作るというのが大きなテーマなのでがんばってほしいですね。

 一応ですが,参加者全員が達成感を得られるよう,グループ制作に使えるアセットも用意していますが,できればオリジナルで勝負してほしいという思いはあります。自分たちなりの面白いゲームを作ってもらうことも目的の1つなので,ぜひそこを目指して試行錯誤してもらいたいです。

 アセットは「ロックマン」シリーズの素材をアレンジしたものなので,面白いゲームにはなるのは当たり前だと思うんですよ。自分たちで考えた面白いゲームを見せてくれるチームがどれだけいるのかも,今回我々の見るべきポイントだと捉えています。

4Gamer:
 本日はありがとうございました。今回のような産学連携の取り組みを,今後もやっていく予定はありますか。

伊集院氏:
 継続してやっていきたいですね。今回も近畿大学さん側の希望者はもっと多かったんですけど,弊社側がいきなり多くの学生さんを相手にサポートできる体制を作るのが難しく,参加人数に30人というキャップを設けさせていただきました。
 今回,実際に企画を動かしたことで仕組み自体は整備できました。近畿大学さんに限らず,お声をかけていただければ前向きに取り組んでいこうと考えています。

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