2024年8月23日,ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2024」にて,Cygamesの中村大吾氏による講演「『GRANBLUE FANTASY: Relink』最高の『没入感』を実現するカットシーン制作手法とそれを支える技術」が行われた。


 本セッションは,ゲームのカットシーンにおいて,没入感を得るために,演出中とプレイアブル中で統一すべき技術的ポイントや,一連のつながりのように見せるための手法など,映像美を支えるワークフローに関する知見を伝えるというものだ。セッションでは,「GRANBLUE FANTASY: Relink」(PC / PS5 / PS4 以下,リリンク)開発での例を挙げて解説が行われた。

 本題に入る前に,本講演で多く使われる用語について紹介された。
 まず今回のメインとなる「カットシーン」は,一般的にプレイヤーの操作を受け付けず,カメラやライトなどが専用で設定された,映像を見せるためのシーンのこと。ストーリーの特に重要なシーンなどで使用されることが多い。

 続いて「会話シーン」は,プレイヤーが自分のペースで見られる,簡単なやり取りが行われるシーンだ。こちらはテキスト送りなど,ある程度プレイヤーの操作を受け付けている。
 そして,これら2つのような演出シーン全般を,「シネマティクス」と呼称し,シネマティクスでないシーンは「プレイアブル」としている。


 今回の講演は,「演出がかみ合わないと,プレイヤーがスキップしてしまう」というシネマティクスが抱える問題に,改めて向き合ったことが発端になっているという。
 何がプレイヤーにストーリーを意識させ,シネマティクスで感動を与えるか,それは面白さに直結する「没入感」と,映像に感動させる「映像美」の2つであると,中村氏は語る。


 没入感を損なう原因は「急な映像への切り替え」や「キャラクターの振る舞いが急に別人のようになる」といった,プレイアブルとシネマティクスの乖離,「フェードアウトによる暗転」といった“区切り感”が挙げられた。

 一方で,映像美を生み出す際の課題は,当たり前のことであると前置きしつつ,「アーティストがどれだけこだわる時間を作り出せるか」だと中村氏は述べた。これにはイテレーション(設計から改善までの一連のサイクル)を回すスピードや,ツールの利便性,作業の効率化などが重要だ。

 これらをふまえて,まずは没入感を実現するにあたり,実際に活用された「リアルタイムレンダリング」「セカンダリフィードバック」「シームレス遷移」という,3つの技術が紹介された。

 まず,リアルタイムレンダリングは,プレイヤーが設定したフレームレートや解像度でそのままシネマティクスが楽しめるだけでなく,キャラクターの武器などの見た目が,カットシーンに入っても変化しないなどのメリットがある。

 しかし,リリンクの開発においては,「シネマティクス中は映像に特化する」という前提条件があり,Dynamic Resolutionによる解像度の低下や,LOD,Texture Streamingといった目に見るポッピングは許されず,シネマティクス中の負荷がどうしても上がってしまう状況にあった。


 そんな中,リアルタイムレンダリングを実現させるために,「オクルージョンカリングの最大限活用」「LODの事前リクエスト」「可変フレーム対応」「最適化のチェック体制」という4つの項目が効果的だったという。

 1つめの「オクルージョンカリングの最大限活用」とは,最適化において最も効果的な「無駄な表示を省く」ことだ。そのために,特にパフォーマンスを出すことが困難な場所で,シネマティクス専用のオクルーダーの配置を多用したという。

 例えばカットシーンの時のみ有効化されるオクルーダーを配置すると,その効果は劇的であり,リアルタイムレンダリングを実現するうえで必須の対応だと中村氏は述べた。なお,オクルージョンカリングについては,同じくCEDEC 2024にて講演が行われた,「『GRANBLUE FANTASY: Relink』ソフトウェアラスタライザによる実践的なオクルージョンカリング」にてより詳しく解説されている。


 2つめは,カメラが一瞬で切り替わるシネマティクスにて発生する,ポッピングへの対処だ。LODの変化やTexture Streamの影響で切り替わった瞬間が見えてしまうこの問題は,事前にタイムラインを検索し,キャラクターが出現するタイミングのリクエストリストをオフラインで作成して,先行リクエストすることで対処しているそうだ。


 3つめは,PC(Steam),PS5,PS4とさまざまなプラットフォームへ対応しているリリンクで発生した,可変フレームへの対応である。そこで使われた手法は,カットシーンと同じ尺のサウンドを用意し,サウンドの再生秒数をタイムラインへ受け渡し,カットシーン側の映像を進行させることで,音のズレが起きにくくするという構成だ。


 4つめは,これらの最適化をどこで行うべきか可視化するために,シネマティクスのパフォーマンス計測環境を整えることだ。リリンクでは,カットシーンで何にどれだけのパフォーマンスを使っているかを表示し,どのセクションと相談する必要があるかを判断したという。シネマティクスでは,あらゆるパターンの負荷が考えられるので,ケースによって効果の薄い最適化は避けられるという効果もある。


 なお,ここまで紹介した最適化法はあくまで必須の項目で,リリンクの開発ではもう1歩踏み込んだ方法として,オートプレイでの自動計測を行ったという。オートプレイをすべてのシネマティクスを対象に毎日走らせることで,最適化を行うべき対象や,最適化したあとにどれだけ効果があったのかを常に確認できたそうだ。

 またこのオートプレイにより,最適化項目とは別の異常を発見できたり,シネマティクス以外の環境変化による影響を発見できたりといった効果もあったそうだ。


 こうしたさまざまな最適化を経て,リリンクでは,すべてのシーンでリアルタイムレンダリングを実現し,シネマティクスへの没入感を高めることに成功したのだという。


 そして次の技術,「セカンダリフィードバック」が紹介された。通常,衣服など揺れものはツールを使ってカットシーン専用のものが作成されることが多い。セカンダリフィードバックは,実機でシミュレーションを行い,そこからエクスポートして作成するという手法だ。

 流れとしては,まずキャラクターのボディアニメーション(プライマリ)をDCCツールなどで作成する。それを実機で再生し,その動きをセカンダリとして出力,それを再びDCCツールなどで読み込んで,調整を行うといった具合だ。

 その際,セカンダリを作成したあとにプライマリに変更があっても対応できるように,プライマリとセカンダリをマージできるツールも作成されたそうだ。


 ここまでする理由は,大きく分けて2つある。1つは,リリンク(グランブルーファンタジー)のキャラの衣装が非常に特徴的で,その揺れ方にも個性を出しており,カットシーン中とプレイアブルで同じ印象の揺れ方にするため。もう1つは,非常に時間がかかるシネマティクスの作業において,その工数を大幅に削減できるからだ。


 没入感を生む最後の技術は,シネマティクスとプレイアブルを継ぎ目なく再生させる「シームレス遷移」だ。
 演出とゲームの隙間にフェードアウトなどを挟むと,どうしても区切られた感が出てしまうので,そこに専用の遷移シーンを挿入することで,没入感はそのままに,バトルへつなげられるようになる。これは,カットシーンで最大限盛り上げるボス戦などでは,特に効果的な技術だ。

 ここで注意しなければいけないのが,通常,カットシーンは専任の作業者がライトやポストエフェクトなどを調整し,専用の映像を作っているが,シームレス遷移では,それらがプレイアブル準拠になるため,専用の画作りができなくなってしまうという点だ。そのため,カットシーンとシームレス遷移の映像が別物のように見えてしまわないよう,注意しなければならない。


 なお,当然カットシーンとシームレス遷移は別の映像が再生されることになるが,ただ連続再生するだけではダメだ。LODのポッピング対策をしたり,ロード時間が増加してしまわないようにロードの設計を行ったり,直前のカットシーンで多用されているライトやポストエフェクトを,1フレームの遅延もさせずに切ったりと,さまざまな対処が必要である。


 なお,シームレス遷移はカットシーンだけでなく,会話シーンでも使用されるが,リリンクにおける会話シーンは,被写界深度の調整や追加ライトなど,こちらも専用の調整が行われているうえ,カットシーンよりも非常に多くなっているという。

 そのため,会話中のライトやポストエフェクトを,プレイアブルの数値へ自動補完させたり,キャラクターの位置も自動で調整したりと,カットシーンの時とはまた別の手法を取る必要があったそうだ。


 さらに,カットシーン,会話シーン,遷移シーンは,すべて同じツールで作られており,どのシーンからもフェードアウトなしで隙間なく遷移が可能になっている。ただフェードアウトを無くすだけでもこれだけの要素が必要になるが,この手間を惜しまないことで,没入感を最大限継続させられるというわけだ。


 さまざまな技術を駆使した“没入感”への追求が解説されると,次は“映像美”を支えたワークフローが紹介された。

 まず前提として,本作の開発は独自のエンジンにて行われているが,幅広いメンバーが利用できるように,カットシーン制作ツールのインタフェースとして,Unityが採用されたという。これにより,さまざまな機能の導入のハードルが下がり,ラーニングの工程が短縮された。

 ただし,あくまでインタフェースとしての利用であり,実機との連携は必要だ。そこで「ライブリンク」という,実機の状況に依存せず,作業ができる環境を構築したそうだ。


 このライブリンクとリアルタイムレンダリングの組み合わせは,セカンダリの調整や,フェイシャルアニメーションの作り込み,ライティングやポストエフェクトを駆使した画作りなどを直接映像を作る感覚で行えるようになるため,非常に強力であると中村氏は語った。

 また,リアルタイムレンダリングでは,制作したものをすぐに確認でき,常に最新の状態で作業を進められたため,直前まで映像にこだわる期間が設けられ,不具合の修正もすばやく実行できたという。


 また,セカンダリフィードバック技術からの恩恵もあった。プレイアブル中の揺れものなどのシミュレーションは,カットシーン中でも生かして再生しているため,モーションとカメラのみの段階から,セカンダリ込みで確認できる。そのため,プライマリだけが完成した段階でも,映像としての流れや雰囲気を把握しながら,後続工程をスタートできたのだ。

 ただしそのためには,プレイアブルとシネマティクスで印象が変わらないようにするため,まずは背景の“風”からデザインすることが重要とのことだ。


 さらに,制作の都合上,どうしても演技自体が変更になり,プライマリが変更になることがある。それもこのワークフローならば,制作したセカンダリをあとからプライマリに追従させられるため,非常に柔軟性があり,変更に強いフローであったという。

 こうしてアニメーションの工数を削減し,全体の工数を大きく前倒ししたり,変更に強いワークフローにしたりすることで,映像にこだわる時間を捻出できたのだ。


 こうしてリアルタイムレンダリング,セカンダリフィードバック,シームレス遷移による没入感の向上,強固なワークフローによる映像美へこだわる時間の確保が達成され,「GRANBLUE FANTASY: Relink」のシネマティクスは,非常に高品質なものへ仕上げられたというわけだ。

 そのおかげもあってか,同作は,CEDEC AWARDS 2024ビジュアルアーツ部門にて,最優秀賞を受賞している。最後に中村氏は,「面白い」の一言のために,これからも最高の没入感を追求していくとし,講演を締めくくった。



鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。