「CEDEC 2024」で2024年8月23日に「モーションアクターによる、より魅力的なキャラクター作りをお手伝いするためのノウハウ共有」というセッションが行われた。これは,3DCGでキャラクター表現を行うために欠かせなくなったモーション作りを,「アクター側からもっとサポートできる」ことを伝えるもので,登壇したのはモーションアクター代表の杉口秀樹氏と,同社のダンス事業部部長のMao氏だ。2人は実際に体を動かすデモンストレーションを交えつつ,モーションアクターとの関わりかたについてノウハウを発表した。

あらゆるジャンルのゲームに参加する杉口氏。ご本人はともかく,氏のアクションを未見の人はそういない

ダンス分野で活躍するMao氏はCMや映画などでも活躍


アイデア出しの段階から協力できる


 じつは昨年のCEDECでも,モーション収録スタジオ・Studio IBUKIと共同で講演していた杉口氏。そちらはハイクオリティなモーションデータを生み出すためには,関係する会社間の風通しを良くすることが大切という内容だったが,それを受けていくつかのデベロッパからリクエストがあったとのこと。
 それはプリプロダクション,つまり企画の段階から,キャラクター作りにも協力してもらえないかというものだった。実際にモーションアクターはそうした仕事も請け負っているのだが,案外知られていないことが分かり,今回のセッションのテーマにしたそうだ。


 まず,通常のゲーム作りのワークフローでは,企画時にアニメーターやデザイナーが実際に体を動かしながら,キャラクターの動きのアイデアを練っていることが多い。この段階からモーションアクターを起用することで,今までにないアイデアを一緒に探ることができるという。これは企画がスムーズに進むだけでなく,スタジオで収録する際の短縮にもなり,効率化にもつながる。


デベロッパのモーション会議に参加している想定で,デモンストレーションが行われた

 例えば,さまざまな個性を持つキャラクターに,それぞれ別の「回し蹴り」の動きを作る場合。格闘技の動きをベースにしつつ,細部を変えることでキャラクター性を表現できる。とくに重要なポイントは,動きの始まる前と終わった後のポーズ。いわゆるアニメーションのキーフレームに相当する部分だ。

 
 歩幅を少し緩めれば正統派主人公風,コンパクトにすればクール系,体幹のゆがみや関節の曲げ方を極端にすればクレイジーなキャラになるなど,演じ分けのセオリーもある。それらを表にしたのが以下のスライドだ。


 同じように,ダメージを受けたときのモーションにもセオリーがある。今度はMao氏が女性キャラクターの動きを実演しつつ説明。ポーズ,腕の角度,動きの緩急などにより,清楚系,クール系,あざとい系の例を見せていった。こちらも同じような表にまとめられる。


 もちろん実際のキャラクターはもっと細かい個性を持っているので,これらのニュアンスをグラデーションさせつつ,そのキャラならではの動きを作っていくわけである。例えば,「表向きはあざとかわいいキャラが,ときにクレイジーな本性を見せる」といった表現も可能だろう。
 また,クリエイター側のアイデアや絵コンテとは違う視点からアイデアを出せること自体が大きい。もちろんモーションの収録日に相談するだけでもそれなりに成立させられるが,アイデア出しから参加することで実際のキャラクター像とずれることなく,深みのある表現を探れるわけだ。


実演によるイメージのすり合わせ


 これはモーション作りの難しさの一例だが,企画で考えていたキャラの動きの意図と,実際に人間が動いたときの印象がうまく一致しない場合がある。またディレクターは問題がないと感じた動きが,キャラクターデザイン担当のイメージとは異なるなど,開発側のイメージのすり合わせができていない場合も多い。そこで実演してもらうことで,それを見ながらスタッフの認識を合わせていけることも,アクターに依頼するメリットの1つだ。


 また,多くの人はキメのポーズだけにこだわりがちだが(それだけキーフレームが重要だとも言える),同じポーズに各人が違った印象を持つことも多いし,前後の動きによってポーズの意味合いも変わってくる。意外とバラつきがちな,その感覚を合わせておける意義も大きい。


ディレクターの注文に合わせて動きを変える設定で,いろいろな飛び蹴りを披露する

綺麗なライダーキック。しかしこれを地味と感じる開発者もいた。こうやって意見をすり合わせていく

 ただ,原則として印象が大きく分かれない動きもある。例えば,手の位置は高いほど感情の大きさを見せられる。動きがコンパクトで早ければクールな印象につながるし,重心から先に,気持ちゆっくり目に動かせば落ち着いた印象を作れる。
 こうした認識を事前に揃えておくと,それを逆手に取った表現なども可能となる。普段は泰然自若,余裕のあるそぶりのキャラクターが追いつめられたとき,今までの動きのセオリーを崩して動揺している雰囲気を出したりできるわけだ。

激しい動きが続いたので,ここで水を飲む杉口氏


アクションとしてブラッシュアップする


 動きのアイデアを出し,スタッフの認識を合わせたあとは,より具体的なアクションにブラッシュアップしていく段階となる。この方法は無限に存在するそうで,杉口氏らは実例を使って説明していく。


 例えば,原作のあるゲームの場合,アニメやマンガをモーションのリファレンス(確認のための参照情報)にすることも多いが,本来連続した動きの間にあるはずの状態が,そもそも描かれていない場合があったりする。その場合,モーションアクターがその間の自然な動きを推測したり,新たに作りだして補える。


 また,キャラクターのコスチュームを身に着けて動き,服や防具の動きを確認することも可能だ。このとき,リアルの着物はめくれてキャラクターの顔を隠したりもするのだが,一部を縫い付けておくことで,自然かつ邪魔にならないようにもできる。

対策をしていない場合,こうなる

 続いて壇上のスクリーンに,あるマンガの戦闘場面をそのまま殺陣(たて)として再現した動画が再生された。マンガは静止画の連続なので,実際はコマとコマの間の動きが分からなかったり,ときには視覚効果を優先した矛盾があったりする(右腕で殴りかかったはずなのに,次のコマでは左腕が伸びてクロスカウンターになっているなど)。
 これらをどう処理するかは実写のノウハウが応用可能で,むしろモーションアクターにとっては得意分野でもあるそうだ。


 さらに一連のアクションのどこをキービジュアルにすると魅力的なカットになるかを考えるなど,絵コンテをブラッシュアップする手助けもできるらしい。モーションアクターの公式YouTubeにはこういった動画などが数千種類アップされており,しかもそれらは基本的にフリー素材として使用できる。


 なお,同社はStudio IBUKIと共同でクリエイターに向けた体験会も実施しており,実際にスーツを着て,その動きがどうデータに反映されるのか学ぶこともできる。よりよいデータを得るために,何をアクターに伝えればいいのか。実際に動いてみることで分かることは多い。


 その他にも基礎アクション,ワイヤーアクション,ダメージモーション,武器操作など各種の体験会があり,2D,3Dを問わずアニメーションを手がける人であれば,経験しておくことで表現に深みが生まれるだろう。


 最後に杉口氏は,モーションアクターは確固としたキャラクター性やアクションを表現するのはもちろん,一緒にキャラクターを作っていける存在でもあると語り,セッションを締めくくった。なお終了後の質疑応答では,モーションアクターに仕事を頼むときのコツが以下のように伝えられていた。


・アイデア出しの場に複数のアクター,例えば男女が1人ずついると,それぞれの動きを見てアイデアを広げたり,違った考え方からの提案ができ,結果的に正解にたどりつきやすい。

・コンセプト段階ものでも,ビジュアルが準備されていると演じやすい。また暫定のものでいいので,セリフが3つくらいあるとキャラクター性を掴みやすくなる。

・VTuberやコスプレイヤーがリアルのイベントに登場する場合,その動きをプランニング・演技指導することもできる。世界コスプレサミットでは,演技指導したチームが優勝した実績もある。


 アクションのアイデア出しなどでチームが煮詰まってしまったときは,アクターの力を借りることで突破口が生まれるかもしれない。あまり悩み続けず,まずはプロジェクトのプロデューサーに相談してみてはいかがだろうか。

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