「ありがたき哉 日本語化」は,ここ最近で日本語対応となった海外作品を良い機会だからあらためて紹介しようという,フワッとしたコーナーです
「ポストアポカリプスもので,世界はめちゃくちゃ,出会う人間はクズだらけ,しかもろくなことがないストーリー,なのになんだか心に響く――みたいなゲームがいい。主人公はもちろんヤク中の中年男で」という人は,今回紹介する「LISA: The Painful」を遊んでみるといいかもしれません。これがそれです。
LISA: The Painfulは,薬物中毒(依存症)の中年男・ブラッドが,女性がいなくなった終末世界を旅するというRPGです。なぜ旅をしているのか? それは彼が,赤ん坊の状態で拾ったあと人目から隠して大事に育てた女の子を連れ去られてしまったからです。
この作品,実は2014年というかなり前にPC(Steam)向けにリリースされました。そんな本作が約10年の時を経て2024年3月に,コンシューマ機版も含めて正式に日本語でも遊べるようになったんですね。ありがたき哉。Steamでは1万2000以上のレビューを集め“圧倒的に好評”(全てのレビュー)ですからね。正式に日本語対応となるまで,ライブラリやウィッシュリストの中で熟成させていたという人も多いんじゃないでしょうか。筆者もですが。
※本記事のスクリーンショットはいずれも,今回遊んだPC(Steam)版のものです。適宜トリミングしています
一見のどか。だが実際は,完全に壊れた世界
LISA: The Painfulは,Austin Jorgensen(オースティン・ヨルゲンセン)氏が脚本執筆とデザイン,作曲を行い,Dingaling Productionsが開発したタイトルです。2012年リリースのフリーゲーム「LISA: The First」から続く三部作の第二部であり,第三部「LISA: the Joyful」はLISA: The PainfulのDLCという形で2015年にリリースされました。「LISA: Definitive Edition」は第二部と第三部をまとめて追加要素を盛り込んだもので,2024年3月には国内向けにもコンシューマ機版がリリースされています(関連記事)。アップデートされた“The Painful”単体は現在,場所によっては「LISA: The Painful - Definitive Edition」と題されていますから,少しややこしいですね。
なおフリーゲームとして登場した第一部のLISA: The Firstは,RPGツクール作品史上最高級の傑作であり問題作とも言われる「ゆめにっき」の風味を持つタイトルとして話題となりました。(自己責任で)有志による日本語化パッチを利用可能ですが,この作品だけは正式には日本語に対応していません。
LISA: The Painfulは前述のとおり,ブラッドというヤク中の中年男が,連れ去られた娘を取り戻すべく旅をするというゲームです。2Dグラフィックスのサイドビューを採用していまして,ビジュアルだけならプラットフォームアクションに近いですね。実際に,キャラクターが谷底に落ちれば即死しますし,動いている敵キャラクターや突進してくるクルマを避けるなどのちょっとしたアクション要素はあります。……が,基本的にはRPGとしてどっしりと腰を据えて遊べるゲームと言えると思います。
そんな本作の最大の特徴は,二頭身のキャラクター達がコミカルに動き回る牧歌的な絵面とは対照的な,完全に壊れた世界と残酷なストーリーでしょう。
本作の舞台は,過去に起こった謎の大災厄ですべての女性を失った世界にある,オレイサという土地です。オレイサは荒廃しており,ヨルゲンセン氏いわく“武装集団,愚か者,そして変態”に支配されているんですね。「マッドマックス」や「北斗の拳」といったイメージでしょうか。
そんな世界が舞台ですから,ストーリーには明るさのカケラもなく,基本的に主人公・ブラッドにはろくなことが起こりません。ブラッドは娘の消息を辿る旅の中で,辛く苦しく,理不尽で,不条理な多くの出来事に遭遇します。はっきり言って暗いです。
そしてこの暗さは,ゲームシステムにもある種の理不尽さやキツさという形で反映されています。主人公があっさり死んだり,永続的なステータス低下を受けたり,大切な仲間をいとも簡単に(そしてやはり永続的に)失ったりと,これはもちろん一例ですが,なかなかに厳しい作りと言えましょう。
なお本作では序盤で,「ノーマルモード」と「ペインモード」のどちらで遊ぶかという決断を迫られます。名前で大体分かりますが,ペインモードはいわゆるハードモードであり,全体的な難度が高まる代わりに,探索できる場所が増えるなどの恩恵があります。同モードについては,同じセーブポイントを1度しか使えないという制限が,最もキツいんじゃないでしょうか。「ゲームがゲームだし,いきなりペインモードで苦しもう!」という向きもありますが,まずはノーマルモードで遊んでみたほうがいいんじゃないかと,しばらく遊んでみた筆者は個人的に思います。
過去の記憶と禁断症状,壊れた人間と戦いながら旅する
本作の主な構成要素は移動と戦闘で,そこにイベントシーンを含む会話が散りばめられた形となっています。
【移動】
メインのマップ移動は横スクロール型で,前述のとおりプラットフォームアクションライクな作りです。谷底に落ちると即死しますし,ある程度高いところから落ちるとダメージを受けHP(体力)が減ります。
ノーマルモードであれば,カラスがとまった木のところでいつでも(何度でも)セーブが可能です。HPとSP(スキルを使用すると減る精神力のようなもの),状態異常の回復手段はさまざまですが,点在する“たき火”のそばで寝ることが多いでしょうか。
ただし,(場所によりますが)たき火はさまざまなイベントが発生する場所だったりします。アイテムが盗まれる,毒グモに咬まれて猛毒状態にされる,仲間が誘拐される(!)など,回復と引き換えにさまざまな嫌がらせが待っています。
ブラッドがヤク中であることも忘れてはいけません。これは単なる背景設定ではなく,実際に彼は「ジョイ」と呼ばれる薬物に依存しており,しばしば禁断症状に襲われます。一つはフラッシュバックで,冒険していると突然,過去の出来事に入り込みます。もう一つはステータス異常です。こちらは後述の戦闘に関わってくる症状ですね。
【戦闘】
戦闘は比較的オーソドックスなターン制のコマンドバトルといったところです。少し変わった点があるとすれば,SPを使って発動できるスキルを,キャラクターによってはボタンの組み合わせによるコンボの形で発動できる点でしょうか(コマンドで“スキル”を選ぶよりダメージが増します)。
またキャラクターによってはSPの代わりにTPというゲージを持っています。こちらは,戦闘中にさままな行動を取ることで溜まっていくゲージですね。戦闘開始時の初期値は毎回同じ,つまり使い切って戦闘を終えても,次の戦闘の開始時には常に少しだけTPがある状態になります。酒などのアイテムを使用して,一時的に初期値を高められたりもします。
なおブラッドを含めた何人かのジョイ中毒者は,禁断症状が出ている間はほとほとんどのステータスが低下し,敵にダメージを与えることすら困難になります(スキルによっては有効に使えるものもありますが)。これはたき火などで休んだり,時間が経過したりすると回復します。てっとり早いのはジョイを使うことであり,戦闘時の恩恵もありますが,ジョイは希少アイテムなので考えどころです。
ちなみに,仲間の中には鬱状態の人もいて,彼らもステータスが下がっています。
【仲間達】
本作では多くのキャラクターが仲間になります。成り行きでいつのまにか加わる者もいますし,ちょっとした手助けで仲間になる,人質と引き換えに(?)仲間になる(する)などと,パターンはさまざまです。見た目も装備もスキルもかなり個性的で,4人のパーティ編成は結構悩みますね。
なお本作では旅の道中で,ちょっとしたミニゲームに参加することもあります。参加は任意で報酬付き――というパターンのゲームはいいのですが,ストーリーに組み込まれたミニゲーム風のイベントもあって,「だったらゆるめなのかな?」と思いきや,これがなかなか侮れません。仲間がバンバン死んでいくものもあります。辛い思いをする人もいるでしょう。筆者はしました。まあ,そのあたりの苦痛もこのゲームならでは,ということで。
損得とはまた違う,心理的にキツい選択を迫られる
本作は基本的に,壊れた世界での壊れた人達の物語です。物語そのものは救いようがない感じなのですが,そこに,グロ成分はあるものの脳天気でコミカルなビジュアル,時には優しくエモい音楽が合わさって,独特の雰囲気を生み出しています。“鬱ゲー”と簡単に片付けられないその雰囲気が,本作が高く評価されている理由でしょう。たぶん。
そしてなんと言っても,旅の中でブラッド(とプレイヤー)が迫られる選択の数々が,プレイにメリハリを与えています。選び方次第で「ステータスが永続的に下がって弱くなる」といった内容ならただゲーム的に不利になるだけですが,「仲間を失う」「自分の体を失う」といった結果を招く選択をするのは,心理的に“くる”ものがあります。しかもこういった結果に対する演出が,「はい残念」みたいな。実にあっさり,サバサバしていて,逆に喪失感が高まります。
まとめるとLISA: The Painfulは,プレイヤーの心を試してくるゲームと言えそうです。このゲームを遊んでどう感じるかは人によってまちまちだと思うので,興味を持った人はぜひ試してみてください。
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