2024年4月27日と28日に開催されたアナログゲームイベント「ゲームマーケット2024春」に,集英社ゲームズの新作ボードゲーム「呪術廻戦 呪霊逃走 -渋谷事変-」(以下,呪霊逃走)が試遊可能な形で出展されていたので紹介しよう。


 本作は,集英社ゲームズが展開するマンガボドゲシリーズの最新作だ。人気漫画「呪術廻戦」の劇中で巻き起こった呪術テロ「渋谷事変」の一幕“五条 悟 vs. 特級呪霊”の戦いを,双方の立場から体験できるコンセプトのタイトルで,実際に特級呪霊の1人となって五条 悟と対峙してきたので,その模様をレポートする。
 なおネタバレには可能な限り配慮するものの,キャラクターが持つ能力の名称などはゲーム中にも登場するので,渋谷事変をまだ読み切っていない人は注意してほしい

現地ではボードやコマを大型化した特別仕様バージョンを遊べた



“最強”に追われる恐怖と絶望をボードゲームで体験


 呪霊逃走のゲームジャンルは,いわゆる非対称型対戦ゲームにあたる。プレイヤーは「五条 悟」(以下,五条)を担当する1名と,特級呪霊(以下,呪霊)の「真人」「花御」「漏瑚」を担当するチームに分かれ,それぞれの勝利条件達成を目指すことになる。


 五条は呪霊チームのうち2名を祓えば勝利。一方,呪霊チームはゲーム終了時まで生き残れば勝利となる。渋谷駅を模したボードには,各プレイヤーが担当するコマが配置され,1ラウンドにつき1アクションを実行できる。呪霊チームは,ゲームが終了する第7ラウンドまで全力で逃げ回らなければいけない。

キャラクターが使えるアクションはタイルで表現されており,移動もこのタイルを使って行う。隣接するエリアに向かう「いどう」と,階段を通じて階層を変える「かいだん」は別アクション扱いなので注意

 ここまでの説明を聞いたときは「五条側がやや不利そう」と感じた筆者だが,具体的な処理手順や能力を聞いた段階でその印象は一転した。
 まず,呪霊には五条を攻撃する手段が存在しない。対する五条は,同じエリア(マス)に呪霊がいる状態でラウンドを終えれば,それだけで祓うことができる。そもそも“祓う”という行動に手番を必要としないのだ。

 その対抗策となるのが,各キャラクターが持つ固有能力“術式”だ。呪霊は呪力トークンを消費することで術式を発動できるが,減った呪力トークンを獲得するためには,ボードに置かれた「人間タイル」を捕食したり,その場に留まって力を溜める必要がある。

呪霊が持つ術式は全3種。うち「領域展延」は全員が所持しており,五条と同じエリアにいても“祓われない”という時間稼ぎ効果がある。ちょっと情けない効果だが,これだけでもけっこう心強い

 一方,五条には呪力トークンという概念自体が存在せず,凄まじく強力な術式を自在に打ち分けてくる。ついでに五条の移動先に人間タイルがあった場合,それを救出(除去)できてしまう。呪霊側は基礎性能で負けているため,ゲームが進むほど追い詰められていくことになる。
 極めつけに理不尽(?)なのは,「すべての会話は五条に聞こえるように行うべし」というルールが存在することだ。内緒話すら許されない状態で,圧倒的強者に立ち向かわなければいけないのである。

1度使用したタイルは次のラウンドでは使えない仕組み。このルールは呪霊側も五条も同じなので,同じ術式を連打されることはない

 ルールを理解したところで,さっそくゲームを始めよう。筆者の担当は真人(まひと)で,呪霊の中でもサポート寄りの能力を持っている。とくに五条に祓われてしまった呪霊を復活させられる術式「無為転変」を持つのは真人だけなので,最初に祓われないように注意しつつ立ち回りたい。

 最悪のケースは,同じエリアにいる状態で一網打尽にされることなので,まずは五条から距離を取るためにエリアを移動することにした。
 すると,五条はおもむろに術式反転「赫」を発動。これは,隣接するエリア同士を“結合”させて1つのエリアに変更するという,とんでもない効果を持つ術式だ。そもそも全部で8つしか存在しないエリアをさらに減らされと,一気に立ち回りが厳しくなってしまった。

「赫」によって結合されたエリアは1エリアとみなされるため,結合した先に呪霊がいれば祓われるし,人間タイルがあれば救出されてしまう

 とはいえ,仲間の呪霊と五条は階段を登った上階に集まってくれたので,下階の真人は多少安全かもしれない。というわけで,「とどまる」アクションを使って呪力トークンを溜めつつ,様子をうかがうことにする。

 この目論見はうまくハマり,呪力を保ったままラウンド3に突入。漏瑚は持ち前の機動力で逃げ回り,花御は術式「木の根」を使って結合したエリアをふたたび切り離してくれた。足が止まったタイミングで花御が祓われてしまったものの,溜めた呪力を使った無為転変で,即座に立て直すことに成功した。

 言葉でコミュニケーションは取るわけにはいかないが,互いの能力を察しながら連帯し,脅威をかわしていくのはスリル満点だ。気分はパニックホラー映画の登場人物である。実際は,こっちが邪悪な呪霊なのだけど……。


 各自が呪力を維持したまま4ラウンドを通過し,「逃げ切れるかも!」という空気が流れたところで,状況が一変した。仲間たちが下階層に移動したのを見て階段を登ると,なんとそこに五条の姿が。予想外のはち合わせに真人はなすすべなく撃沈し,その後は花御と漏瑚に託された。


 しかし,5ラウンド目の最後に花御と漏瑚が同じエリアに入ったのを確認した五条は,6ラウンド目に術式順転「蒼」を発動。これは,五条が呪霊より先に行動し,呪霊がいるエリアに瞬間移動するというもの。……なんて?

「蒼」が存在する以上,どれだけ離れていても安心はできない。ちなみに,呪霊を祓う処理はラウンド終了時に行われるので,発動されてもその後に動けば生き残れる

発動されなかった虚式「茈」は,人間がいないエリアにいる呪霊を選んで祓うという,これまたトンデモな効果を持っている。真人は指定エリアに人間タイルを配置する能力があるので,できるだけ人間がいる状態を維持して戦いたい

 漏瑚は移動を選択していたためラウンド終了前に逃げ延びたが,呪力の回復を行っていた花御が再び祓われてしまう。真人による復活が不可能な状態で呪霊が2体祓われてしまったので,今回は五条の勝利でゲーム終了となった。

 五条が操る術式はすべてが強力で,いつどこにいようと脅威であるため,呪霊側には常に緊張感がある。原作の呪霊たちが五条と対峙した際の絶望感を味わうという意味では,これ以上ない作品に仕上がっている。


 ただ,よく考えてみればそこまで理不尽でもないのだ。ほとんどの場面で,細いながらも「勝てる(祓われない)ルート」が存在し,ミスしてもリカバーする手段が用意されているので,しっかりと読み合いは成立している。

 そうした密度の濃い体験にもかかわらず,ゲーム展開は非常にスピーディで,細かな数字の計算が不要なのも好感触だ。例えサクッと負けてしまっても「もう1回!」と連戦したくなるスピード感がある。残念ながら今回は勝てなかったが,ぜひ2回目は呪霊たちを勝利に導きたいところだ。

 本作は全国のアニメイト,およびジャンプキャラクターズストアなどで販売中となっている。価格は4950円(税込)なので,本稿で興味を持った人は購入を検討してみよう。

こちらは,それぞれの特級呪霊がどのターンで祓われたかを示す戦績表。筆者が体験したのは2日目12:00頃の回だったが,五条は無敗を誇っていた

ブースでは「ボドゲになったらうれしいマンガ」を募集する企画も実施。特殊なルールのギャンブルが多数登場する「ジャンケットバンク」や,最近では劇中でもゲーム的な演出が増えはじめた「ワールドトリガー」などに多くの票が集まっていた

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