「卒業式の日,校庭のはずれにある古い大きな樹の下で女の子から告白して生まれたカップルは永遠に幸せになれる……」

 「ときめきメモリアル」――それは,1994年にKONAMIから第1作がリリースされた恋愛シミュレーションゲームだ。13人のヒロインと高校生活を楽しみ,伝説の樹の下で告白されることを目指すもので,恋愛シミュレーションの先駆けであり,金字塔とも言える作品である。

 充実した高校生活を追体験できることも魅力的だが,主人公と同じきらめき高校に通う個性豊かな13人のヒロインたちとの恋愛には,たくさんのプレイヤーが夢中になった。例にもれず筆者も,ずっと紐緒結奈さんに恋をしている。

 さて,1994年に発売されてから30年後の2024年5月19日,45歳になった私は,「立川ステージガーデン」という伝説の樹の下にいた。そこには,2000人を超えるきらめき高校の仲間たちも集結していた。なぜならば,2024年5月18日,19日の2日間,立川ステージガーデンで「ときめきメモリアル 30th ANNIVERSARY LIVE エモーショナル presented by TOKYO MX」が開催されたからだ(イベント公式サイト)。

 「ときめきメモリアル」30周年記念ライブ。それだけでも驚きなのに,今回は初めて全キャストが出演するのだという。令和にこんな奇跡が起こるだなんて……。

重ねた年月を思わせるような立川ステージガーデン前のモニュメント。この前で記念撮影をしている来場者が多くいた

 個人的な話になるが,このライブには,かれこれ25年ほどの付き合いとなる同好の士も大阪から駆けつけていた。この2日間はきっと彼のような全国のときメモラーが立川に集結したのだろう。初日にも参加したという彼は,私に土産の菓子を手渡しながら,「昨日のライブを観ましたが……すごすぎてアベンジャーズかと思いました」と語った。

 アベンジャーズは“復讐者”という意味ではあるが,ここでは,同タイトルの映画のイメージで「強キャラ集団が堂々と登場し活躍する」という意味なのだと即座に理解した。

新発売となるきらめき高校の制服や,出演者のサインなどがロビーに展示されていた。サインの横に書かれたセリフもすごく良い……!
ファンから寄せられた,さまざまなフラワースタンドも。趣向を凝らしたフラスタは,愛の結晶だ。ありがたく拝ませていただいた
充実した物販に感じる力の入りようにも,このライブにかける各所の熱い想いが伝わってくる

 確かに,今回のために描き下ろされたメインビジュアルを見ても,あらゆる意味で“強い”ということがよく分かる。ヒロインたちも好雄もライブのために盛装しており,それぞれの個性に合った華やかな色の装いからは,気合が伝わってくる。

 伊集院レイさんが,始めからドレスを着ていることにも注目したい。「なんと,伊集院レイは男装の女性だった!(えーっ!?)」という,30年もの間,公然の秘密になっていたことが,今回さらりと明かされたのだ。今というタイミングで解禁になるとは……。

紐緒結奈さんは悪の幹部みたいなドレスだが,「それでこそ彼女だ」とうれしくなった


■出演者(敬称略)
金月真美(藤崎詩織役)
関根明子(如月未緒役)
中 友子(紐緒結奈役)
川口雅代(片桐彩子役)
菅原祥子(虹野沙希役)
黒崎彩子(古式ゆかり役)
笹木綾子(清川 望役)
五十嵐 麗(鏡 魅羅役)
鉄炮塚葉子(朝日奈夕子役)
栗原みきこ(美樹原 愛役)
よしきくりん(早乙女優美役)
菊池志穂(館林見晴役)
津野田なるみ(伊集院レイ役)
うえだゆうじ(早乙女好雄役)



時を重ね令和の今に行われたきらめき高校の“同窓会”は,大きな愛に包まれた空間だった!


 おなじみのゲーム画面,ヒロインたちからのナレーションでライブは始まった。ステージ上にヒロイン役のキャスト13人が登場し,1曲目の「もっと! モット! ときめき」を歌唱。客席からは歓声が上がり,最初から大盛り上がりだ。

金月さんから,「明日のことなどを考えずに楽しんで」とMCがあり,客席も大きな声でそれに応える

 自己紹介タイムでは,キャストの皆さんの仲の良さが伝わってくるトークが繰り広げられた。川口さんはこのライブのためにアメリカから帰国していること,初日の18日は晴れていたが,2日目となる今日に雨がパラついているのは,キャストに何人かいる“雨女”が関係していることなど,和気あいあいとしたトークは止まらない。

 五十風さんと客席の「○○よね,みんな?」,「はい,鏡さん!」というコール&レスポンスも,どこかで練習をしたのかと思うほどに統制が取れている。“巻き”の指示が出ても,金月さんがお茶目に無視してトークを進めていく姿に,客席からは笑いが起こった。


 次の曲がなかなか始まらないというハプニングには,中さんと菊池さんがサッとステージに上がり,ジャンプの練習で場をスマートにつなぐ。こんなところにもキャストの機転と愛情が感じられる。


 そんなわけで,ハプニングをものともせず,ライブは問題なく進行し,金月さんの「だからっ!」,鉄砲塚さんの「Hero」,黒崎さんの「ゆかりとランチ」,津野田さんの「薔薇の吐息」と4曲が続いた。

「お待たせしてごめんなさいね!」と言いながら登場した金月さん。ステージに爽やかな風が吹く
平成初期のダンスナンバーといった雰囲気が,まさに朝比奈さんのイメージだと再認識
客席から思わず「可愛い……」と声が漏れていた「ゆかりとランチ」では,レアなキャストのエプロン姿も
クールな歌声とダンスで会場の雰囲気を一変させる。白一色の衣装も,レイのイメージにピッタリだ

 ライブで聴いたことがなくても,当時聴きこんでいた曲たちはイントロが流れるだけで体とペンライトが反応する。ほかのキャストたちが衣装や小道具を変えてバックダンサーになるという演出も楽しく,見どころが次々に現れるので,一時たりとも目が離せない。

 MCで,実は先ほどの曲がなかなか始まらないハプニングは,金月さんがソロ曲を歌う前に次の衣装に着替えてしまったことが原因だったと明かされた。「盛り上がったから大丈夫!」とフォローしあう皆さんの雰囲気が暖かく,MCだけでもずっと見ていたくなる。

 次の4曲は,栗原さんの「雨のちまた雨」,よしきさんの「初詣 LOVE MOTION」,中さんの「Lunatic emotion」,五十嵐さんの「水の都へ…」だ。栗原さんの歌唱が始まる前に,緊張する美樹原さんに主人公が「客席全員がムク(美樹原さんの飼い犬)だと思えばいい」と答える映像が流れると,客席からは「ワンワン!」と犬の鳴きまねが聞こえてきた。

約2500匹の“ムク”の前で歌う。栗原さんの希望で,ペンライトの色は“ピンク”一色!
“LOVE MOTION”の振り付けが,優美そのものの可愛さだ
白衣を思わせる衣装で登場した中さん。会場全員が紐緒さんの実験動物に!?
アダルトな鏡さんの魅力全開! アンニュイなメロディが五臓六腑に染み渡る

 もはや,会場は平成初期のグルーヴ感に包まれている。よしきさんがその後のMCで語った通り,「初詣 LOVE MOTION」のレコーディング以来,ライブで初めて歌われた曲だそうで,今回はほかにも初出しの曲がいくつも含まれていた。このライブは,そういった意味でも貴重な機会なのだ。


 五十風さんのアダルトで「高校生らしい」衣装の話題も盛り上がったところで,古式ゆかりさんと伊集院レイさんという“お嬢様コンビ”のVTRが流れ,始まったのは黒崎さんと津野田さんの「Double Bubble 時代」。今聞くと,実に時代を感じさせるタイトルである。次に,うえださんの「ヒヤシンス」,中さんの「Fiesta〜赤と黒〜」,菅原さんの「Over the rainbow」と続く。

コミカルなアクションで会場中を動き回った黒崎さんと津野田さん
うえださん自身が作詞を担当している「ヒヤシンス」。「みんなで歌おう」の部分は会場にマイクが向けられた
秘められた情熱を歌いあげた中さん。赤いライトがムードを盛り上げる
大人の雰囲気から一変,虹野さんの王道アイドル曲。会場には,美しい虹がかかったよう

 MCでは,物販でも販売されていたキャラクターTシャツを着て登場したキャスト陣が,ワイワイとほかのグッズも含め紹介していく。その後のVTRでは “九伊豆戦隊カルトマン”し,客席からは「ウオー!」と歓声が上がる。まさかまさか,令和6年にカルトマンを広いホールで,約2500人ものときメモラーたちと一緒に観る機会があるだなんて。人生は,何が起こるか分からないものだ。


 そんな懐かしさに浸ったあとは,関根さんの「風よ」,笹木さんの「Sincerely〜素直になりたい〜」,栗原さんの「内気な眠り姫」,うえださんの「女々しい野郎どもの詩」の4曲が披露される。ここではサービス精神溢れる“飛び道具”がたくさん登場した。

青い傘でのダンスも印象的だった関根さん
ライブの振り付け担当でもある笹木さんの,表現力豊かなダンスに目を奪われる
運び込まれたベッドに腰かけ,可憐に歌う栗原さん
うえださんの「女々しい野郎どもの詩」では,自然に客席から歌声が上がり,大合唱に。いわば客席が飛び道具だ。バッドエンドのテーマであるこの曲と好雄は,プレイヤーに深い共感をもって愛されているのだと実感した

 曲の裏話も含んだMCを挟んで,菅原さんの「出会えて良かった」,川口さんの「Tomorrow〜Beside you〜」,菊池さんの「星空のパワー」,金月さんの「幸せのイメージ」の4曲が続く。いずれも「ときめきメモリアル ドラマシリーズ」からの曲だ。今「ときメモ」ライブが行われることも奇跡ならば,この選曲は奇跡中の奇跡と言えるだろう。

曲中に演じられた虹野さんの台詞に感動! 「沙希」ちゃんコールにも力が入る
「あなたがすきなの」という間奏での台詞に胸がキュン……
菊池さんの「飛ぶよー!」という掛け声で,会場が大きくうねる! もう,明日の筋肉痛なんて気にしない!
赤いガーベラが印象的な花束をあしらったマイクで歌う金月さん。ちなみに赤いガーベラの花言葉には「前向き」「限りなき挑戦」などがある。なんと今日という日にふさわしい花なのだろう

 ソロ曲のコーナーが終わり,ヒロイン13人のキャストが壇上に上がる。キャストの皆さんが「またライブをやりたい」という意欲を見せてくれたことに,会場からは期待の歓声が。金月さんはそれに対し「偉い人に圧力をかけて」と冗談っぽく答えたが,これは我々ときメモラーの頑張りにかかっているのではないだろうか……!

 名残惜しいが,最後の曲となった。「♡のスタートライン〜with you〜」のイントロが流れる。お互いにタッチやハグをしあうキャストの笑顔が眩しく,幸せな空間だ。皆さんありがとう。嫌だ! まだ終わってほしくない。「ときめきメモリアル」,ありがとう。すぐにまたライブをやってほしい! 目に涙が溢れてくる。もういろいろな感情が押し寄せてきて頭の中が忙しい。


 そんなことを思っていたのは,もちろん筆者だけではなかった。曲が終わり舞台が暗転すると,即座に力強いアンコールの声が発生し,瞬く間に大合唱へ。それに応え,うえださんを加えた14人の全キャストが再び登場。揃いの30周年Tシャツに着替え歌われたのは,10周年記念アルバムに収められている「10th SMILE(=じゅうねんスマイル)」だ。

 10年どころか,30周年となった今回のライブ。その歴史の重みと,今ここで一緒にこの時を楽しんでいるキャスト,会場のファンたちの心地よい連帯感に酔いしれる。

 キャストが最後の挨拶をしたあとは,「二人の時〜forever〜」が歌われた。「ときメモ」に出会い,ヒロインに恋をし,たくさんの想い出を作って……。「不思議な運命の巡りあわせに心から感謝したい」という歌詞と自分の心が完全にリンクして,感動の涙が止まらない。

 紐緒さんとジャンク屋で買い物をしたり,ヒーローショーに乱入したり,宇宙人と戦ったり……文字に起こすとコミカルになってしまう(し,実際面白いのだ)が,どれも彼女との大切な大切な想い出だ。そしてその想い出は,ヒロイン&ときメモラーの数だけ存在し,この瞬間,心の中に甦っていることだろう。

最後のVTRでは,「一緒に帰って,友達に噂とかされると,恥ずかしいし…」を主人公か詩織に言うという,思いもしなかったイベントが発生。なんと心憎い演出だろうか

 最後の最後に歌われたのは,「もっと! モット! ときめき」。3時間ノンストップ,飛ばしまくりのステージは幸せに包まれて幕を閉じた。


 「ときメモ」発売から30年。その間に私たちはたくさんの経験と歳を重ねてきた。そのなかで,私たちの愛するヒロインたちは,ときに勇気をくれたり,弱気に喝を入れてくれたり,優しく背中を押したりしてくれた。そんな気持ちを再び鮮やかに思い出させてくれただけでなく,お互いに年月を重ねてきたからこその新しい醍醐味も味わえた30周年ライブ。

購入したグッズ。30周年Tシャツのデザインが特に気に入っている

 エンディングで公開されていた「これからも,『ときめきメモリアル』の新情報にご期待ください」というメッセージに,俄然期待してしまう。これからも「ときメモ」は,キラキラとした景色を見せてくれるにちがいない。「チェックだチェック」!!


#ときメモ30周年ライブ 両日無事終了しました!
ありがとうございました!!

DAY2のセットリストを公開します。 pic.twitter.com/igid3TjBZi

— ときめきメモリアル 30周年は2024年5月27日! (@tokimeki573) May 19, 2024

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