認知症患者数は2030年に500万人超となる推計だ

認知症の患者数が2030年に523万人にのぼる見通しとなった。高齢者の7人に1人が認知症患者となり、働き手も企業も介護と仕事の両立という難題に直面する。社会全体で予防や治療、介護に取り組むことが欠かせない。

厚生労働省研究班(代表者・二宮利治九州大教授)が8日、推計を発表した。認知症患者は22年の推計から80万人増え、30年時点の高齢者の14%を占める。

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「認知症予備軍」とされる軽度認知障害(MCI)の患者数も増える。MCIとは、認知症の手前の段階にあたり、認知機能が年相応よりも低下している状態を指す。30年に593万人、60年には632万人まで達する推計だ。

年齢別の認知症患者の割合を見ると、65〜69歳は1.1%にとどまった一方、75〜79歳は7.1%、90歳以上では50.3%と後期高齢者に多い。

仕事と介護を両立する「ビジネスケアラー」は増加の一途だ。経済産業省の推計によると、ピークを迎える2030年時点で約318万人。経済損失額は年9兆円に迫り、大企業1社当たりで見ると年6億円超に上る。親の介護で仕事を続けられなくなる人が続出すれば、職場が機能不全に陥ってしまう。

認知症500万人時代を控えて、予防・治療・介護サービスの三位一体の取り組みが必要になる。今回の調査では30年時点で認知症が523万人と、14年度推計に比べて約3割下振れした。厚労省は予防の取り組みや喫煙率の低下などが背景にあると見ている。

例えば北海道・名寄市は、栄養バランスを考慮したレシピを考えて、食材の買い物から調理実習、試食会まで行う講座などを開講している。

治療面でも新たな動きがある。23年には認知症の新薬が登場した。エーザイと米バイオジェンが開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」は病気の進行を緩やかにする効果を科学的に証明した初めての薬だ。23年に米国と日本で承認を取得し、実際の患者への投与が始まっている。

病気の進行を止めたり、悪化した認知機能を改善したりする薬ではないが、家族の負担軽減が期待される。国内外の製薬大手による認知症薬の開発競争が熱を帯びる。

介護の現場では、人工知能(AI)などのDX技術を導入して、人手不足を解決しようとする取り組みも増えている。

エコナビスタは介護施設の入居者見守り業務を効率化する。ベッドのマットレスの下のセンサーで入居者の呼吸数や心拍、睡眠の深さなどを測定して分析し、異常があれば職員に知らせるAIシステムを開発した。従来は職員が各部屋を訪れて呼吸を確認するなどしていたが、パソコンの画面などから全員の安否確認をできるようになる。

ベネッセスタイルケア(東京・新宿)は、認知症の入居者向けにAIを活用したケアを始めた。認知症の患者は暴言や暴力などの行動障害を起こすことがある。睡眠や食事、服薬、排便などのデータから、行動障害を改善するためにどういったケアをするべきかAIが助言する。

熟練の職員がどのように介護データを分析しているかをAIに読み込ませて開発した。ベテランの勘に頼っていた技能をAIで代替し、職員の負担を軽減する。

最大の課題は介護の担い手不足だ。厚生労働省は25年度にも、訪問介護サービスで在留資格が「特定技能」の外国人が働けるようにする。外国人人材は各国で奪い合いが起きており、魅力的な賃金や働きやすい環境の整備が欠かせない。

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