1通の手紙がわが家に
先月、私が住んでいるマンションに不動産会社から1通の手紙が届きました。
中身は契約更新のお知らせについて。
都内の賃貸マンションに住む私は2年ごとに更新する契約でしたが、内容を確認すると、家賃がこれまでより5000円増えていたのです。
年間で6万円負担が増える計算です。
今の家には4年暮らしていますが、家賃の改定は初めてのことでした。最近子どもも生まれ、何かと出費が多くなるなかでの家賃の上昇。かといって家を買おうにも高くて手が届かない。
その日の夜は泣く泣くサブスクの見直しなど家計の固定費削減に向けた家族会議が開かれることになりました。
岩盤品目が30年ぶり上昇に
調べてみると家賃の値上げはどうやらわが家だけではないことがわかってきました。消費者物価指数にも家賃の値上げがあらわれはじめています。
11月の消費者物価指数(CPI)をみてみましょう。
東京都区部の一般的な賃貸住宅の家賃を示す「民営家賃」は前年同月比で0.9%のプラスになりました。
消費者物価指数における「家賃」はほとんど指数が変化しない象徴とされてきました。
ここ20年は前年同月を下回る「マイナス」の水準が続いていましたが、それが去年の10月から徐々に上昇、ことし11月の上げ幅は0.9%まで拡大し、1994年以来30年ぶりの高い水準にまであがったのです。
また不動産調査会社の調べでも東京23区の分譲マンションの募集賃料は2年前から上昇傾向がより顕著になったといいます。
これは新型コロナウイルスが一時期よりも落ち着き、人の流れが都心部に戻ってきたことが大きな要因だとしています。
築年数別にみると1平方メートルあたりの価格は築21年~30年のマンションは15%も上昇しています。
要因1 そもそもマンションが「高い」
なぜ家賃が値上がりしているのか。
まず要因として指摘されているのが、そもそもマンションを中心に販売価格が高くなっていることです。
特に都心部のマンションの価格は右肩上がり。
不動産経済研究所によりますと、ことし10月に首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)の新築マンションの平均価格は去年の同じ月より40%あまり上昇し9239万円でした。
東京23区に限ると平均1億2940万円。
富裕層など一部の世帯しか都心部にはマンションを購入することができなくなったとも言われています。このためマンションの購入をためらう人が増え、代わりに中古住宅や賃貸マンションに流入してきているとみられています。
こうしたなかで賃貸の需要も高まり、価格を押し上げている要因になっていると指摘されています。
東京カンテイ 高橋雅之 上席主任研究員
「都心部のマンション価格の高騰に伴って、賃貸への需要は引き続き根強い。来年の春に引っ越しなど人流が活発になるので、そのときに都心部の賃貸価格がどうなるか注視したい」
要因2 金利ある世界が影響?
しかしマンションの価格上昇はいまに始まったことではありません。
そうしたなかでもう1つの要因として指摘されているのが、日銀による利上げの影響です。
日銀はことし3月におよそ17年ぶりに利上げに踏み切りました。7月には政策金利を0.25%に引き上げる追加の利上げを決めました。
こうした日銀の動きを受けて、金融機関では住宅ローンの金利を引き上げる動きが広がっています。
住宅ローンのおよそ7割を占めている変動型の住宅ローン金利は、3月に日銀が利上げに踏み切った時は据え置く銀行が多く見られました。
ただ7月の追加利上げを受けて、各行とも見直しを進めました。
新規の借り入れを対象にした変動型で最も優遇する場合の金利でみると、
▽三菱UFJ銀行とみずほ銀行は据え置いていますが、
▽三井住友銀行は9月の0.475%から、11月は0.625%に、
▽りそな銀行は9月の0.34%から、11月は0.39%に、
▽三井住友信託銀行も9月の0.33%から、11月は0.48%に、
それぞれ引き上げました。
こうした金利の引き上げが、投資用マンションを購入したオーナーにも影響したとみられています。
投資用マンションを所有するオーナーからすれば、ローンの金利が上昇すれば、一定期間の激変緩和措置があるとはいえ、ゆくゆく返済が増えることになります。
このためオーナーたちは負担が増えることを見込んで家賃に転嫁しているのではないかと専門家は分析しています。
みずほリサーチ&テクノロジーズ 河田皓史 主席エコノミスト
「賃貸のニーズが高い状況だと、ローンをかかえるオーナ側からすれば、少し強気の価格設定でも、家賃収入を得られる。このため今後も賃貸価格の上昇圧力を高める一つの要因になるのではないか。今後も金融機関の金利見直しが家賃に与える影響は少なからず出てくると思われる」
岩盤を超えるか
家賃や住宅ローン返済など住まいに関連する支出は避けては通れません。
ほかの支出=例えば遊興費やレジャー、ちょっとしたご褒美、習い事などを少しずつ削らなければ家計の収支は悪化してしまいます。
今回は東京の家賃を例に挙げましたが、ほかの地域にもこうした傾向が広がれば、次第に節約を余儀なくされる家計が増え、消費の伸びが鈍化することも予想されます。
コロナ禍からの経済急回復によってエネルギー、穀物、輸送費などさまざまなモノやサービスの価格が上昇。
ウクライナ情勢や円安も加わって輸入コストは上昇し、企業による価格転嫁もあいまって物価は上昇しました。
これが企業の背中を押し、賃上げに勢いがつきました。
ただ、実質賃金はどうでしょうか。
一時プラスになりましたが、再びマイナスに転じ、上昇基調はまだ見えません。
まさに物価上昇を上回る賃上げが実現するのかどうかがカギとなる中で、物価の『岩盤』=家賃が動き出したのです。
物価上昇>賃上げとなってしまうのか、それとも物価上昇<賃上げか。
家賃の動向は、経済が好循環に入るかどうかも左右しそうです。
注目予定
(12月23日 「おはよう日本」で放送予定)
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