人工知能(AI)と原子力発電所――。最先端のテクノロジーと20世紀が生んだ巨大発電インフラが結びつきを強めている。AI向けのデータセンターが大量に消費する電力を賄う手段として、米国のテック大手が原発に着目しているからだ。

東京電力福島第1原発事故の記憶が残る日本をよそ目に、各社は「脱炭素電源」として原発を再評価している。

米グーグルは10月14日、次世代原子炉「小型モジュール炉(SMR)」を開発する米カイロス・パワー(カリフォルニア州)との間で、SMRでつくった電力を調達する契約を結んだと発表した。2030年までに最初のSMRを稼働させた上で、35年までに複数のSMRを追加する。

総発電能力は500メガワット(50万キロワット)と、大型原発0.5基分ほどの規模になる見通し。グーグルは「米国の電力網に24時間365日、脱炭素電力を供給し、より多くの地域社会がクリーンで安価な原発の恩恵を受けられるように支援する」と表明した。

グーグル自身がいち早く顧客に名乗りを上げることで、SMRの開発と普及を後押しする狙いと見られる。同社のスンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)は10月初め、日経ビジネスの取材に対し、データセンター事業での脱炭素電源活用に関連して「太陽光発電への追加投資を検討し、SMRのような新技術の評価を進めている」と語っていた。カイロス・パワーとの契約によって、その言葉を裏付けた格好だ。

テック大手が原発に関心を寄せる背景には、膨大な計算が必要なAIの利用拡大を受けてデータセンターの電力消費が増大していることがある。国際エネルギー機関(IEA)が1月に示した試算によると、データセンター、AI、暗号資産(仮想通貨)に起因する電力需要は22年の約460テラ(テラは1兆)ワット時から、26年には最大で2.3倍の1050テラワット時に膨らむ。

エヌビディアCEO「素晴らしいエネルギー源」

米マイクロソフトも動いた。米大手電力のコンステレーション・エナジーは9月、1979年に米国で最悪といわれる事故を起こしたスリーマイル島原発(ペンシルベニア州)を規制当局の認可を得て28年までに再稼働させると発表した。対象は、事故を起こしておらず、不採算を理由に廃炉が決まっていた1号機。発電した電力を20年間にわたって供給する先はマイクロソフトのデータセンターだ。

米アマゾン・ドット・コムや米エヌビディアなども原発活用に前向きだ。エヌビディアのジェンスン・ファンCEOは9月、米メディアに原子力の可能性について問われ、他の電源とのバランスに触れつつも「原子力はエネルギー源の一つとして、また持続可能なエネルギー源の一つとして、素晴らしいものだ」と語った。

原発はテック大手が抱えるデータセンターに適した電源であるといえる。1つ目の理由は基幹電源(ベースロード)としての適性だ。24時間稼働するデータセンターにとって、発電量の変動が大きい太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーに比べ、原発の安定性は有利だ。

2つ目は原発が脱炭素電源として評価されていることだ。テック大手は脱炭素目標を掲げ、再生エネに積極投資してきた。例えばグーグルは30年までに温暖化ガス排出実質ゼロ(ネットゼロ)を達成する目標を持つ。安定的な稼働が見込め、脱炭素電力を生み出す原発はテック大手にとって期待の電源というわけだ。

脱炭素電力限られる日本

テック大手によるデータセンター建設は日本でも行われている。「ハイパースケールデータセンター」と呼ばれる大規模なデータセンターが次々と建設され、「データセンター銀座」とも呼ばれる千葉県印西市。そんなデータセンターの町を広く知らしめたのが、23年3月のグーグルデータセンターの開設だった。

グーグルはデータセンターの立地場所として印西市を選んだ理由として、優れた労働力、質の高いデジタルインフラ、開発可能な土地といった要素を挙げている。今後はこうした条件に加え、日本でも電力の供給能力やデータセンターに供給される電気の「クリーンさ」が問われるようになる可能性がある。

グーグルは24年6月に出した環境報告書で、同社のデータセンター(外部事業者が所有する施設も含む)の脱炭素電力の利用状況を公開。欧州では多くの国で既に90%以上を達成し、米国でも80%を上回る地域が現れていることを示した。これに対し、日本では東京電力と関西電力についてそれぞれ16%、30%と記載した。

(出所)グーグルの2024年環境報告書から抜粋

アジアは総じて低く、日本だけが出遅れているというわけではない。だが、テック大手がネットゼロへの取り組みを急ぐ中、日本だけは例外ということは考えにくい。

関西電力は原発稼働が強み

先取りするような動きも出ている。関西電力は9月、データセンター開発・運用大手の米サイラスワンとの合弁会社、関西電力サイラスワン(大阪市)を通じ、京都府精華町に関電として初のデータセンターを建設すると発表した。総受電容量が70メガワットのハイパースケールデータセンターだ。テック大手を含むサイラスワンの既存顧客に利用を売り込む。

関西電力サイラスワンが京都府精華町に建設するデータセンターの完成イメージ図(写真=関西電力提供)

国際環境経済研究所理事・主席研究員の竹内純子氏によると「家庭向けの電気料金において、原発を稼働させている電力会社は、そうでない電力会社と比較して2割程度電気料金が安価とされる。産業用の電気料金ではさらに差が大きく、5割程度安価なこともあるようだ」。実際、関電は原発の稼働によって、安価な電気料金を実現しているのが強みだ。

関電の23年度の発電実績を見ると、原発は約421億キロワット時と日本の電力会社の中で最大だ。関西電力サイラスワンの共同CEOで、サイラスワン出身の三島孝史氏は「電気料金はデータセンターのオペレーション上、大事な要素だ。また、原発は脱炭素という位置づけにおいて必要な電源だと考えている」と話した。

関電側の共同CEOである長瀬隆平氏も「原発はデータセンターとの親和性の高い電源だ。(テック大手が原発の利用を進める)最近のトレンドはそれを立証している側面もある」と指摘する。その上で「基本精神として、データセンターにおける使用電源の脱炭素化は当然目指していきたい」と話す。

福島第1原発事故を経験した日本では原発への慎重論はなお根強い。エネルギー基本計画の策定を24年度中に控える中、データセンターの電源としてテック大手が再評価している原発をこれからどうしていくのか、日本は選択を迫られている。

(日経ビジネス 佐々木大智)

[日経ビジネス電子版 2024年11月13日付の記事を再構成]

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