ドム・テイラー氏は国内のアプリ利用率を高めるうえで、ウーバーイーツとの組み合わせがカギになると話す=吉成大輔撮影

深刻化する移動の課題。急増する訪日外国人(インバウンド)に対し、京都や大阪ではタクシー不足が顕著だ。他国に比べても配車アプリの利用率が圧倒的に低い日本。2024年8月から米ウーバーテクノロジーズのアジア・太平洋地域でモビリティー事業を統括するドム・テイラー氏に日本の交通課題をどう見るのか、またアプリ利用拡大への戦略を聞いた。

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――8月に来日されてから、日本の交通事情に関してどのような印象を持っていますか。

「日本の公共交通はものすごく充実していますね。私が前に住んでいたシドニーでは自家用車の所有率は約90%に上りますが、東京では50%以下ということにも表れています。私も所有していた自家用車を手放し、公共交通機関とウーバー、自転車を組み合わせて生活しています」

「一方、地方の交通においては事情が異なります。特に小さな地方都市においては移動の足が確保されているとは言えず、不安定な状況です」

ドム・テイラー氏 ウーバーテクノロジーズ モビリティー事業アジア・太平洋地域代表。英オックスフォード大学で経済史修士を取得。2014年にオーストラリア・シドニーでウーバーに入社。オーストラリア、ニュージーランドで様々な事業責任者を務めたのち、24年8月に家族とともに東京に移住。日本やインド、オーストラリアなど、7地域でモビリティー事業を統括する。24年10月、日本経済新聞社とIMD主催の世界経営者会議で登壇した=吉成大輔撮影

「背景には公共交通機関を担う人手不足があるでしょう。特に新型コロナウイルス禍以降、何万人ものドライバーが離職したと聞いています。これはタクシーに限る話ではありません。また、人口減少も加速していく中、ドライバーは地方からより需要の高い都市部に移ってくるのは、我々の経験則からも予測できます」

「全体的なドライバーの人手を増やすこと、そしてそのためにはドライバーになりたいと思う人を増やすことが重要です。ウーバーはその一助になりたいと思っております」

――ウーバーとして日本市場をどのように捉えているのでしょうか。よりシェアを拡大するため、いま何が必要なのでしょうか。

まずは収益性を高める

「現在、アジア・太平洋地域を収益性を基準に3つのエリアに分けて考えています。最も収益性が高いのがオーストラリアとニュージーランド、次にバングラデシュやスリランカ、インドなど南アジア。日本は韓国、香港、台湾と同様の、3つ目の地域に位置しており、まずは収益性の向上が課題です」

「その点、どのようにして顧客への価値を示していくのかが現在、最も重要です。例えば、日本の交通において特に信頼性や確実性が重要視されていると見ています。我々としてはアプリでの配車依頼を出してから平均で3分32秒(2024年9月時点)で車がやってくるという点は大きな強みであり、ウーバーの信頼性としてもアピールできます」

「ローカル企業との連携やその国独自の文化に根差していくことも重要でしょう。例えば、日本のみなさんはなにかと『ポイント』が大好きですよね。ポイントシステムを取り入れていくのもひとつのアイデアです」

「日本では、政府との慎重な対話が必要不可欠な点もユニークですね。ポジティブな環境整備のために、積極的な対話、協力を続けたいと考えています」

――今年から「日本版」ライドシェアがスタートしました。台数や時間帯、事業者などに制限のある現行の制度についてどのように評価していますか。

規制緩和の動きは評価

「ライドシェアに関して、この1年における規制緩和への動きは目覚ましいものがあり、政府や当局の努力は素晴らしい進歩につながっていると評価しています」

「ただ、台数や時間帯などに制限があり、ライドシェアの制度そのものは限定的です。ついこの間、パートナーのタクシー事業者を視察しに京都に行きましたが、営業所にはタクシーが全くありませんでした。急増しているインバウンドからの需要が理由でしょう」

「一方で、ライドシェアドライバー向けに貸し出しをしている電気自動車(EV)は使われずに営業所に並んでいました。これは非常にもったいない」

「需要に対して追いついていない供給を補い、移動の足を確保する。規制当局とも話し合いを重ねながらそのようなお手伝いをしたいと考えています」

24年3月、ウーバージャパンと石川県加賀市は連携協定を結び「自治体ライドシェア」を開始した。ウーバーアプリを活用し、地元住民がドライバーを務める。運行・安全管理は地元のタクシー会社、加賀第一交通が担う(写真=ウーバージャパン提供)

「地方においても同様です。時間もかかりますが、今後も地方のタクシー会社などと連携をしながら、パートナーシップを拡大していく見通しです。今後近いうちに発表するアナウンスにも期待してほしいですね」

――国内では「GO」や「DiDi」など、ほかの配車アプリも利用率を大きく伸ばしています。ウーバーとしてどのようにシェアを拡大していくのでしょう。アプリ戦略を教えてください。

「ウーバーとしては全方位で利用客を増やしていくという戦略です。ただ、インバウンド客による利用率は驚くほど伸びています。サンフランシスコやシドニー、香港など、各都市ですでに利用している方々が日本でもそのままアプリを使えるという点が大きいでしょう。インバウンド客の利用率は22年に比べ5倍に増えています」

「今後、国内利用客を獲得していくうえで、我々の強みは、すでにUber Eats(ウーバーイーツ)が普及しているという点です。うまく組み合わせる形でアプリ普及を高めていきたいと考えています。例えば、すでに発表している、Uber One(ウーバーワン)というサービスではユーザーの方に利用料金の一部をキャッシュバックし、ウーバーイーツでもウーバーの配車アプリのどちらでも利用できる形にしています。これは我々にしかできない唯一無二のものでしょう」

「日本では、まだ配車アプリの普及率が14%にとどまっています。韓国では54%、オーストラリアでは70%(24年9月時点)という数字を見ると、まだまだ低い水準にあることは間違いありません。まずは今後5年で、流し営業が主流の現状を徐々にシフトさせ、アプリ利用率を高めていくということを主な目標にしています」

(日経ビジネス 玄基正)

[日経ビジネス電子版 2024年11月8日の記事を再構成]

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