中国景気の低迷を受け、業績が振るわなかった日本の産業用ロボットメーカーの米国シフトが加速している。従来、中国関連銘柄とされてきたファナックだが、10月下旬に発表した2024年4〜9月期の連結決算では米国を中心とする米州での売上高が、5四半期連続で中国を上回り地域別でトップになった。さらに25年3月期通期の連結業績見通しも上方修正。11月5日の米大統領選後に、米国を中心に設備投資が加速すると見込む。
背景にあるのが米国内での人件費高騰だ。生産現場で省人化を進める動きが加速。産業用ロボットの需要を押し上げ、米国が最大の得意先として存在感を高めている。
「航空機関係は米ボーイングだけでなく、他の会社でもロボットの受注が増えると予想されている。航空機の製造を自動化したいという声は高まっており、有望な市場だ」。ファナックの山口賢治社長は決算説明会の中でこう指摘した。
山口社長の挙げたボーイングでは、会社側と3万人以上の従業員が加盟する労働組合が新たな労使協定の策定に向けての交渉が難航し、9月中旬からストライキを続けてきた。10月31日には会社側と労働組合が4年間で38%の賃上げなどを柱とする新たな労働協約案で暫定合意したが、人件費は大幅に膨れ上がることになる。
米国では23年、全米自動車労組(UAW)が待遇改善を求めてストを行い、大幅な賃上げを勝ち取った。山口社長は重ねて「製造業ではロボット化、自動化しないと必要なものは造れない時代。我々としても成長が十分可能だと考えている」と話し、人手不足や賃上げが産業用ロボット導入の追い風になると期待する。
既に米国での事業強化を見据えた動きにも出ている。7月には米子会社を通してミシガン州にロボットの営業や保管を担う拠点を整備。1億1000万ドル(約165億円)を投じた。
減収でも米州が地域別最大を維持
24年7〜9月期の米国を中心とする米州の売上高は、前年同期比で7.2%減の505億円だった。米大統領選を前に電気自動車(EV)向け投資などの先行きが見通せず、設備投資を控える動きが広がったことが減収につながった。一方で、中国の売上高は政府による補助金が追い風になって切削加工機などの需要が高まり、前年同期比4.2%増の436億円と増収を確保した。だが、それでも売り上げ規模では米州に及ばなかった。
逆風下でも米州が中国を上回って地域別で最大の売上高を確保したことは、中国から米州へとファナックのビジネスの中心が移っていることを浮き彫りにしている。立花証券アナリストの島田嘉一氏は米州事業について「現在は在庫調整が進んでいるという見方が会社側から示された。今後ロボットの需要が拡大していく動きは高評価だ」と話す。
安川電機、中国市場回復に「期待値とギャップ」
ファナックのライバルである安川電機は10月上旬、25年2月期通期の売上高と営業利益を下方修正した。足を引っ張ったのが中国で、市場全般の回復が当初の想定を下回った。小川昌寛社長は決算会見で「我々の期待値とはギャップがあった」と説明した。
ファナックと同様に中国関連銘柄と位置付けられてきた安川電機でも米州優位は鮮明だ。24年6〜8月期の地域別売上高は米州が325億円と、中国(268億円)を5四半期連続で上回った。
中国景気の回復が見通せない中、米国市場をさらに深掘りするため、今後数年で300億円規模を投じ、米国にロボットの新工場を立ち上げる計画だ。
中国国家統計局が10月31日に発表した同月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は、50.1。好不況の目安となる50を6カ月ぶりに上回ったが、先行きの不透明感は根強い。こうした状況が続く限り、産業用ロボットメーカーの米国シフトはさらに進むことになりそうだ。立花証券の島田氏は「新政権の方針が固まればユーザーの投資マインドが改善し米国のロボット需要拡大につながっていくのではないか」と話す。
(日経ビジネス 齋藤徹)
[日経ビジネス電子版 2024年11月5日の記事を再構成]
日経ビジネス電子版
週刊経済誌「日経ビジネス」と「日経ビジネス電子版」の記事をスマートフォン、タブレット、パソコンでお読みいただけます。日経読者なら割引料金でご利用いただけます。 詳細・お申し込みはこちらhttps://info.nikkei.com/nb/subscription-nk/ |
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。