産業技術総合研究所(茨城県つくば市)は、プランクトンのミドリムシから抽出した成分を使った接着剤を開発した。自動車用構造材接着に使う既存の接着剤の強度に匹敵する力でアルミ材を接着できる。従来の接着剤は解体の際、はがすのが面倒だったが、今回開発した接着剤は加熱すると容易にはがれ、リサイクル時の手間も省ける。
旭化成と共同開発した。ミドリムシの細胞に含まれる多糖(パラミロン)に脂肪酸を加え、「パラミロンエステル」と呼ぶ粉末状の化合物を有機合成の手法で生成。セ氏200度程度に加熱して圧力を加え、厚さ0.05ミリメートルの透明なフィルムに加工し、縦5ミリ、横2.5センチメートルの大きさに切断する。
接着面を安定させるためレーザー処理したアルミニウム合金の板にフィルムを貼り、重ね合わせて熱を加えてプレスし、冷却して2枚のアルミニウム片を接着した試験片を作成した。万能試験機で両端を固定した試験片を引っ張ったところ、ミドリムシ由来の接着剤の横方向への力に耐える指標(引張せん断強度)は、30MPa(メガパスカル)だった。
強靱(きょうじん)性や耐熱性、耐水性、耐薬品性に優れる石油由来のエポキシ系接着剤の強度(20〜30MPa)に匹敵する。最大18MPaだったバイオ材料ベースの接着剤の強度も上回る。
ミドリムシ由来の接着剤で接着した試験片を破断させるために要する力は、重さに換算すると約380キログラムで、十分な強度を確保できる。「パラミロンエステル」は分子が整然と並んだ構造で、加熱で溶け再冷却する際、アルミ材の隙間に入り込む。この結果、大きな強度が得られるという。
解体も容易だ。3日、産総研で公開した実験では、セ氏約200度に再加熱すると頑強に接着していたアルミ片が簡単にはがれた。解体後、再加熱して接着を繰り返した際、「引張せん断強度」の維持率は90〜100%で、何度でも接着できる。部材の再利用に役立つ。
軽量化を進める電気自動車(EV)などの構造材としてアルミニウムが使われる。産総研が開発したミドリムシ由来の接着剤は、必要な強度を確保し材料を接着できる。
廃車後、自動車はリサイクルされる。だが、エポキシ系接着剤で接着した構造材は、解体が難しい。焼却処分するか、極低温の液体窒素で凍らせた後、専用器具で力を加えて強引に外すなど、多くの手間と時間がかかる。
ミドリムシ由来の接着剤は、加熱するだけで容易に解体できるため、部品の再利用などリサイクルの効率が上がる。自動車向けだけでなく、軽量化のためアルミを使う航空機や風力発電の風車、リサイクルが必要な電子機器向け用途も開拓する考えだ。
(伏井正樹)
▼パラミロン光学顕微鏡で確認できる小さな藻(微細藻類)の一種ミドリムシ(長さ約50マイクロメートル)が、細胞内に蓄積するグルコースが2000個程度連結してできた多糖と呼ばれる分子。光合成ができない環境下や糖などの栄養源が枯渇した場合、パラミロンを代謝してエネルギーを生み出す。ミドリムシが生命活動を維持するための非常時の栄養源になっている。
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