知っておくべきこと:
・肌のヘルスケアへの注目が高まっている。アーリーステージ(初期)やミッドステージ(中期)のスタートアップは遠隔医療ビジネスモデルやAIによる分析、バイオテックを活用し、新たな策を生み出している。
・新興勢が力を入れている分野は、皮膚科医によるオンライン診療、AIを活用した肌の状態の遠隔モニタリング、日々のケアのための自宅での肌の状態の分析、健やかなエイジングのための新しい療法、マイクロバイオーム(細菌叢=そう)のバランスを整える策だ。
・専門的で科学的根拠に基づく自分の状態に合ったスキンケアへの需要から、スマートフォンによる在宅診断やAI解析が今後伸びるだろう。
皮膚は人体最大の臓器だ。米国では5人に1人が生涯で皮膚がんにかかる点を踏まえると、肌の健康維持は心身全体の健康と幸福を左右する。
しかも、世界のスキンケア市場の規模は1810億ドルに上る。
消費者のスキンケアに対する需要は美容や日々のケアにとどまらない。肌の健康への関心も高まっている。
消費者は肌の変化をリアルタイムでモニタリングし、自分の状態に合ったアドバイスを受け、様々な懸念に対処するため科学的根拠に基づくケアを受けたいと思うようになっている。
遠隔医療ビジネスモデル、AI解析、バイオテックの進化により消費者向けの新たな策が開発され、肌の健康への投資活動も芽生えつつある。
既存ブランドにとって、こうした新興勢は新たなチャネルの提携や製品を手に入れる機会をもたらしてくれる。
今回のリポートでは、肌の健康と予防的なケアに関する新たなトレンドと、その形成に携わるスタートアップを紹介する。
企業の健全性を測定するCBインサイツのモザイクスコアや従業員数の伸び、ビジネス関係などのデータに基づき、勢いのあるスタートアップを絞り込んだ。このうち、2011年以降に創業し、ここ数年で外部から資金を調達した企業を分析対象とした。
オンライン診療とAI、皮膚科医療のアクセス改善
多くの人はそもそも、皮膚科にかかろうとしてもなかなか受診できない。
米国家庭医療学会(AAFP)が引用したある調査によると、皮膚科を受診できるまでの平均待ち時間は1カ月を超える。初診料も平均175ドルに上る。
乾燥肌の管理でも、皮膚がんの一種であるメラノーマ(悪性黒色腫)の検査でも、消費者はより良いサポートを求めている。このため、専門医によるオンライン診療や精密なセルフモニタリングを提供する企業が支持を得ている。
皮膚科医によるオンライン診療
英ゲットハーリー(GetHarley):直近の資金調達(以下同):5200万ドル、シリーズB(23年6月)
・スキンケアに特化したオンライン診療プラットフォーム。皮膚科医や美容外科医からスキンケア製品に関するアドバイスやサポートを受けられる
・相談費用は約50ドルで、500以上のブランドと提携している
・同社のモザイクスコアは全体の上位2%以内。投資家から強力なサポートを得ているほか、提携企業が増えているなど成長している
キュアスキン(CureSkin、インド):2000万ドル、シリーズB(24年3月)
・400以上の肌や髪の状態を解析できる画像認識アプリを活用した皮膚科医によるオンライン診療を提供している
・皮膚科医が解析結果をチェックし、患者の状態に応じた治療方針を決める
・従業員数は過去2年で倍増し、米Yコンビネーターや米コースラ・ベンチャーズなどの有力ベンチャー・キャピタル(VC)から資金を調達している
米ピクション・ヘルス(Piction Health):600万ドル、シードラウンド(24年5月)
・AI解析により状態を速やかに評価し、的確な治療プランを提供する皮膚科のオンライン診療を提供
・48時間以内に診察し、肌、髪、爪の状態に応じた治療プランを策定する
AIを活用した肌の遠隔モニタリング
Helfie(オーストラリア):インキュベーター/アクセラレーター(24年7月)
・AIを搭載したモバイル検査アプリで皮膚がんなどの疾患を検知する
・オーストラリアのドラッグストア大手ケミスト・ウェアハウスやオーストラリアの遠隔医療フェニックス・ヘルスと提携している
・従業員数は前年比約50%増の30人近くに達する
スキナイブ(Skinive、オランダ):2000万ドル、助成金(23年1月)
・ホクロやニキビ、発疹など50以上の肌の状態を自分でチェックできるマシンビジョン搭載アプリを手掛ける
・自分の肌をモニタリングし、医療機関を受診すべき時期をより正確に把握できるようにするのが狙い
メタオプティマ(MetaOptima、カナダ):190万ドル、シリーズB(23年5月)
・医師と消費者向けにサービスを提供。消費者向けアプリ「Molescope」でホクロを自己診断し、皮膚科の診察も受けられる
・このアプリはAI解析ソフトと皮膚がんの患者270万人以上と画像1000万枚を保管する独自データベース「DermEngine」に連携されている
マイスキン(Miiskin、デンマーク):38万ドル、シリーズ非公表のラウンド(23年12月)
・AIを活用したホクロの追跡と、米国で皮膚科医によるオンライン診療を提供する。受診費は30〜60ドル
・アプリのダウンロード件数は100万件を超え、月間訪問者数は10万人に上る。調達資金を活用し、米国での事業を拡大する
英プロトン・ヘルス(Proton Health):12万ドル、シードラウンド(24年9月)
・皮膚科医と個人向けのAI業務支援ソフトを開発している
・機械学習を搭載したアプリがいつでも利用可能な肌の指南役になり、肌の状態を追跡、理解、管理する
・湿疹、ニキビ、感染などを対象としている
スキンビジョン(SkinVision、オランダ):インキュベーター/アクセラレーター(19年9月)
・AI搭載アプリで医療レベルの評価と予防的モニタリングを提供。単発利用とサブスクリプション(定額課金)プランでの利用が可能。利用料は約7ドルから
・この5年間外部から資金を調達していないが、従業員数は過去2年で約40%増え、40人に達するなど成長し続けている
日々のケアのための在宅肌分析
消費者は医療指導に加え、自分の状態にぴったり合うブランドと日々のケア方法を提案してほしいと考えている。新興勢は消費者向けアプリにより、自宅にいながらにしてこうした分析を受けられるようにしている。
ルルラボ(Lululab、韓国):1300万ドル、シリーズC(22年7月)
・ブランドや小売り向けに、AIによる肌分析アプリと1人ひとりに応じたケア製品を提案できるオンラインストアを手掛ける
・従来のRGBカメラよりも肌を詳細に分析できるアプリを開発して在宅サービスを改善するため、24年8月にベルギーのスペクトリシティと提携した
・AIを中心にした十数件の特許がルルラボの技術を支えている
ヘウトAI(Haut.ai、エストニア):220万ドル、シード(23年11月)
・小規模なブランドや企業のアプリで肌分析ツールや商品を提案するホワイトレーベル型ノーコードシステムを手掛ける
・150以上の多次元の顔のバイオマーカー(生体データに基づく指標)と15種類以上の肌の特徴を評価できる
・米美容小売りチェーン大手アルタ・ビューティーや欧州の薬局チェーンsudameapteekなどと提携している
米エーシー(Acie):15万ドル、転換社債(24年8月)
・肌の状態をセンサーで測定するAI機器を開発した
・モバイルアプリとの併用により肌の状態をリアルタイムで追跡するほか、日々のケアのフィードバックも提供する
バイオテック
新興勢の最近の活動では、新たな成分浸透メカニズムやマイクロバイオームのバランスを整えるスキンケアが目立つ。
健やかなエイジングのための新しい療法
米アワーセルフ(Ourself):2300万ドル、シリーズB(23年9月)
・老化や乾燥のサインに対処するため、成分が皮膚により深く浸透する「tiered-release」技術を開発し、特許を取得した
・米ライトスピード・ベンチャー・パートナーズや米フォアランナー・ベンチャーズなどの有力VCから計6000万ドルを調達している
米エレメント・エイト(Element Eight):600万ドル、シリーズA(23年11月)
・独自の手法により酸素を活用してアンチエイジング成分を肌の細胞に浸透させるクリームを手掛ける
・医学博士と博士号取得者から成る16人のチームが同社の研究開発を支えている
・セフォラのマーティン・ブロック元最高経営責任者(CEO)は諮問委員として、販売パートナーの確保を支援している
米Quthero:50万ドル、助成金(24年7月)
・創傷の治癒と健やかなエイジングのため、5件の特許技術に裏打ちされた組織再生クリームを開発した
・24年にはD2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)サイトなど商品販売体制を整えるため、エクイティ(株式)と借り入れにより計190万ドルを調達した
マイクロバイオームのバランスを整えるケア
英ルナ・デイリー(Luna Daily):250万ドル、シードVC-II(24年7月)
・女性向けにマイクロバイオームのバランスを整えるボディーケア商品を提供
・従業員数は過去2年で2倍以上に増加。セフォラを通じて米国で商品を販売している
・直近の資金調達ラウンドでは食品・日用品大手の英ユニリーバがリード投資家を務めた
Lactobio(デンマーク):買収(23年12月)
・プロバイオティクスとマイクロバイオームについて研究し、スキンケアへの応用やサプリの開発に取り組む
・ニキビなど皮膚疾患の治療法を含む9件の特許を出願している
・仏化粧品大手ロレアルによって買収。生きた細菌を活用した新たな製品の実用化を支援する
今後の見通し
肌の健康維持に向けたトレンドとスタートアップの活動の背景には2つのテーマがある。
・専門的で科学的根拠に基づいたケアへの需要の高まり
・1人ひとりの状態に応じたケアにより、健康を自分で官理する能力を強化
在宅診断デバイスやAI分析のさらなる進化により、こうしたアプローチは今後伸びるだろう。
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